今年の紅葉は例年より一週間ほど早いと聞き、緊急企画を発動。本命を日光から足尾に抜ける細尾峠の旧道にし、ついでにとその前日に、半月山から中禅寺湖に浮かぶ八丁出島と男体山の紅葉を眺めることにしました。
半月山に上るには、その前に有名な『いろは坂』を上らなければなりません。半月山に上るだけでも大変なのに、その前にいろは坂があるとなると、ジオポタ的にはかなり厳しい企画となります。ということで、メンバーの参加はたったの一名。(笑) しかし、勇敢なビジター二名が参加くださり、なんとか企画らしいものになったのでした。
雲一つない紅葉日和です。スタートは東武日光駅。
ここからいろは坂へは、車ならR120を使うので、できるだけこの国道を避けてその上り口までのルートを作ります。まずは国道の北側、大谷川(だいやがわ)との間の道を行きます。するとすぐにごつごつとした山が見え出します。あれはきっと男体山の北側に位置する女峰山あたりでしょう。
この山を眺めながら大谷川沿いを行くと、すぐに国道に合流します。そこには神橋(しんきょう)が架かります。この橋はこのすぐ北にある日光二荒山神社の建造物で、はね橋という特殊な構造形式を持ち、山口県の錦帯橋、山梨県の猿橋とともに日本三奇橋の一つに数えられています。国の重要文化財であり世界遺産にも登録されています。
ここに最初の橋が架けられたのは奈良時代の末で、その後江戸時代に現在のような形の橋になったそうです。その江戸時代から、ここは神事や将軍が神社にお参りに行く時など特別な時のみ使用され、一般の人々は通行できなかったといいます。現在も一般的には渡ることはできません。
神橋の少し先で、国道から大谷川沿いの道に入ります。
国道は行楽の車の往来が激しいのですが、この道に入ったとたんに、車はほとんどなくなります。
大谷川は浅く渓流という趣で、このあたりまではまだ降りてきていないかと思われた紅葉もかなり進んでいて、なかなかいい感じです。
橋を渡り大谷川の右岸を行くと小さなロータリーがあり、川沿いは地道になります。この地道を行けば、慈雲寺から憾満ガ淵(かんまんがふち)と呼ばれる素敵なところに続くのですが、今日はいろは坂と半月山という二大イベントがあるので、ここは寄り道せずにロータリーから続く舗装路を行きます。
この道は憾満ガ淵に沿って延びる細道で、ひっそりとした木立の中を進んで行きます。
この細道の先は大谷川に突き当たっておしまいのようなので、その手前でR120に出ることにします。
ここで大谷川を渡るのは吊橋の大日橋。
この下を流れる大谷川は、さらに細い激流になっています。
さて、国道に出たら、ひたすらいろは坂を目指します。国道は紅葉シーズンは特に車が多いので、日光宇都宮道路に入る直前に旧道に入ります。この旧道は嘘のように車が少ない。
道端でごそごそしているものがいると思ったら、それはお猿さんでした。
旧道が足尾方面に向かうR122の付け根、細谷大谷橋で再びR120に合流すると車が多くなり、結構な勾配の上りになります。もちろんここまでも上り基調ではあるのですが、いよいよいろは坂のプロローグが始まったな、という感じ。
わっせ、わっせと上って行くと、ほどなく馬返(うまがえし)に到着。ここはいろは坂の入口直前にある休憩所ともいえる施設で、30台ほど停まれる駐車場とWCがあります。
ここの標高は870m。道脇のドウダンツツジは真っ赤で、山もかなり紅葉してきました。この調子なら中禅寺湖あたりの紅葉はかなり期待できます。
いろは坂に入ってしまうと休憩ポイントはほとんどないので、ここで一休み。(明智平までWCなし。観光シーズンのみ黒髪平に簡易WC)
休憩のあとはいよいよいろは坂です。しかし実は、ここまででかなりへろへろしています。本当にいろは坂を上り切ることができるのか、という一抹の不安が。。
馬返のすぐ先で、道は第一いろは坂と第二いろは坂に分れます。いろは坂は上りと下りがそれぞれ専用になっていて、上りは第二です。大谷川を渡ると、いよいようねうね道の第二いろは坂に突入!
第二いろは坂は上り専用。つまり途中で、や~めた、といって下って戻れないのです、この道は。
突入したからには標高差にして400m、8km先の明智平まで上るしかありません。
さてさて、第二いろは坂は大谷川を渡ってからは500mほど直線区間が続きます。
そして、うねっ、うねっと二回カーブがあり、そのあと少し直線があり、うねっとまたカーブします。
『
いろは坂ですから、いろは47文字とか48文字になぞらえて、カーブはきっと47だか48あるのでしょう。それぞれのカーブには『いろは』の文字の標識が立っていると聞いていましたが、さっきのカーブには標識はなかったような。。
ん~、どれがカーブでどれがどうじゃあないの? これはよく分からなかったのですが、序盤のいくつかのカーブには『いろは』が割り当てられていないようです。しかしとにかく、そのうち標識が現れるようになります。ここは『は』。
本日の参加ビジターは、サオリちゃんとプロちゃん。サオリちゃんは普段はロードバイク仲間と高速走行を楽しんでいるそうなのですが、な、なんと、坂は上ったことがないって。。
『もう、"い" からきついです~』 と、そのサオリちゃん。
まあ、辛くなったら押せばいいのさ! ちなみにいろは坂の平均勾配は6%ほどで、序盤は7~8%と少しきつく、そのあとは比較的穏やかになります。全体を見渡しても10%を超えるところはほとんどないので、上級者でなくともなんとかなると思います。
この上りにはあまり眺望はないのですが、それでも所々で視界が開けることがあります。
上るにつれ、周囲の山々の色合いはいい具合になってきます。
いろは坂をロードバイクで上る人はたくさんいます。こうした人々のほとんどは、速く走ることに主眼を置いていますから、どんどん行きます。しかし、私たちは特に速く走ることには興味はないので、のんびり。
序盤のいくつかのカーブが終わると、少し長い直線区間が現れます。そこには駐車帯が設けられているので、ここで小休憩を。そこから見る北の山は、黄色からオレンジ、そして薄茶への素晴らしいグラデーションです。その上に、え、あれ富士山? という感じの白いものが見えます。方向からして富士山はあり得ません。このあたりで富士山と間違いやすいものの筆頭は浅間山ですが、それも方向が違う。写真を拡大してみると、白い部分の外側に茶の輪郭が見えます。これ、いったいなんでしょう。
道路際の木々も色付いてきました。真っ赤なのはモミジ。いい具合のオレンジも増えてきています。
小休憩のあとは、細かいつづら折れが続くようになります。いよいよいろは坂の佳境で、6~7%が続いていきます。
こうしたところは、慌てず焦らず、ゆっくりマイペースで上ります。
つづら折れを幾度繰り返したか、とあるカーブの先に車が何台か停まっているところに出ました。
黒髪平に到着したようです。
黒髪平は、いろは坂の終着にある明智平から、高度で100m、距離にして3kmほど下にあるちょっとしたスペイスで、標高は1,173m。
下にはこれまで上ってきた第二いろは坂のカーブが見え、遠方には日光市街までが見渡せる眺望ポイントです。
北には大真名子山から女峰山までが連なり、その下に荒々しい岩肌の屏風岩が見えます。
このあたりで、紅葉は盛りといっていいでしょう。微妙なグラデーションの木々が山を覆っています。
黒髪平まで辿り着けば、いろは坂の終点、明智平まではもう一踏ん張りです。
さあ、あと一息!
ここまで、車はもちろん多いのですが、これは思ったほどではありませんでした。
なんとか我慢できるくらいの交通量の中、黒髪平からさらに高度を上げていきます。
今日は車、思ったより少ないね、と言っていたところで、渋滞発生。車が数珠繋ぎになっています。明智平が間近ということでしょう。みんな明智平の駐車場に入るために、渋滞が発生しているのです。
観光バスに進路を絶たれた私たちは、完全に停止している車と車の間の通行させてもらうことにしました。自転車の走行は道路の左側端と決まっていますが、こんなところではなんとか、こうしたことも許されるでしょう。
動くに動けぬ車を横目に進んで、いろは坂の頂上である明智平(標高1,270m)に到着。
お~、ついに第二いろは坂を上り切りました。やった~~
東武日光駅からでは標高差700mです。これを、なんとか上り切りました。
明智平は日光の展望の名所として名の挙がるところで、ここからは男体山の勇姿を間近に見ることができます。しかし、これだけで展望の名所というのはちょっとどうかな、と思うのですが、実は本当の展望の名所は、ここからさらにロープウェイで上がった、明智平展望台というところにあるのです。
その明智平展望台からは、中禅寺湖とそこからそそり立つ男体山、そして中禅寺湖から流れ落ちる華厳の滝(けごんのたき)と、今では幻の滝となった(ほぼこの展望台からしか見えない)白雲滝(しらくものたき)が眺められるのです。
しかしこの日のロープウェイは長蛇の列なので、ここでは休憩しつつ、日光名物のゆばで作った海老の湯葉巻きを試しました。これはなかなかおいしいです。
明智平で一息付いたら、中禅寺湖へ向かいます。明智平から中禅寺湖へは、長さ900m強の明智平第二トンネルを抜けなければなりませんが、これには自転車でも通れるだけの幅がある歩道があるので、これを通らせてもらいます。
トンネルを抜けてちょっと下ると、中禅寺湖の畔に建つ大鳥居が見えてきます。この鳥居は、日光二荒山神社中宮祠のものです。日光二荒山神社は神橋の近くの本社と男体山の山頂の奥宮、そしてそれらの中間となる中禅寺湖畔の中宮祠とがあるのです。
やっほー、中禅寺湖! という感じのこの開放感ある空間は、何か清々しさを感じます。
これは、ここまでずっと周囲が木々に覆われた、第二いろは坂を上ってきたからでしょう。
さて、大鳥居からは歌ヶ浜(うたがはま)を通り、半月山へ向かいます。
歌ヶ浜から見る中禅寺湖と男体山は素晴らしい。
この日はボートも大賑わいです。
均整が取れた男体山は、黄色からオレンジ、そして薄茶までのきれいなグラデーションの衣を纏っています。
湖畔を南に進んで行くと、別荘ゾーンになります。
別荘といえば軽井沢を思い浮かべる方が多いと思いますが、その軽井沢の前に別荘地として人気だったのが、ここ日光でした。
ということで、このあたりには各国大使館の別荘がずらりと並んでいます。まず最初に目にするのはフランスのそれです。ここは現役の別荘で一般には非公開。もちろん私有地ですから、みだりに立ち入ってはならないのですが、実はメンバーの中に関係者がいるので、今回は特別に見学させていただきました。
フランスの隣にはベルギーがありますが、それはここ中禅寺湖でも同じで、このフランス大使館別荘に隣接してベルギー大使館別荘が建っています。
湖畔の道は、立木観音こと日光山輪王寺の別院である中禅寺の正面にアプローチします。この立木観音の山門をかすめてさらに進めば、イタリア大使館の別荘入口があります。この別荘は現在公園になっており、公開されていますから、半月山から戻って時間があったら見学するとしましょう。
イタリア大使館別荘の入口を過ぎると、半月山に繋がる上りが始まります。現在は県道250号となったこの道は、かつては中禅寺湖スカイラインという名の有料道路でした。
『えっ、ここからまだ上るんですか~』 とプロちゃん。
『いろは坂は前菜、本日のメインディッシュはここからですよ。』 とサイダー。
『え~、絶対ムリ~。いろは坂でエネルギー使い果たしちゃった~』 とサオリちゃん。
中禅寺湖スカイラインは、いろは坂より勾配がきつい。下を見ながら走るサオリちゃんに、
『上を向いてはしろう~』 と呼びかけるサイダー。
そしたら、ほら、こんな紅葉が。
そして、ここにはスカイラインの名に恥じぬ素晴らしい眺望があります。
こんなふうな。ここは最高です。
じわじわと上っていけば、下に中禅寺湖と上ってきた道が見えます。
だいぶ上ってきました。
中禅寺湖スカイラインは、中禅寺湖から標高差300mを上ります。平均斜度は5%程度で、この数値だけを見ればいろは坂より簡単に思えますが、斜度がきついところが多く10%超えもあるので、いろは坂よりかなりきつく感じます。
この道がいいのは、展望に加え、車がほとんど来ないこと。いろは坂は渋滞していたのに、ここはがらがらです。そしてどういうわけか、自転車の人もほとんど見かけません。
えっこらよっこらしながら、なんとか中禅寺湖展望台(半月山第一駐車場)に到着。ここから見る中禅寺湖と男体山は、なかなかです。
左に視線を移せば、有名な八丁出島が見えるのですが、昼を過ぎたこの時間帯は陰となっていて、あまりぱっとしません。
お昼は中禅寺湖スカイラインを上り切ってからと思っていたのですが、おなかすいた~、ということで、ここのベンチでお弁当を。
お弁当のあとは、中禅寺湖展望台から中禅寺湖スカイラインの終点、半月山第二駐車場まで駆け上ります。ここは2kmで50mの上り。最高標高点は終点の少し手前にあり、1,620m。
いや~、駆け上るつもりが、この先はかなりきつくヨタヨタ。最高標高点付近は、きつい~
しかし、なんとか中禅寺湖スカイラインの終点、半月山第二駐車場に到着です。
やった~ と安堵の笑顔の、サオリちゃんとプロちゃん。
東武日光駅からここまで標高差1,000m以上を、ついに上り切りました。ウォ~
半月山第二駐車場は半月山以外の三方に眺望があり、この山並みはきれい。
これで本日の前菜とメインディッシュ、いろは坂と半月山への上りは終了です。
ここからは、デザートにいきましょう。
本日のデザートは半月山展望台。
第二駐車場から半月山展望台(1,720m)までは0.6kmで、120mの上り。ちょっとした登山です。
まず、クマザサが生い茂る斜面を直線的に登り出し、その後やや勾配が落ち着くと、木々の中の山道となります。
登ること20分、ちょっとハヒハヒしつつ、半月山展望台に到着です。
ここからは、紅葉シーズンになると必ず放映される八丁出島が良く見えます。残念ながらこの時間帯は八丁出島のこちら面は陰となってしまっていますが、頂部から陽のあたる反対側が望め、まずまずの景色です。
ここでニュースと同じように、一隻のボートが白い航跡を残しながら、八丁出島に近づいていきました。
中禅寺湖と反対の南側を望めば、明日向かう足尾の山からずっと先までが見渡せます。
空気が澄んでいれば、ここに富士山が写っていたのですが、この時は残念。
八丁出島を眺めたら、やってきた中禅寺湖スカイラインを下ります。
行きはコワイが帰りはヨイヨイ。この素晴らしい下りは、動画でどうぞ。
あっという間にイタリア大使館別荘まで下ってきました。
なんとかぎりぎり見学時間に間に合ったので、大急ぎで別荘に駆け込みます。
素敵な紅葉の下には鹿がやってきていました。
このイタリア大使館別荘は1938年(昭和3年)に建てられ、1997年(平成9年)まで歴代の大使が使用していたそうです。
設計は日本建築界に大きな影響を与えた、チェコ出身のアントニン・レーモンド。
二階は湖に面して寝室が並び、山側には小さなラウンジのような休憩室があります。
一階は書斎、居間、食堂がワンルームとなった大きな空間で、その前、湖に面して気持ちのいい広縁があります。木の千鳥格子の壁や独特の天井がレーモンドらしい。
広縁を出ると、中禅寺湖に突き出した桟橋があります。おそらく大使はここからヨットで出かけたのでしょう。
その桟橋の東には広いデッキがあり、ゆったりと中禅寺湖の畔で過ごせるようになっています。
デザートのあとの一杯はこちら、華厳の滝。
華厳の滝は中禅寺湖から流れ落ちる、落差97mの滝で、日本三名瀑の一つに数えられています。豪快に流れ落ちる滝と対照的なのは、中段部分から簾状に並んで流れ落ちる、十二滝と呼ばれる無数の滝。これらの滝は、その後大谷川となって神橋をくぐり抜け、日光市町谷で鬼怒川に流れ込みます。
この華厳の滝で、本日のフルコースはめでたく完成です。ここからは食後酒。
夕闇が迫る中、華厳の滝を出れば、すぐに第一いろは坂に入ります。上りの第二いろは坂は『い』から『ね』までの20のカーブ、下りの第一いろは坂は『な』から『ん』の28のカーブがあるそうです。合計48のカーブですね。渋滞する車を横目に、慎重にこの第一いろは坂を下ります。
第二いろは坂の分岐、馬返まで快調に下り、その後もずっと下り続けて、無事、日光駅に到着。宿泊組はその後も今市まで快調に下り続けます。
今日は最高のお天気に最高の紅葉でした。さすがに、いろは坂と半月山のダブル上りはかなりきつかったけれど、上った甲斐がある素晴らしい紅葉でした。