2015年の紅葉狩りは尾瀬に決定。その尾瀬へのアプローチとして、群馬県の水上(みなかみ)から照葉峡(てりはきょう)を通り、坤六峠(こんろくとうげ)を越えるコースにしました。
東京から新幹線で高崎まで出、上越線に乗り継ぐと、右手に赤城山、左手に榛名山が見えてきます。関東平野が閉じ、利根川の谷が狭まって徐々に山の気配が強くなってくる。車窓の両側に山が迫るようになり、出発から2時間ほどで水上駅に到着。
水上駅から利根川に沿って北へ進むと、すぐ、上越線の鉄橋が見えてきます。
その鉄橋の先で利根川を渡り右岸に出ると、両側が木々に囲まれた気持ち良い道となり、これで国道へ向かいます。
国道に出、湯檜曽駅の手前の大穴から水上片品線(r63)に入ります。
このあたりは標高500mほどで、周囲の山々もまだ深い緑。
大穴では利根川も二手に分れています。国道沿いを行く川は湯檜曽川と名を変え、このr63に沿うのが利根川の本流。
湯檜曽川を渡ると穏やかな上りになります。
徐々に高度を上げて行く中、周囲をよく見れば、木々の中にはうっすらと色付いたものも現れるようになります。
水上から1時間ほどで藤原ダムに到着。
『ここまでの上りも意外ときつかったよ~』 と左のジーク。
『うわ~、湖の向こうのすごく高いところに道が通っているよ。あそこまで上るの?』 と右のサリーナ。
展望デッキでひと息付いたら、藤原ダムによって塞き止められてできた藤原湖を横目に上り出します。
藤原湖周辺の山も、まだ紅葉の準備を始めたばかりで、わずかに赤っぽくなっているだけですが、その中に一本だけ鮮やかな黄色のイチョウが立っています。
覆道を抜けると、道上にある鮮やかな黄色の木が目に飛び込んできました。そしてオレンジ色の木もいくつか。
藤原ダムから見えた高いところにあった道は、どうやらこの上にある発電所へ行くためのもののようで、私たちが通っているのはそのずっと下でした。あそこまで上らなくて済んで、よかったぁ~
藤原湖の東岸を進んで行くと、いくつかの小さな集落を通り抜けます。その里には赤く色付いた桜の木も見られます。
藤原湖の幅が狭まり、再び川の様相を呈するようになると、一本の道が分岐し、その先に宝川沿いへ行くための奥利根橋が見えます。
あれを行くと巨大な露天風呂と熊で有名な宝川温泉ですが、私たちは今回はそちらではなく、利根川本流を遡ります。
その後谷底に消えて見えなくなっていた利根川が再び見えるようになると、それは須田貝ダムで塞き止められてできた洞元湖です。この湖畔の山には所々、黄色やオレンジ色の木が見られます。
『だいぶ色付いてきたね~』 と山の木々を眺めながら、ここでひと息付きます。ここまで全体としての勾配はあまりきつくはないけれど、ずっと上りで、もちろんたまにはきつい上りもあったのです。
昼飯処の湯の小屋温泉までもうすぐ、とひと漕ぎすると、突然目の前に巨大な構造物が現れた。ド~ン、という感じで。
『お~、これは見事~』 とサリーナ。
堤高158mの奈良俣ダムです。この高さは利根川水系では第一位、全国でも第三位になるそうです。見てわかるように岩が積まれたロックフィルダムで、こちらから見るとその勾配は45度くらいあるように見えます。
奈良俣ダムの大きさに圧倒されて、しばしその姿を眺めたら、そのすぐ上にある湯ノ小屋温泉に向かいます。そこには何軒かの温泉宿と茶屋があるので、そのうちの一つで昼食です。
湯ノ小屋温泉に入ってみると、入口にあった洞元茶屋は廃業しており、ちょっと不安に。その先に写真で見た覚えのある建物が見えてきました。ところがここでは食事は提供しておらず、このあたりでは奈良俣ダムの上にあるサービスセンターまで行かなければならないといいます。
キルピコンナとはここで待ち合わせているので、しばし休憩室を借りてお茶を飲みながら待つことに。
近くの川や紅葉を眺めたりして数度建物を出入りしているうちに、この建物が待ち合わせをした湯元館ではないことが判明。慌てて湯元館に行ってみると、キルピコンナからの伝言が。ここは携帯電話の電波が届かないのです。
『列車に乗り遅れたので宿で合流します。』
食事ができるという奈良俣ダムサービスセンターはダムの上にあるので、もちろんそこまで上らなければなりません。つまりダムの下からで言えば150mほど上らなければならないというわけで、えっちらおっちら。
なんとか辿り着いた奈良俣ダムの上部には、ならまた湖が広がっていました。
ビジターセンターはダムの下から見えたUFOみたいな銀色屋根の建物で、そこでなんとか食事にありつくことができました。
目の前には真っ赤に色付いた木の先に、利根川の谷がずっと奥まで延びているのが見えます。ここの標高は900mほどなので、これからの後半は充分に紅葉が期待できます。
そうそう、下から見上げた時の奈良俣ダムの勾配はもの凄く急に見えましたが、ここから見ると30度ほどであることがわかります。
ならまた湖から湯の小屋温泉まで下って、木の根沢沿いを行きます。木の根沢は奈良俣ダムのすぐ下で利根川に流れ込むせせらぎで、関東の奥入瀬とも呼ばれる照葉峡はこの先にあります。
ここからは少し道の勾配がきつくなります。
木の根沢は道のすぐ横を流れていて、至る所に小さな滝ができています。
こんなふうな。
もう照葉峡に入ったのかと思いましたが、それはここからもう少し上流の9kmほどを指すようです。
3kmほど走ると道幅が狭まり、道の両側から木々が覆い被さるようになります。
このゾーンを通り抜けると、川辺の木立が退き、再び川面が見えるようになります。
そこには対岸の少し高くなったところから、小さな滝が落ちています。このあたりからが照葉峡でしょう。
白い水しぶきをあげながら落ちる沢の横には、いい色になってきた木々があちこちに。
少し落差のある滝が現れました。小さいながらも滝壺の水は幻想的な青色をしています。
照葉峡には11の滝があるといい、これがその最初の潜龍の滝です。
潜龍の滝のすぐ上には、細長く滑り落ちるような岩魚の滝。
さらに少し上ると白龍の滝、山彦の滝と続く。
名のある滝、名もなき無数の滝を眺めながら、徐々に高度を上げていきます。
先に山が見えてきました。あれは今日越える坤六峠がある西山(1,898m)でしょう。
その西山を目掛けて進んで行くと、道が穏やかなカーブに差し掛かり、そこに翡翠の滝が落ちています。
『へぇ~、照葉峡って名前も知らんかったし、こんないいところだとはちっとも思うてなかった。』 と関西からやってきたジーク。
翡翠の滝を過ぎると、対岸の山がオレンジと赤に染まっています。
ここは標高がちょうど1,000mを超えたあたり。
下の方では黄色やオレンジの木々が多かったけれど、ここにきて赤も目立つようになりました。
その紅葉の中を駆け上がるサイダーとジーク。
訂正、駆け上がれません。上りですからね。それにこんなきれいなところは時間を掛けて楽しまなけりゃあと、ゆっくり上って行くサイダーとジークでした。
道が大きくカーブして、もう一度カーブすると、その先にちょっとした駐車スペースがあり、その正面に大きなブナの木が立っています。
照葉峡のほぼ中心にある、ぶな太郎です。これはある解説にはブナの巨木とありましたが、そう驚くほどのものでもなく、紅葉のこの時期だからか、少し存在感が乏しいように感じました。
ぶな太郎の先も、渓流木の根沢とその周りの紅葉はずっと続いています。
こうしたきれいな沢と色とりどりの木々に見とれてばかりで、ちっとも先へ進みませんが、
なんとか木精の滝、つづみの滝と進んできました。
つづみの滝の先で木の根沢は少し広がり、流れが穏やかになります。
左手の笠ヶ岳の斜面が見え出すと、そこも一面の紅葉。
斜度が上がってきて8%、ところによっては10%近いところも出てくるようになります。
その中を黙々と上って行くサリーナ。そのうしろからはスキースケートとでも呼ぶのか、長いローラースケートにストックを突いて駆け上ってくる、スキーの練習をしている人がやってきます。もちろんこの人にはあっという間に抜かれてしまうのでした。
つづみの滝のあともいくつかの滝を過ぎ、ついに照葉峡最後の滝の前までやってきました。
対岸の小高い位置から細いひぐらしの滝が、さらさらと音をたて、細くなった木の根沢に落ちています。
ひぐらしの滝を過ぎたあとは、木の根沢が始まる奥利根水源の森へ向かいます。
ひぐらしの滝のあたりは10%近い坂だったので、こんな道がこの先ずっと続くのかと不安になりましたが、その後はいったん勾配が落ち着きます。
ひぐらしの滝から1.5kmほどで奥利根水源の森の標識があるところに到着。
標高は約1,350mで、この先で木の根沢は四方八方へと枝分かれし、このあとはほとんどその姿は見えなくなります。
奥利根水源の森からは、本日の最高標高地点の坤六峠に向かうだけです。周囲の山の色がオレンジ一色に変わってきました。
ここでジークが『坤六峠まではあとどれくらい?』と聞き、サイダーが『2kmくらいかな。』と答える。
『それくらいなら、ここから頂上まで一気にいったる~』と飛ばすジーク。
奥利根水源の森付近の斜度は緩く4~5%ほどですが、その後7%ほどになり、ここはゆっくりと上り詰めていきます。あるカーブのところで、うしろから自転車がやってくる気配が。レーサーでも駆け上ってきたのかなと思っていると、
『すみません、おそくなりましたぁ~』という声が。
なんと列車に乗り遅れたはずのキルピコンナがカッ飛んできたのでした。いや~、宿にバスで行くのだとばかり思っていたから、これにはびっくり。
『えっ~、いったいどこから現れたの~』と、サリーナもびっくりの様子。
ともかくこうして無事合流できたことを祝し、真っ赤に染まった山の前で記念の一枚。(TOP写真)
先に行ったジークを追いかけ、坂道をえっこらよっこらと上って行きます。
その道脇にも燃えるような紅葉が。
そしてそれに呼応するかのように、谷向こうの山も燃えている。
『この山は本当に真っ赤ですね~。やてきた甲斐がありました。』と、カッ飛んできたキルピコンナ。
紅葉は赤ばかりではなく、黄緑からオレンジ、そして黄色と色とりどりなのもいい。
赤、オレンジ、黄、黄緑と様々な色合いの中をゆっくり上って行きます。
ここはもう、なにも言うことなしのすばらしい紅葉。
その紅葉を眺めていたジークと合流。
『あれっ、キルピコンナさん、どうしてここにいるの?』と、やはりキルピコンナの登場にびっくりのジーク。
その問いかけに、ゴメンナサイのポーズをするキルピコンナでした。
『ところで奥利根水源の森からもう2km以上来たけれど、また峠に着かへんよ。』とジークの突っ込み。
『あっ、奈良俣ダムの上に上ったのを忘れていた。あと1kmくらいかなぁ。』と適当なサイダーでした。
ということで、ここからさらに1kmほどえっこらよっこらが続きます。
地図を見ると、坤六峠への終盤はヘアピンカーブが五つ続いています。
これはかなりきついかな、と覚悟をして、じりじりと上り詰めます。確かに斜度が10%くらいにはなったように思いますが、それを超えることはなく、なんとかかんとか無事に坤六峠(標高約1,630m)に到着。
渓流と滝が素晴らしかった照葉峡と、その上の真っ赤な紅葉の山を振り返りつつ、この峠で一休み。
ここまでほぼ予定の通りに進んできました。ここからはもう下り一直線なので、あとは宿まで安全に下るだけです。
坤六峠の先の山も見事に色づいています。これらの山々を眺めながら、慎重に下り出します。
上の方の山々には針葉樹が少なかったようで、オレンジから赤のグラデーションでしたが、下るにつれそれに針葉樹の緑が加わり、より複雑な色合いを見せるようになります。
このグラデーションの中を、慎重に、豪快に下り続けて、
尾瀬の入口になる鳩待峠に至る分岐点まで下りてきました。明日はここから鳩待峠へ向かい、尾瀬ケ原を散策する予定です。
この分岐点を過ぎると、鳩待峠から下ってくる乗り合いタクシーがたくさん下ってきます。今日の尾瀬は盛況だったようです。
分岐からもどんどん下り続け、予定より少し早めに片品村の戸倉に到着。宴会用のつまみなどを購入して、町はずれにある今宵の宿へ。
宿の温泉に浸かりひと汗流したあとは、豪華な夕食をいただきつつ、今日一日を振り返ります。
予報に反して空に青い色はありませんでしたが、照葉峡のせせらぎと無数の滝は、関東の奥入瀬といわれるだけのものがありました。そしてその周辺からさらに上部の坤六峠までの紅葉は、見事としか表現ができないほどです。坤六峠までの上りは決して簡単ではなかったけれど、その苦しさ辛さを凌ぐすばらしい世界が見られました。
夕食後の宴会では、もっぱら明日の尾瀬の話題。どうやら今晩から明日の朝9時ごろまでは雨らしい。ということで、日の出とともに歩き出すのは止めにして、8時頃から歩き出そうということに決定。さて、明日はどうなることやら。