今日は尾瀬のハイキング。天気予報では9時まで小雨とのことなので、日の出とともに歩き出すのはやめにして8時からということにしました。
戸倉の宿に迎えにきた乗り合いタクシーに乗り、鳩待峠へ。昨日下ってきた見覚えのある道をタクシーは上って行きます。徐々に周囲の紅葉が深まっていく様を見ると、否応なく尾瀬への期待が高まります。
30分ほどで鳩待峠に到着。予報の通りまだ雨はパラパラと降ってはいますが、ごく僅かなので歩くのには支障がなさそう。
休憩所で身支度を整え、いざ尾瀬へ。
尾瀬は大きくは尾瀬ヶ原と尾瀬沼に分れますが、私たちは尾瀬初心者なので、もっともスタンダードな尾瀬ヶ原を巡るコースにしました。
尾瀬ヶ原は至仏山(しぶつさん)の麓の山ノ鼻から始まるので、まず山ノ鼻へ向かいます。鳩待峠から山ノ鼻へ向かう道の序盤は、石の階段を下ります。雨にぬれて滑りやすいので慎重に下って行きます。
森にはブナの木が多いようで、黄色からオレンジ色の紅葉で溢れています。数歩進んでは立ち止まって眺め、また数歩進んでは立ち止まることを繰り返しつつ、ゆっくり進みます。
私たちの前を巨大な荷物を背負った人が歩いています。山小屋に食料などを運ぶ運び屋さんです。話を聞くとその荷物は95kgもあるそうな。おったまげた~
石の階段が終わると道は木道になります。
木道の横から小さな沢が流れ落ちています。この沢を見て、尾瀬は湿原で豊かな水がある場所であることを思い出しました。
木道はどんどん紅葉の中を下って行きます。
勾配が急になると、木道は木の階段に変わりました。
『結構下りますね。帰りが大変そう。』 とキルピコンナ。
だいぶ下ってきて谷が少し開けてくると、森の中の赤いカエデの向こうに、オレンジに霞んだ山の斜面が見えてきます。
道の斜度が弛み、木道の横に少しスペースができるようになると、そこには京都の日本庭園に迷い込んだかのような、オレンジ色のカエデが並んでいます。
左手が開けると、川上川を横切ります。この川辺の木々は緑からオレンジ色までのグラデーション。
川上川のすぐ先が山ノ鼻です。鳩待峠から予定のとおりの1時間で到着。雨はかなり小降りになり、ほとんど止みかけています。
ここが尾瀬ヶ原の入口で、尾瀬の草木や生物を紹介した展示コーナーがあるビジターセンターがあります。このビジターセンターでひと息ついて、いざ尾瀬ヶ原へ出発。
ビジターセンターを出ると一本の木道を行くようになり、すぐに正面に燧ヶ岳(ひうちがたけ)が現れます。
燧ヶ岳は尾瀬ヶ原の一方の端っこに鎮座しており、尾瀬沼はあの麓にあります。
振り返れば至仏山が。この山が尾瀬ヶ原のもう一方の端になります。
つまり尾瀬ヶ原は、燧ヶ岳と至仏山に挟まれたゾーンなのです。
ビジターセンターから600mほどで原ノ川上川橋を渡ります。この川は山ノ鼻の少し手前を流れていた川上川です。
この川を渡ると、いよいよ尾瀬ヶ原という雰囲気が強くなります。
正面の燧ヶ岳が徐々に近付いてきます。尾瀬の紅葉は、まず原っぱの草もみじに始まり、その後周囲の山が紅葉を始めます。
この時期、草もみじは最後の赤色を僅かに残し、周辺の木々がいい感じに染まってきています。
尾瀬ヶ原の観光写真で必ずといっていいほど登場するものの一つに浮島があります。
浮島は湖や沼などに浮かんでいる島のようなもので、主に泥炭や植物の枯死体などが集まったものからできています。尾瀬ヶ原には無数の浮島がありますが、それがもっとも多く見られるのは、この序盤です。
その浮島が浮かんでいる沼には水草が浮かんでいます。この水草、周囲の紅葉に合わせてオレンジ色をしています。これは紅葉したということでしょうか。沼底をよく見ると、この水草の葉っぱが沈んでいます。落葉した?
この沼を覗き込んでいた少年が、『あっ、何かいるよ~』と叫ぶので、目を凝らすと、なんと10cmほどのサンショウウオが泳いでいるのを発見。
山の天気は変わりやすい。歩き出した時には全貌が見えていた燧ヶ岳が、どんどん雲に飲み込まれていきます。
尾瀬には専門のガイドがいて、案内してもらうこともできます。この時ちょうど数名のガイドツアーの方々といっしょになったので、そのガイドさんに写真を撮ってもらいました。
『燧ヶ岳、隠れちゃいそうだね。うしろの至仏山はどうかな。』 と振り返れば、こちらも頂部の雲が少し下がってきている。
雨はほぼあがったけれど、少し雲が低くなってきたようです。
北の八海山の山肌は一面、オレンジ色の木々で埋め尽くされています。その手前の原っぱは、これも一面の草もみじで、なでたくなるよう。
青空がないのは残念ですが、このオレンジ色一色の世界はそうそう目にすることのできない景色でしょう。
さっきまでけぶっていた燧ヶ岳の雲が引き、また山が姿を現しました。
その燧ヶ岳目掛けて、沼と沼の間の木道を進んでいきます。
夏ならきっとここにミズバショウが咲くのでしょうね。
尾瀬は日本でも有数の湿原ですが、その規模だけから言えばより広大なところは他にもあります。しかし高地で周囲を山に囲まれた尾瀬には、四季折々に人々の心を捕らえて離さない魅力があります。これだけ魅力の詰まった湿原は、他にないでしょう。
この時期は、空以外のすべてがオレンジ色の紅葉です。
湿原だからあちこちに川が流れています。これは上ノ大堀川で、こうした川はハイキングの目標点として分かりやすくていいです。
小島のように突き出た、まあるい小山は紅葉の盛り。どうやらこれを牛首と呼ぶらしい。
上ノ大堀川を過ぎるとほどなく、牛首分岐です。
山ノ鼻からここまでは一本道でしたが、ここで木道は竜宮十字路方面とヨッピ吊り橋方面とに分れます。
この分岐点には他より多めにベンチが置かれています。ここは交通の要所でいつも人で一杯だそうですが、雨のこの日は数人しかいません。雨は残念ではあるけれど、それによって人出が少ないのはラッキーとも言えます。
私たちはここから竜宮十字路へ向かいました。
燧ヶ岳の上の雲はもうほとんどなくなり、山の形がはっきり見えてきました。
牛首分岐から800mほど行くと下ノ大堀川橋です。
牛首分岐の手前で上ノ大堀川を渡りましたが、こちらは上ではなく下。大堀川は上と下と二本あるのです。ちょっとややこしい。
下ノ大堀川を過ぎるとしばらく葦原が続きます。
尾瀬は全体が湿地なのでどこに葦が生えていてもおかしくはないのですが、それでもやはりこの植物は水が特に多いところを好むようで、川の付近でよく見かけます。
南にはアヤメ平、中原山あたりの小高い山脈が見えます。
晴れていたら、尾瀬ケ原からあそこを通るハイキング道を通って帰ってもいいかなと思っていたのですが、今日は断念。
その前には、草原の中に突き出したぽっこりした山も。
高原でよく見かける白樺がここにも生えていました。
その足元は真っ赤な紅葉で、木の白との対比が鮮やか。
これまでずっと開けていた前方の視界が木立に塞がれるようになると、そろそろ竜宮十字路です。
竜宮十字路の先には竜宮小屋があるので、ここで一休み。昼飯用におむすびでも持ってこようかと思ったのですが、宿のおかみが、今日は雨だから山小屋で食べたほうがよろしかろう、というので、ここで昼食にすることにしました。
山小屋には何かしら食べるものはありますが、ここにはカップヌードルしかなかったのが、ちょっと残念。しかしとにかくカップヌードルでもなんでも、暖かいものが食べられるのはありがたい。
今日中に帰らなければならないサリーナは、ここで離脱。キルピコンナ、ジーク、サイダーの三人は昼食後、竜宮十字路からヨッピ吊り橋へ向かうことにしました。
自然界に白い色は少ないので、白樺の白い幹はどこでも目立ちます。
足元は一面の草もみじですが、よく見ればその中にも様々な植物が紛れています。
紫のエゾリンドウの花はそろそろ終わり。おいしそうなこの赤い実はなんでしょうか。しかしキルピコンナによれば、この実はとてもまずいそうです。
雨はすっかりあがり、空も少し明るくなってきています。周囲の山の色もよりはっきり見えてきました。
今年の尾瀬の紅葉は例年より一週間ほど遅いとのことなので、これはまだ序盤かと思われますが、それでもこの微妙なグラデーションは本当にきれい。
竜宮十字路から30分ほどでヨッピ吊り橋に到着。
下を流れるのはヨッピ川で、この川はこれまで出会った川上川、上ノ大堀川、下ノ大堀川などが集まった流れで、このあと只見川となり、奥只見湖に流れ込みます。
ヨッピ吊り橋からは帰路につきます。まずは牛首分岐まで戻ります。
このルートは北の山側を通るので、その山の紅葉が間近に見られ、尾瀬ヶ原がより広く見えます。
浮島は山ノ鼻から少し来た序盤に多く見られますが、このあたりにも結構あります。
牛首分岐から竜宮十字路の間で渡った下ノ大堀川がここにも流れています。
この周辺はちょっとした中木が多いのが特徴です。
下ノ大堀川を渡ると再びあの尾瀬ヶ原の景色です。
草もみじの中を人が歩いています。どうやら牛首分岐が近付いてきたようです。
南の山は、朝来たときより鮮やかさを増しています。
牛首分岐まで戻ってきました。
『草もみじも山もすごい紅葉でしたね。もうここからは帰るだけになったんですね。』 と、右のキルピコンナ。
『いや~、尾瀬がこんな凄いとこやと知らんかったわ。今度また夏に来たいな。』 と、早くも再訪を夢見る左のジーク。
朝は雨でくすんでいたゾーンをもう一度見ると、草もみじはより鮮やかさを増し、山のオレンジ色も一層華やいで見えます。
牛首も赤い色が鮮やかです。
燧ヶ岳の頭は雲に隠れたままですが、このあたりでそれに別れを告げて、
至仏山へ向かいます。至仏山も朝方よりくっきり見えているようです。この至仏山の麓にある山ノ鼻のビジターセンターまで戻ると、もうこれで尾瀬ヶ原とさよならです。
昼飯が少なかったので、至仏山荘でちょっとした食事をしたあと、鳩待峠に向かいます。
朝に辿った道の逆をいくわけですが、これがまた意外と楽しい。
黄色からオレンジ色、そして真っ赤なカエデと同じカエデでも色とりどり。
そしてあのブナ林です。
上りの木道は辛いけれど、この美しい林になごませられて、比較的楽に上れます。
最後に石の階段を上って、鳩待峠に到着。いや~、お疲れさまでした。
今日の尾瀬ヶ原の前半は雨で、終日青空は見られませんでしたが、おかげでこの紅葉の時季の連休では考えられない、ひっそりとした尾瀬を楽しむことができました。
そこにあった草もみじも木々の紅葉も、晴れた日とはまた違った良さを見せていたのではないかと思います。ここは何度訪れてもいい、そんなところです。