2017年の紅葉狩り第二弾は栃木県の高原山。この山の南東斜面の中腹には全国名水百選に選ばれた尚仁沢湧水があり、我らがベネデッタが紅葉の時期はたいへんきれいだというので行ってみることにしました。
東京から二時間と少々で降り立ったのは東北本線の矢板駅。
その矢板駅からまっすぐ高原山を目指します。
矢板は宇都宮に近く、その北西部にある大谷町付近で採掘される大谷石の建物がいくつか見られました。
町外れまでやってくると紅葉した大木が目に入ります。
低地でもぼちぼち紅葉が始まっているようです。どうやら今日の紅葉狩りは期待できそうです。
この大木の奥にあるのは塩竈神社。立て看板によるとここは製塩に関係する神社だそう。
この周辺には塩のつく地名が多いことからも想像できるように、かつて矢板では塩が豊富に産出したそうです。つまりここは、遠い昔は海の底だったということですね。
塩竈神社を過ぎると周囲に建物はなくなり、田圃の中を進むようになります。
細い中川を渡り、東北自動車道の高架をくぐって北に進路を取ると、
先に高原山が見えてきます。
高原山は、北に塩原温泉、南西に鬼怒川温泉、そしてその先に日光という観光名所がある中にあります。
私たちが向かう尚仁沢湧水は、あの真ん中へんでしょうか。
矢板市の長井に入ると、りんご園の看板が現れるようになります。このあたりは矢板りんごの産地として有名なのです。
りんご狩りは明日することにして先を急ぐと、田畑の先に森が現れました。
平地はここまでで、この先は針葉樹林の中の上りになります。
特に標識はなかったのですが、おそらくこれは林道でしょう。ん、県民の森でいただいた地図によるとこれは林道西入線とあります。
こうしたところは入口の勾配がきついもので、ここもその例外ではありません。
えっこらよっこらと薄暗い針葉樹林の中を上って行くと、時々濃緑色の杉の木の間に、紅葉し始めた広葉樹が現れます。
針葉樹の中を3kmほど上り続けるとちょっとだけ空が開き、黄色になりつつある木々の下を行けば、落ち葉がカサコソといい音を立てます。
その後も森の中の上りは続き、牧場や養鶏場の横をすり抜けて進んで行きます。
6kmほど上り詰めるとようやく、一般道に出ました。この道は、一方は栃木県県民の森に、もう一方は尚仁沢湧水の入口に繋がります。
私たちは尚仁沢湧水側へ。
この一般道に出るとほどなく上りは終わり、本日の最高標高である標高600m地点を迎えます。
その後、短い下り区間を経て県道63号藤原宇都宮線に入ります。
紅葉しつつある木々の中を行く快適な下りの先に、突然、尚仁沢の先にある山が姿を現します。
尚仁沢に架かる橋まで下って周囲を見回せば、木々はいい色に色付いています。
この橋のすぐ西が尚仁沢湧水の入口です。
私たちは今朝早く家を出たので、まだ11時ですがお腹がぺこぺこ。
というわけで、尚仁沢湧水の散策は後にし、まずお昼を食べに『尚仁沢はーとらんど』に向かうことにしました。
尚仁沢はーとらんどのすぐ手前に東荒川ダムがあるので覗いてみました。
このダム湖周辺の木々もきれいに紅葉しています。
尚仁沢はーとらんどは尚仁沢名水パークの入口にあり、そば、うどん、ダムカレー、里芋フライなどの軽食が食べられます。
食事をしているとパラパラと雨。あれれ、今日は晴れのはずじゃあ・・・
尚仁沢名水パークには尚仁沢から引いた水汲み場があり、大勢の人々がポリタンクにたくさん水を汲んでいました。
水汲み場ははーとらんどの裏手にもあるので、私たちはこちらでボトルをいっぱいに。
昼食後はさっき下ってきた坂道を逆に上って、尚仁沢湧水の入口へ。
尚仁沢湧水の入口には道を挟んで駐車場とトイレがあり、ここに駐輪していざハイク開始。
入口から100mほどはアスファルトの道が続きます。
橋から下を見ると木々は、赤、オレンジ色、黄色、黄緑色、緑色と、それぞれにいい色に染まっています。
東屋が出てくると道は砂利道になり、尚仁沢の流れと吊り橋が見え出します。
吊り橋の先は取水堰で、ここから尚仁沢の水が東荒川ダムへと導かれます。
湧水の源泉へは、吊り橋の手前の斜面を登って行きます。
この急斜面を、幼稚園の小さな子供たちが集団で元気に駆け下ってきたので、びっくり。
ピークから少し下ると、鉄骨階段が現れます。
雨にぬれた階段は滑ってちょっと危なっかしい。
この鉄骨階段から先に尚仁沢の流れがあります。
足元には雨に濡れて黒光りする岩がころがっています。その中にはきれいに苔むしたものも。
小さな河原に出て、そこからさらに奥へ進んでいきます。
緑色から黄緑色へ、そして黄色へと変わる木々。
尚仁沢の白い流れと様々な色が混じり合った木々の対比が美しい。
沢を少し離れ、登って階段を下ると、ずっと奥まで続く流れが見えます。
この森には赤くなる木がほとんどないので少し地味に見えますが、それが逆に緑色からオレンジ色までのデリケートな色の変化をより強く感じさせることに繋がっているようです。
階段を下ると再び清流の近くに戻ってきます。
この森の奥はイヌブナの天然林で、それは国の天然記念物に指定されています。この木がたぶんイヌブナでしょう。
山側のあちこちから細い流れが落ちてきて、尚仁沢の本流に流れ込んでいます。
その数はいくつあるとも知れず。
それらを一つ一つ渡って進んでいきます。
数日前の雨で足元が悪いだろうと思っていましたが、ここではそうしたところには木製の渡し板が設えられていて、問題なく歩くことが出来ます。
細い湧水群が集まり中くらいの流れを作り、その流れが尚仁沢の本流に流れ込みます。
蔓性の植物がたくさん出てくるようになると、岩場に流れあり。
その少し先に太鼓橋が架かります。
この太鼓橋を渡ると、湧水の源泉に辿り着きます。
大抵、川の源流点というのはちょろちょろとした流れや、池の中だったりしてがっかりすることが多いのですが、この源流点ははっきりしていて、なおかつかなりの水量が沸き出しているのにびっくり。
この源泉の横には全国名水百選の看板が立っています。
看板横に見えるねじりんぼうの木はずっと右の方まで延びていて、かなり巨大です。なぜかこのあたりには、こうしたねじりんぼうがたくさん。
鮮やかなオレンジ色の木。
見上げれば。
これが尚仁沢の本流。
その流れは澄んでいて透明。
たっぷりと尚仁沢の湧水群と紅葉を楽しんだら、やってきた道を戻り、県民の森へ向かいます。
県民の森の中には宮川が流れ、その周辺の紅葉も良さそうなので、覗いて見ることにしたのです。
宮川の弓張橋を渡り、木の幹でできた県民の森の標識を過ぎると、メイン施設の森林展示館の前に出ます。
この森林展示館で地図と宮川渓流歩道について情報をもらい、ハイク開始。
宮川渓流歩道は県道272号県民の森矢板線とそれに続く道沿いにあり、簡単にアクセスできるため、2.5時間もあれば廻れる手軽なハイキングコースです。
しかし私たちには一時間ほどしか時間がないので、中心部の滝巡りをすることにしました。
まず森林展示館の向かいから宮川に下ったら、上流に向かい、傾聴の滝を目指します。
簡単な木造の橋を渡ると、真っ黒な岩に真っ白な流れ、そして黄色からオレンジ色までの微妙なグラデーションの紅葉。
傾聴の滝は対岸を戻ると見えるはずなのですが、このルートにはスズメバチがいると立て看板があったので、引き返して下流の橋を渡ってアプローチし直します。
傾聴の滝は落差3mほどの小さな滝ですが、上流から流れてくる様子から滝壺までが一目で見られ、落ちる姿もなかなかいいです。
傾聴の滝のあとは宮川沿いに下り、自転車で渡った弓張橋のところでいったん県道に出て、再び宮川に下ると創造の滝があります。
創造の滝は落差5mほどで、前面の広い滝壺が良く見えます。(TOP写真)
創造の滝からも宮川沿いを下って行きます。
写真の左手上のすぐのところには県道が通っているのですが、ここからその気配はほとんど感じられません。県道際にある駐車場に車を止めればすぐにアプローチできる便利な所なのですが、今日は雨のせいか、私たち以外にここを歩く人々はいないようです。
反省の滝は落差は3〜4mほどありそうですが、その流れは細く、そして何段かに分れているので、極めて小さな滝という印象です。しかしその周囲に見える紅葉はなかなか味わいがあります。
反省の滝のさらに下流には五条の滝が落ちるのですが、そろそろタイムアウトということで、ここで宮川渓谷歩道のハイクはおしまい。
森林展示館まで戻り、自転車をピックアップしたら寺山観音寺へ向かいます。雨はどうやら上がったようです。
寺山観音寺までは林道寺山線を使うことも考えたのですが、ここのところ続いた台風の影響で、その道はかなり荒れていることが予想されるので、ここはより短い林道七尋線を使うことにします。
林道七尋線は横に七尋沢が流れ、なかなか気持ちのいい道ですが、予想の通り結構な量の枯れ枝が落ちていました。
写真はかなり路面状態の良いところです。
宮川橋のところで県道に出ると、すぐに寺山ダムが作り出すダム湖が現れます。
ようやく出てきた陽の光を浴びて、先の山がきれいに輝いています。
林道七尋線もそうでしたが、県道272号県民の森矢板線はずっと下り。
快適に下って、
寺山観音寺入口に到着。
ここで今日帰らなければならないキルピコンナと別れ、宿泊組は寺山観音寺へ向かいます。
県道から入った寺山観音寺へ向かう道はご覧の通りの山道でかなりきつく、本日一番の斜度です。
ほとんど真っ暗な森の中をえっこらよっこらと上り詰めていきます。
県道から山道を2kmほどハヒハヒすると、ようやく寺山観音寺に到着。
ここはかなりしんどかった。
寺山観音寺は創建724年と伝わる大変古い寺で、石段を上ると池があり、そこに石造の太鼓橋が架かります。
この太鼓橋は雨に濡れており、この時は滑って渡れませんでした。
その先には1684年(天和4年)築の赤い楼門が建ちます。
この楼門の足元には大きな銀杏の木があり、その下に苔生した『ゆうれいの腰掛石』と呼ばれる小さな石があります。
観音堂も楼門と同時期に建てられたもので、鎌倉時代初期の作である本尊の木造千手観音像は秘仏とされ、開帳は60年に一度のみだそうです。
さて、これで本日のイベントは無事終了。寺山観音寺には七不思議というのがあり、その第一にあげられているのは霊湯で、これからその霊湯に向かいます。
寺山観音寺を出る時、近所の方から声をかけられました。
『自転車でここまで上ってくるなんてすごい。でも下りは急だからそのへんに突っ込まないように!』
確かにこの下りは激坂で、しかも例によって枯れ枝などが落ちているので、慎重に下ります。
山を下りたら田圃道に入ります。この道がこのまま宿まで続くのかと思ったら、それは大きな間違いでした。
この先は森の中に入り、一応舗装されてはいるものの、その上に枯れ枝や葉っぱ、そして泥が溜まり、ほとんどダートという状況。
森の先にほんのり宿の明かりらしきものが見えた時は、本当にほっとしました。
私たちが辿り着いたのは寺山観音寺の霊湯で、寺山鉱泉というところ。
霊湯そのものはずっと昔からあるのだろうと思いますが、この宿の歴史も古く、160年前に遡るといいます。湯は汲み上げたときは透明ですが、鉄分が多いためか湧かすと茶色く濁ります。いつまでも身体がほかほかする、いい湯です。
ここは山の中。食事はまぐろの刺身や冷めた天ぷらが出ないのがよろしい。良い味の川魚とキノコ鍋など、質素ながらも満足いくものでした。
さて、今日は天気予報に反して小雨となってしまいましたが、雨の尚仁沢湧水と宮川渓谷は、それはそれでなかなかいいものでした。雨に濡れ、しっとりとした紅葉というのも味があるものです。寺山観音寺も期待を裏切らぬ佇まいでした。その後の寺山鉱泉までの道には驚かされましたが、この鉱泉は派手さこそないものの、充分に楽しめる湯でした。全体に○ですね。