ヨーロッパにはジューン・ブライドという言葉があります。この言葉がどこから来たのかは諸説あるようですが、その中には六月がとてもいい季節だからというのもあるはずです。日本だったらこのジューンをメイに置き換え、メイ・ブライドとしたいですね。それくらい日本の五月はどこに行ってもいい季節です。湿気が少なく、春の花に加え、夏の花が咲き出します。ところによっては新緑が残り、ところによっては深く力強さを見せ始めた緑が見られます。
そんな素敵な季節は山に行きたいですね。ということで、今回は南アルプス、中央アルプス、そして北アルプスまで見えるしらびそ高原に上り、日本のチロルこと下栗の里へ向かいます。
今日はそのプレ・ポタリングで、軽く足慣らし。しらびそ高原の起点に設定した駒ヶ根まで行きます。中央本線沿いから駒ヶ根へのアクセスですぐ思いつくのは、岡谷から伊那街道、茅野から杖突街道の二つでしょう。しかし伊那街道は去年のGWに使ったし、杖突街道は谷が狭く眺望がない上に、交通量がそこそこあります。
そこで今回は富士見から入笠山(にゅうかさやま)に上り、360°のパノラマを楽しんでから、r211で高遠に下ることにしました。富士見駅を出るとすぐに入笠山を含む山塊が現れ、その斜面に富士見パノラマリゾートの雪がないゲレンデが見えます。
富士見駅から富士見パノラマリゾートまではすぐなので平坦かと思っていましたが、いきなりの激坂にあへあへ。
この坂は山に向かっているからではなく、おそらく河岸段丘の段差のところではないかと思います。
そのあと道はほぼ平坦になり、住宅地と畑が混在したようなところを抜けていきます。
住宅の中にはこんな大屋根の伝統的な造りの民家もあります、
ちょっと広めの道路に出ると、穏やかながらも上りが始まります。これは山の上り。
うしろにはこれまで見えなかった八ヶ岳がちらっと顔をだしています。
富士見パノラマリゾートに到着。
このゲレンデは、冬はスキー場、それ以外の季節はマウンテンバイクのダウンヒルコースになるので、マウンテンバイカーが大勢やって来ています。
切符売り場の前からは北に雄大な八ヶ岳が見えるのですが、この日は視界が悪く、霞んでいます。
この分では入笠山の頂上からの展望も思わしくないかもしれません。山頂に上るまでに視界が良くなってくれるといいのですが。
ここから入笠山の登山口へ向かいます。最初は自転車で上るつもりでしたが、この上りは高度で1,000m近くになるので断念。ゴンドラを使うことにしたのです。
切符売り場から200mほど奥にあるゴンドラの山麓駅へ。三人だと三回券が使えるのでちょっと割安です。一台のゴンドラには二人と自転車二台が乗れますが、私たちは三人だったので、三人と一台が乗り込み、あとの二台は係の方が次のゴンドラに載せてくれました。
ゴンドラはもの凄い角度で上昇して行きます。こんなところはとても自転車で上れたものではありません。ゴンドラにしてよかった〜
ゴンドラの真下はマウンテンバイクのコースになっていて、ダウンヒルマシンに跨がったライダーが矢のように下って行っています。
私たちを乗せたゴンドラはあっという間に山頂駅に到着しました。山麓駅の標高は1,050mで今いる山頂駅は1,780mですから、一気に700m上ったことになります。
山頂駅のすぐ前には『すずらん山野草公園』があり、この時期、ちょうどドイツすずらんが咲き出したところだと言うので、ちょっとだけ覗いてみました。
ここには20万本のドイツすずらんが群生しているそうです。
しかしその花茎は20cmほどの高さしかなく、花はとても小さい上に下を向いて咲くので、とても写真が撮りにくい。地面に這いつくばるようにしてようやくなんとか一枚撮れました。
すずらんを眺めたら入笠山の登山口へ向かいます。
ゴンドラ山頂駅から入笠山の登山口までは森の中の砂利道です。
その森が開けると入笠湿原です。
湿原の中には木道が通され、快適に散策できるようになっているようです。奥には日本すずらんの大群落があるそうですが、日本すずらんはドイツすずらんより咲く時期が遅いので、まだこれからでしょう。
入笠湿原からなおも砂利道を進むと、マナスル山荘が建つ入笠山登山口に出ます。ここは御所平峠と呼ばれるようです。
ここからは入笠山の山頂までハイクです。この入口の脇は花畑と呼ばれる所ですが、この時期、花はまったくと言っていいほど見当たりません。
森の中を行く登山道はその入口からそこそこの勾配です。そしてすぐに勾配が増して、ちょっとへーこらです。
しばらく上ると足元にクマザサが現れます。ここはちょっとひと息付ける区間。このあと道が二手に分れ、一方は岩場コース、もう一方は岩場迂回コースになります。私たちはもちろん後者を選択。
ところがこの道、岩場迂回コースのはずなのに岩だらけ。岩場コースを行ったらいったいどんなんだ!
エッコラヨッコラとこの岩場を登って行き、空が開いたと思ったら、足元から岩がなくなりました。どうやらこの先が山頂のようです。
入笠山山頂(1,955m)に到着。登山口からここまで20分少々と手軽に登れるので、入笠山は登山初心者にも人気のところです。
記念撮影は左から、いつもスリップオン・サンダルのビジター・サトちゃん、いつもニコニコのシュンシュン、長老サイダー。
山頂はまずまずの広さがあり、360°ぐるりと眺望があります。ここからは条件が良ければ、日本百名山のうちの31座を見ることができるそうです。
北東には裾野を広げた大きな八ヶ岳。
南にはドンと座った甲斐駒ヶ岳、間ノ岳、仙丈ヶ岳。
西には中央アルプスの空木岳、木曽駒ヶ岳。
この向こうに見えるはずの北アルプスはこの日は残念。
あまり視界は良くなかったですが、それでも360°の眺望を楽しんで、入笠山を下ります。
マナスル山荘で昼食を済ませ、午後の部開始です。あ、山荘の方によれば、今日空が霞んでいるのは、黄砂のせいだそうです。ですから今日一日は、ずっとこんな調子が続くようです。
マナスル山荘前の御所平峠からはやってきた側と反対の南西に下ります。今日のコースはここからほとんど下りという、安楽コースです。
ほどなく道はヘアピンカーブに至ります。このカーブのあたりに蛇を御神体とする白蛇弁天があるはずなのですが、それは発見できず。
ヘアピンカーブを廻ると道脇は入笠牧場になります。ここにきてぐっと視界が開けました。
入笠牧場と道の間に白い花が咲き出します。サクラのようなリンゴのような。
花のピークは少し過ぎているようですがきれいな花です。
これはズミ。つぼみはピンク色ですが、それが開くと真っ白になります。
この入笠牧場付近はとても気分良く走れます。
入笠牧場が終わると道は森の中に入って行きます。カラマツの繊細で初々しい緑。
この森の中には独特の音が響いています。カエルの鳴き声? 最初その音が何なのかはっきりしなかったのですが、これはどうやら蝉の鳴き声のようです。道を良く観察すると、透明な羽根を持つ小型の蝉の死骸が時々転がっています。その鳴き声はヒグラシをもっと低音にしてやさしくしたようなもの。カナカナというより鼻に抜ける方のガナガナに近い。エゾハルゼミ? それにしてもここにはもの凄い数が生息しているようで、森全体に木霊しています。まるで森が鳴いているようです。
カラマツ林の先にはまたズミが咲き出します。
入笠牧場周辺ではピークを過ぎていましたが、陽当たりのせいか、ここのズミは満開。
芝平峠(しびらとうげ、 1,450m)に到着。
ここは峠という名は付いているものの、よくあるパターンで峠ではない。いえ、峠となる道もあるのだとは思いますが、メインロードではただの坂の途中でしかないのです。
さて、この芝平峠で一服したらメインロードを離れ、r211芝平高遠線へ向かいます。
入った道は町道高峰線と言うらしいのですが、これは砂利道の下り。しかも急勾配の上にまだ砂利がなじんでいなくて、下りにも関わらずへろへろ。
3kmほどこの激坂砂利道と格闘すると、なんとか舗装路に出ました。するとなぜか勾配までも緩くなります。r211芝平高遠線に入ったのでしょう。
これまで何もなかった道脇に民家が一軒、二軒と現れるようになります。里に下って来たようです。横を流れるのは山室川で、この川は芝平峠のすぐ下から続いていました。
道脇に庚申塔が並び、そろそろ集落が現れるのかなと思っていると、『芝平之里』『芝平分校跡』と書かれた石碑の前に出ました。
これによるとここ芝平地区は、昭和五十三年に最後に残った三十戸が集団移住をよぎなくされて、七百年ほど続いた芝平の幕を閉じた、ということが書かれています。現在は僅かながら居住する人がいるように見えます。
かつての芝平分校を覗いて小休止したら、芝平の里からなおも下ります。
民家は一軒、ここにも一軒と姿を現すようにはなるのですが、なかなか集落という感じにはなってきません。山室川を渡る小型のコンクリート製アーチ橋が現れると、そこは北垣外(きたがいと)というバス停。ようやくバスがやってくるところまで下りてきたのです。
さらに下ると宮原で、ここでようやく民家が軒を並べている姿が目に入りました。宮原が背にしている山の向こう側は杖突街道で、尾根には山道が一本通っています。この尾根道は先の芝平峠から続いているので検討したのですが、どうやら砂利道らしいので断念。仮に舗装路だったとしても視線は木々に遮られてあまり眺望は得られそうにありません。
宮原あたりから谷が広がり、先の山々が見えるようになってきます。
同時に、下には田んぼが築かれているのが見えます。
そしてr211芝平高遠線はここから二車線に。
快調にカッ飛ぶシュンシュンとサトちゃん。
マナスル山荘からここまでは、目印、目標物となるような建物がほとんどありません。久保の三義郵便局はそんな中で貴重な建物です。
郵便局=集落。ここまで来ればなんとかなるかな〜、という感じにさせてくれます。実際これまでなかった自動販売機も、このあたりからようやく見掛けるようになります。
久保の先の原では道脇に田んぼを見ることができます。
ここはすでに田植えがされたあとで、水の中の苗がきれい。土手のハルジオンもいい感じ。
入笠山の山頂以降ここまで、南アルプスも中央アルプスもまったく見えません。
ようやく中央アルプスが頭を出すのは、r211芝平高遠線がR152秋葉街道に合流する直前。
R152秋葉街道に合流したら、ちょっと下って高遠城址公園へ続く道に入ります。
高遠湖の横を行くこの道はまず上り。
木々の合間から翡翠色の高遠湖が、ちらり、ちらりと見えます。
高遠湖を離れ、短い激坂を上ると桜で有名な高遠城址公園です。ここに植えられている桜は高遠コヒガンザクラで、これは小振りで赤みが強い可憐な花を咲かせます。
桜の季節には大勢の見物客で賑わいますが、この時期はほとんど人の気配なし。
この高遠城址公園からは下に高遠の街が、その上に中央アルプスが望めます。
高遠城址公園を出たら高遠の街に下り、
三峰川(みぶがわ)の畔に出ます。この川は南アルプスの仙丈ヶ岳の南西に流れを発し、美和ダムを経由して高遠の街に入り、伊那で天竜川に流れ込みます。
振り返れば赤い橋の向こうに、城址公園がある山が見えます。
三峰川に沿って下って行くと、狭い自転車道に入ります。
この道はほとんど人気がなく、またちょっとワイルドになっています。
自転車道を覆っていた両側の木々が退くと周囲は田んぼになります。
この田んぼもきれい。
三峰川の土手上は、いつの間にかサイクリングロードになっています。
前方には中央アルプスがバーン!
その中央アルプス目掛けてどんどこ行きます。
高遠方面を振り返れば、山並みが複雑に絡み合っているのがわかります。
土手上の自転車道がなくなり河川敷を行くようになると、そこはまたしてもワイルド自転車道です。
路面に苔が生えている!
このワイルド自転車道を脱出すると、土手上の自転車道に復帰します。
ここは以前より幅は狭いのですが、逆にそれがスケールにマッチしていて快適です。隣を通っていた県道もありません。
先ほどより黄色い花が自転車道の横にびっしり咲いています。
隣は田んぼ、前には中央アルプスと、ここは言うことありません。
このすぐ先で三峰川は天竜川に合流します。私たちの今宵の宿は駒ヶ根を流れる天竜川より東なので、棒原で三峰川を離れ南へ向かいます。
周辺は田んぼでその中に比較的新しい住宅がぱらぱらと建っているのですが、中には長屋門が残る家もあります。
天竜川の筋、いわゆる伊那谷に入りました。田んぼの中を行く道は一間道路というのか、幅員が狭くてジオポタ向きの快適な道。
『この道、いいですね〜』 と、ビジターのサトちゃんもルンルンです。
前に中央アルプスを見ながらどんどこと田んぼの中を進み(TOP写真)、そして道が向きを変えると今度はうしろに中央アルプス。
このあたりの伊那谷は中央アルプスの存在がとても大きく、どこからでもその一部が見えます。
田んぼの先に低い山が見えてきました。
ここからはあの山の西側の天竜川沿いを行くか、東側の火山峠(ひやまとうげ、
853m)を越えるかですが、去年天竜川沿いは通ったので、今回は火山峠に向かうことにします。
峠なので道は当然上り。勾配は大したことはないのですが、ここまでずっと下り基調だったので足がまったく回らない!
へこへこしながらなんとか上って行きます。
火山峠は『かざんとうげ』かと思ったらこれは『ひやまとうげ』と読むらしい。その火山峠から南に下った先の集落は火山なので、これもたぶん『ひやま』と読むのでしょう。周囲には果樹畑が多くなりました。
下って行くと先には例の中央アルプスが再び見えるようになります。
火山から山裾を這うようにして廻って行き、今宵の宿に進路を取れば、ここからは山に向かってきつ〜い上り。
『この先に本当にお宿があるんですかぁ〜』 と、ちょっと不安げなシュンシュンとサトちゃんですが、先頭のサイダーはどんどこ先へ。
民家の横の畑をすり抜けると、その先で道は針葉樹林の中に消えて行きます。この道、本当に大丈夫? とさすがに心配し始める頃、森を抜け出ます。
出た先の道は意外に広くてびっくりなのですが、この道も上っています。すぐ先に駒ヶ根シルクミュージアムの立派な建物が見え、その横を廻り込むようにして進むと、道の突き当たりに本日の宿が見えてきました。しかしここは本当に、なんでこんなところに、と思うような奥まったところです。
今日は三人と参加者が少なく、足も揃っていたので、予定より少し早めの到着となりました。ゆっくり風呂に浸かり、少しまったりして夕餉の席に着きました。そのあとはのんびりして、明日のアタックに備えます。
今日はゴンドラで山の上に上って、ほぼ下りだけというけしからん企画(笑)でしたが、終わってみれば、これはなかなか正解でした。これからはもっとこんな企画を増やそうかな。
さて、明日はいよいよしらびそ峠にチャレンジです。ほぼ一日上りっ放し。どうなる?