いよいよ峠越え!
ベトナム中部の古都フエから60kmほどのところにあるランコー村にやってきた私たち。フエでは雨に降られ続けましたが、やっとお日さまが戻って来ました!
さて、今日はいよいよベトナムを南北に二分するハイヴァン峠越えです。ランコー村のビーチの前でみんな『さあ、走るゾ!』と気分が盛り上がります。
さわやかなお天気の中、目の前にはハイヴァン峠を抱くチュオンソン山脈が聳えているのが見えます。
『ハイヴァン峠は標高500mしかないって聞いたけど、結構高そうね〜』 と前の山を見て、早くもドキドキのサリーナ。
道脇には南国特有のヤシの木などの緑があり、両側に広がるビーチを眺めながら走ります。
ところが出発して間もなく、空は白い雲に覆われてしまいました。あれれ〜
ベトナムの海岸線とほぼ平行に走るチュオンソン山脈は、ここで東に張り出し、ソンチャ島とハイヴァン岬とを形成します。
そのチュオンソン山脈の端っこがここです。
私たちが昨夜泊まったランコービーチは細長い砂州で、海と反対側はラグーンになっています。
そのラップアン・ラグーンが見えてきました。
『今日は峠を越えなぁあかんのやな〜。あたし、だいじょうぶやろか〜』と、ほとんど初めての峠越えに不安いっぱいのナオボー。
『まあ、なんとかなるやろ〜』と、ナオボーを見守りながら走るチュボー。
ラップアン・ラグーンはこの先でランコー湾と繋がるのですが、そこに架かるのがランコー橋です。
この橋がランコービーチの砂州とハイヴァン峠がある山とを繋いでいるのです。
ということで、ランコー橋からは穏やかながらも上りに。
ララップアン・ラグーンをぐるりと廻るようにして進むと、先ほど渡ったランコー橋が下に見えるようになります。
ここに来て空の色は白から灰色に。なんだか雲行きが怪しくなってきました。
そうこうするうちにいよいよ本格的な上りに突入したらしく、足が重くなってきます。
そしてついに、空からは冷たいものが・・・ エエ〜ッ、今日は『晴れ』じゃないの?
ララップアン・ラグーンの口がランコー湾に開いているのが見えると、さらに道の勾配が上がってヘアピンカーブを回ります。ここは山が海に出っ張って、そこに落っこちて行くところ。
先に何人かのサイクリストが見えてきました。外国人のようです。
ベトナムにやって来たサイクリストは、このハイヴァン峠を越えないで帰るわけにはいきませんね。
しかしベトナムの中部は今の時期は『雨期』。フエから雨の大当たりですが、今日も走り始めてしまった以上、彼らも私たちも走り切るしかありません。幸いにもまだ小雨で、その中を黙々と走る4人。この先が思いやられますが、さてどうなるかな。
雨の中、前を行くサイクリストを追って進む、サリーナ、ナオボー、チュボーでした。
最初のヘアピンカーブを回ってからは、しばらくうねうね道が続きます。
左手には出入りの激しい海岸線が続いています。
写真の左端に見えているのは神棚です。峠越えをする旅人のための安全祈願といったところでしょうか。
そういえばいつの間にか周囲はすっかり霧っぽくなっています。
実はハイヴァン峠のハイヴァンには『海雲』という意味があるのです。ここは霧で有名な峠で、別名は『雲の峠』
私たちを追い抜いて坂道をかけ上る美女2人。
『どこから来たの?』
"ベルギーよ。ラオスから走ってきたのよ!"
おお〜たくまし〜!
路肩が広がったところで、先行していた彼らの仲間の3人が待っていて、2人がそれに合流。私たちもここで休憩することにしました。
"そのちっちゃい自転車、日本の? ちょっと乗らせてえ〜"
と、試乗会が始まりました。彼女らの自転車は頑丈そうなマウンテンバイク。
”やだ、この自転車、チビなのに結構走るわ〜”
というのが、どうやら感想らしいです。
ひとしきり試乗会が終わったところで、ハイヴァン峠へ向けて出発です。
『じゃあ、お先に〜』 と、私たちが走り出すと、ベルギー人たちも走り出しました。
美女といっしょに走れて鼻の下が長〜くなっているチューボー。
上りの辛さもなんのそのです。(笑)
『いっしょに走れて楽しかったわ〜 またどこかでお会いしましょ〜』
と、私たちを追い抜いて行くべルギー美女たちでした。
周りの緑は美しく、時々視界が開け海も見えて気持ちいい。
これで晴れてたら最高だよね〜。ヘルメットからしずくをたらしながら私たちは、つづら折りの道をゆっくりゆっくり上ります。
雨がちょっと強くなってきました。ここまで休憩できるところはありませんでしたが、運良く峠の手前に茶屋があったので、そこに飛び込みました。
ベルギー人たちはここにはいなかっったので、峠まで一気に行ったのでしょう。
笑顔のおばちゃんがやっているこのお店では、ベトナムっぽく足元をヒヨコが歩き、ガチョウがガーガー鳴いています。
さっそくサイダーは黄金水を。そこにナオボーが取り出したのは『干し納豆』! えらすぎる。
干し納豆で元気を取り戻して一息付いたら、雨も小降りになってきたので、身体が冷えないうちにスタートします。
再び上りで体は温まってきます。
前方の山に構造物が見え出しました。おそらくあそこがハイヴァン峠でしょう。
しかし、ここからはまだ大分ありそうに見えます。
いくつめかのヘアピンカーブを回ると、下には上ってきた道が見えます。
反対側のうねうねとした道を見上げると、その果てに砦のようなシルエットが見えました。
『あれが頂上かな』 と、期待に胸をふくらませます。
道の勾配が緩くなると、車がたくさん停まっているところに出ました。ハイヴァン峠に着いたのです。
やった! ハイヴァン峠制覇だ〜
ここは観光バスも停まる観光地。到着した途端、お土産屋の人たちが群がってきます。
そのうちの1軒で着替えをして、休憩します。ところがここはコーヒーが一杯1ドルだといいます。観光地だからと言ってこれは吹っかけ過ぎです。止めようかとも思いましたが、着替えさせてもらったし、何も買わないのもなんなんで、ちょっと値切っていただきました。
今日のハイヴァン峠は雨のため眺望はほとんどなく、うすら寒いので30分ほど休憩し、暖まったら出発します。
さて、今日は峠さえ越えてしまえば終わったようなものなので、慌てずゆっくり下ります。
サリーナを先頭に、ナオボー、チューボー、そしてサイダーと続きます。
峠を越えると雨雲が切れてきました。ひょっとして峠だけ雨だったのかね〜と言いつつ、長〜いゆるやかな下りを楽しみます。
ほどなく下にダナン湾が見えてきました。
晴れていたら素晴らしい景色だろと思いますが、霧は霧でなかなか幻想的です。
ダナン湾の中にさらに見えてきたのは、きれいな弧を描くナムチョン湾。
その東には鯨のようなサン半島が飛び出しています。
サン半島の向こう側にも美しい砂浜のビーチが続いています。
ここは素晴らしい景色の連続です。
ナムチョン湾を眺めながら下って行き、それが後ろに去るとまた別の湾が見えてきました。
キムリエン湾です。その先に街が見えます。あそこが今日の目的地のダナンでしょう。
ダナンは人口90万人と、ベトナム中部最大の都市です。
キムリエン湾まで下り切ったあとはずっと平坦。ナムオ橋でクデ川を渡り、ダナンに入ります。
そろそろお腹がすいてきたね。ダナンの中心部まではまだだいぶ距離があるので、この辺でお昼にしようと食堂を探しながら走ります。
見つけた食堂は13時半という時間帯のせいか、客は私たち以外1組だけでしたが、それは何と仕事で来た日本人とベトナム人の4人グループでした。
彼らの食べているメニューがおいしそうだったのでそのままに注文しみたところ、これが大正解。魚の煮付けと魚のスープ、豚肉と野菜炒め、安くてとびきりウマイ!!
食堂の裏手は川になっていて、魚網がたくさん並んでいました。
しあわせ気分の昼食後、外を見ると何とまた雨が降っています。
とにかく走らなきゃ、と覚悟を決め、幹線道路をまっしぐらに進みます。
交通量が多くなってきたので裏道へ廻りますが、裏道はなかなか繋がっておらず、いつしか元の幹線道路に出てしまいます。
なんとかハン川の畔に出ました。
ハン川はとても大きな川です。ダナンの名は『大河の河口』を意味するチャム語の"da nak"から来ているそうですから、その大河というのがこのハン川なのかもしれません。
そのハン川をソンハン橋で渡ります。
やはりダナンは大都市です。ここはモーターバイクや自転車で大混雑。
『やっぱりダナンもベトナムね〜』 と、この混雑を楽しむサリーナ。
ハン川を覗けば、漁船や艀が行き交っています。
やはりダナンは大河の街なのですね。
雨は上がったようです。『今日はビーチでリゾート』と、郊外のビーチを目指します。
ところが目的のビーチが見つかりません。迷い込んだ村の道はご覧の通り、ダート、ダート。焦って出会う人ごとに必死で道を尋ねまくるサイダー。
『いい感じの家がたくさんあったね!』とは余裕のナオボーとチューボー。周りを見る余裕が全くないのはダートが超苦手なサリーナ。
ようやく目的のミーケービーチに辿り着きました。ここは幹線道路をまっすぐ来ていればダートじゃなかった!
ミーケービーチでは海を眺められる別荘風のホテルに宿を取りました。
でも私たちには自転車の泥落しという労働が待っていて、なかなかリゾートというわけにはいかないのでした。
暗くならないうちにビーチに出てみました。
夕方のビーチは南シナ海から大きな波が押し寄せており、あまり人気がなくちょっと寂しい景色ですが、静かでのんびり過ごすには最適でした。
ビーチの散策と自転車整備を終えたら、ハイヴァン峠越えを祝して、乾杯!
感想 奇跡のハイヴァン峠越え --by ナオボー--
思いがけないグッドタイミングで、サイダーとサリーナのベトナム・ジオポタリングに合流する機会を得ました。私は8年ほど前に一般の少人数ツアーでベトナムに行きました。その時はベトナム戦争の惨禍とその後の国興しの情況を強く意識し、「つらかったね。ようがんばったね」という労わりの気持ちが強かったです。今回はベトナムの人々に、町に、平常心で接することができたので、「ベトナムって、こんな人民・友がいるんだ」という、親密さと安らぎを覚えました。それというのも、ポタリングの旅は現地の人たちと身近に接して、言葉を交わし、微笑みあう場をもつことができるからだと実感しました。至る所で、現地の人たちとの交流がありました。
今、一番なつかしく思うのは、ハイヴァン峠の茶屋のおばさん。1軒だけポツンとあった茶屋は、おばさん独りと孵ったばかりの数羽のひよこたちとガチョウ。人懐っこく、にこにこ笑って迎えてくれたおばさんは、肝っ玉母さん風でもあり、はにかみ母さん風でもありました。ここは峠を越えるトラックの休憩地点で、運転手のためのシャワースブース(身ひとつはいるスペースの簡単な囲いがあるだけで、サリーナと私はトイレ代わりに拝借)と、給水サービスがあります。この時期は雨季で峠は大雨。ドロドロになったトラックが到着し、洗車を始めました。この茶屋でのビールの美味しかったこと! たどり着くところ必ずビールありの旅程でしたが、私はこのビールの味が、おばさんの笑顔と合わせて忘れられません。私は茶屋で初めて山々の景色を堪能しました。
この朝、出発の時は、2日ぶりの太陽の輝きを受けたのに、峠に入るや否や小雨が降り出し、雨足はだんだんひどくなり、私は、前を走るサリーナとの距離を開けないようにと(既にかなり開いているのですが)、必死で前かがみになり走りつづけ、周りの景色を眺める余裕はなかったです。たどり着いた茶屋で初めて景色を愛でました。
茶屋を出て山すそをぐるりと廻ると、前方はるか彼方にうねうねした登り道が山をはい上がっているのが目に入ってきました。道端に8%勾配の標識。ああこの感じが8%なんだなと感じながら走る。しばらくすると12%の標識。 必死、必死。登りきれた! こんどは8%の道が長々と続く。サリーナと私、「これ8%にしてはちょっとゆるいよね」「団地造成の8%の道路いうたらもっとすごかったよね」。無事、峠の頂上に着きました。勾配のあるUピンカーブで、廻りきれずに一度歩いただけでした。これは私にとって奇跡です。
下りは長い緩やかな道です。サイダーに教えられたように、ブレーキを握ったままにしないで、時々緩めて、神経を集中して下りましたが、グングン下がっていくのが、もったいなく感じるほど心地よいひとときでした。霧雨に煙る海にお饅頭のような姿のいい島々が浮かび、現れては過ぎていきます。
ハイヴァン峠の霊気と3人に声援に押されての峠越えは、私にまたひとつ自信をつけてくれました。ありがとうございます。
10日間の日々は幾たびも美味しいベトナム料理に感嘆の声をあげ、人なつこくやさしい雰囲気なのに目だけは凛とした輝きをもつベトナムの人々に接し、2003年のすてきな幕開けでした。アジアの旅は4人以上がいいですね。ごちそうの数々が味わえて。