朝早く教会の鐘の音で目覚める。 昨日の雨雲はどこかへ行ってしまったようで、今日は晴れ。 日が昇り始めると草原も目覚め、緑が輝き出します。
今日はアッペンツェル地方のウルネッシュからワットヴィルまでうねうねとした丘陵地を進み、そこから谷に沿ってカルトブルンに下り、ヴァ−レン湖まで穏やかな平地を楽しんだ後、湖の遥か上にあるフィルツバッハまで上ります。
これはちょうどアルプスの一番外側をぐるっと廻り、最後にアルプスに突入するイメージのルートなのです。
空には少し雲が出ていますが、遠くの青空の下には昨日上った高いゼンティスも顔を見せています。 今日のルートはそのゼンティスを取り囲む山々の外側をぐるっと回って行くのです。
あたりは一面草原。 どこまでもどこまでもうねった緑の草原が続いています。
このあたりはアッペンツェルとザンクト・ガレン以外にこれといった観光地もないので、観光客は皆無。 ただただのんびりした景色と色とりどりの花々が見事な民家があるだけの、静かなところです。
この美しい丘陵地、目には楽しいものの心臓はバクバクものです。 とにかくまったく平坦なところがないのです。 もの凄い激坂はないものの、とにかく坂だらけ。 ウルネッシュからはすぐ200mほどの上りです。 アセアセ、ハヒハヒとゆっくり上り詰めます。
しかし、上りがあればかならず下りがあるもの。 ビューンビューンと風を切る音が聞こえそうな爽快な下り。 周囲の景色がみるみる変わって行きます。
上っては下り、下っては上りを繰り返し、ようやく10kmほど進みヘムベルクが近づいたところで、コースはメインルートからはずれ農道なような道に入りました。 結構な勾配の上りが続きます。
『本当にこの道〜』 と不安になる頃、
『ゲッ、ついにヤギ道登場だ〜』
目の前には15%超えの激坂が現れました。 こんなところは即押しですね。。 しかしこんな激坂は他にはありませんでした。
ヤギ道をなんとか押しで上り切るとそこはヘムベルクの街で、ちょうど水場がありました。 水を飲んだり頭から被ったりと、ヤギ道の汗を流します。
こうして一息ついているところへ、かのヤギ道をマウンテンバイクで登ってくる若者が。 つわものです。 この水場で彼も休憩となったので話を聞くと、ウィーンからやってきてこの後はチェコに向かうとのこと。 お〜、すご〜。
水場のすぐ脇には教会があり、鐘がガーンゴーンガーンゴーンと鳴り響いています。 ミサの終わりを告げる鐘だったようで、大勢の人が教会から出てきました。
鐘の音を後にワットヴィルを目指して走り始めます。
『今日は調子いいみたい〜』 とサリーナには復活の兆しが。
ヘムベルクからはおおむね下りになりました。 下にワットヴィルの街が現れ、この丘陵地のアップダウンももうすぐ終わりです。 最後の下りを堪能し、グワ〜ッと下ります。
一昨日電車に乗ったワットヴィルに到着。 アップダウンももうこれでおしまいかな、とここで一休みです。 スカッとさわやかなパナシェで乾杯。
ワットヴィルからは山間の谷に沿って南西に向かいます。 もう今日は終わったと思っていた上りが復活、リッケンまでまたあのポコポコとした丘があり、ちょっとえっこらします。
リッケンを過ぎるとようやく本格的な下りが始まりました。 標高800mから400m近くまでおよそ400mの豪快な下りです。
下りの途中で、前方にチューリッヒ湖が姿を現しました。 このチューリッヒ湖からヴァ−レン湖を繋ぐ平原に向かってダウンヒルです。
山と平原のちょうど境にあるカルトブルンまで一気に下り、街角のレストランで昼食です。 ここは依然ドイツ語圏でドイツ系の食べ物が多いのですが、ソーセージやゲシュネッツェルテスなどのポピュラーな食べ物は一通り試したので、ここではみんな軽めのサラダを中心としたものにしました。
カルトブルンからようやく平地になりました。 今日は後ろに見える山から下りてきたのです。 これまで平地はほとんどなかったので、こんなに平らだとなにかちょっと拍子抜けのような、そんな妙な気分になります。
しかし、遠くの山並みを眺めながら広々とした草原の中を行くのは、とても気持ちの良いものです。 この道はスケートと自転車、そして歩行者の専用道です。 スイスでは道にスケート道の案内が出ているほど、スケートも市民権を得たスポーツになっています。
真っすぐ伸びた道の先に連なる山々が見えてきました。 あの山の麓にはヴァーレン湖があるはずです。
その山々に向かって進めば、前から後ろからサイクリストとスケーターがたくさんやってきます。 そして空には花のようにカラフルなパラグライダーがいくつも浮かんでいます。
草原の先に小さな塔が見えてきました。 この平原の終わりにあるシェーニスの村の教会のようです。 休憩がてら、この教会に入ってみました。 こじんまりしたロココ調の品のいい教会でした。
スイスの家々の窓辺はどこもきれいな花々で飾られていますが、この教会の墓地も同様の花で彩られ、とてもきれいです。
シェーニスから大きく方向を変えると、草原の中に小川がせせらいでいました。 とても静かな流れで、川面には鏡のように廻りの景色が写り込んでいます。
前方の山々がぐっと近づいてきました。 その山々の端は驚くほど急激に谷に落ち込んでいます。 定かではありませんが、この山々はおそらく氷河によって削り取られたものでしょう。
一番手前に見えた山の麓を回り込むようにして幹線道を進むと、ついにその山の上り道に辿り着きました。
ここからが凄かった。 見上げればヘアピンカーブがいくつも連なっています。 そこをえっこらえっこら超低速で上り出します。 午後の日射しは強く、暑く苦しい。 ヘアピンを抜けても上りは続いています。
下にそろそろヴァーレン湖が見えるかなと思うも、なかなか湖面はその姿を現しません。 反対側の山の斜面が見える視界が開けたところでちょっと休憩です。
林に入りもうすぐフィルツバッハに到着だ、というところでオットマッターが急停止。 さっき休憩したばかりなのに変だな、と思っていると、バッグからなにやら取り出しモグモグ。 どうやらハンガーノックの様子。
しばらく休んでようやく走り出すと、ついに木々の合間からヴァーレン湖がその姿を現しました。 湖面には白いヨットが浮かんでいて楽しそう。
林を抜けるとようやくフィルツバッハに到着しました。 きつかった上りを終えて、思わず宿の前でガッツポーズをするのは、オットマッターとサリーナでした。
振り返ればこの日は三部構成でした。 前半はアップダウンの激しい丘陵地、中盤は緑の平原、そして最後は激坂上り。 どこも美しく素晴らしい。 そしていよいよアルプスに近づいたという実感が湧いてきました。