前日、ワロン地域の最初の日をナミュールで過ごした私たちですが、この日からベルギーの本格的な自転車旅に出発します。
この夏の旅先をベルギーに決めた時、北部のフランドル(フランデレン)地域には多少なりとも行ったことがあるので、より田舎のワロン地域を廻ってみたいと思いました。フランドルにはブリュージュやアントワープといった観光地がありますが、ワロンにはそうした名所はほとんどありません。ワロンで思い浮かぶのは、延々と丘を上り下りする自転車ロードレースのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュくらいでした。
そんな丘を上り下りするのも悪くはないかな、と思い始めたのですが、さて、具体的にどこをどう廻るかと考えると、これはもうさっぱり手掛かりがありません。ベルギー観光局のWEBを見ていると、その中のワロン地域の美しい村を紹介した Best 24 Villages に目が止まりました。ひどく小さな村ばかりの紹介なのですが、これが今回の私たちの旅にピッタリな感じだったので、ここにピックアップされている村を繋いでコースを作ることにしました。
今回の旅で巡るのは、ワロン地域の中でもアルデンヌと呼ばれる地方で、そこはアルデンヌ高地とも呼ばれる丘陵地帯です。その丘の多くは森に覆われているといいます。さて、どんな丘が待っているのか、どんな森が待っているのか。
今日のコースはナミュールを出発し、まずムーズ川に沿って東へ向かい、美しい村その1のトン・サムソン (Thon-Samson) に入り、そこから南下して丘を越えつつ、美しい村その4のセルまでの60kmです。
お城とムーズ川
ナミュールのホテルを出るとすぐ、ムーズ川のアルデンヌ橋に出ます。ここからは昨日上ったお城が良く見えます。
ムーズ川の自転車道
ムーズ川に沿って自転車道があるので、トン・サムソンまではこれを使います。昨日のサンブル川沿いの自転車道は石畳でしたが、ここはアスファルトでとても走りやすい。
歴史を感じる旧小麦挽き工場
砂利などを運搬する背の低い船が停泊する川岸を進んで行くと、対岸に煉瓦造の建物が見えてきます。これはLes Moulins de Beezといい、小麦を挽く工場だったようです。
先に切り立った崖
E411をくぐるころになると建物は少なくなりなり、森が続くようになります。この間わずかに3kmほどです。 そのうち対岸の建物もなくなり、両岸とも緑の小高い丘になります。
対岸の崖
先に切り立った白っぽい石灰岩がむき出しの崖が見えだすと、対岸にも同様の崖が現れます。
ヨット集団
川面に白いものが見えると、それは小さなヨットの集団でした。このあたりはウォータースポーツも盛んなようです。
大きなセメント工場のようなものが現れると、そのすぐ先に小さな町が見えてきます。ここまで来るとこちら側の崖が大きくなり、それ石灰岩の塊で高さは100mほどあることがわかります。
サムソン
目指す最初の村トン・サムソンへはここでムーズ川を離れ、その支流のサムソン川に沿って南へ向かいます。サムソン川沿いに入ると、いきなり上りになります。
トン・サムソンは、実はトンとサムソンという別々の村のようで、サムソン川沿いの低地にあるのがサムソンで、トンは崖の上の集落のよう。ここからは崖の上に砦のようなものが見えます。
トンへ上るサイダー
サムソン川沿いのN942から左に入れば、雑木の森の中を上ります。しかしこの森は一瞬で開け、家々が建ち並ぶようになります。ここがサムソンのようです。
トンを行くサリーナ
道の両側の建物は、さっき見えた丘の石灰岩を切り出した石で出来ているようで、多くが白っぽいグレーの壁です
牧草地
この道を奥まで進むと右手に牧草地が広がるようになり、
トンの教会
左手に教会が現れます。
この教会の塔のてっぺんの十字架の上にはなんと風見鶏のようなものが載っています。
トンのシャトー・フェルム
教会の向かいには立派な塀が巡らされた16〜17世紀のお城が建っています。
このお城は農場を持っており、それはシャトー・フェルム(Château-ferme)と呼ばれます。
牧草地から見るシャトー・フェルムと教会
こうした農場付きのお城は、このあともあちこちで見ることができますが、そのほとんどは現在も個人所有です。
蕪畑
アルデンヌは農業が盛んだろうと想像していましたが、意外と畑は少なく、麦畑と飼料用のトウモロコシ畑くらいしか見かけませんが、ここはめずらしく、蕪の畑です。
真っ赤なアジサイ
民家の前の真っ赤な花は、なんとアジサイです。日本のアジサイは大抵青ですが、これは日本の土壌がアルカリ性だからで、ヨーロッパは大抵酸性なので、このように赤っぽいのが多いのでしょう。
サムソンの建物と断崖
畑の中を抜け、雑木林の間の坂を下るとサムソン川に戻ります。サムソン川の谷には両側から低い山が迫っています。トン側はここもまだ断崖が続いています。
ゴイェッのサムソン川
しばらく走って数軒の建物が見え出すとそこはゴイェッ(Goyet)で、次の目的地、美しい村その2のモゼ(Mozet)へはここからサムソン川を離れ、枝道に入ります。
モゼへ向かう
サムソン川を離れた途端に道は急な上りに。その勾配が落ち着くと、斜面に広がる牧草地に出ます。
モゼ
南下がりの牧草地の先には小川が流れており、それに沿ってこんもりした森ができています。この森を眺めながら牧草地の中を上って行くと、どうやらモゼに着いたようです。
この村は穏やかな斜面にあり、高台からはなだらかな丘陵地帯が見渡せます。
モゼのシャトー・フェルム
ここにもシャトー・フェルムがありました。
サン・ランベール教会
このシャトー・フェルムの先には、少し青みがかった石灰岩で造られているサン・ランベール教会が建っています。1775年の再建だそうで、屋根は黒いスレート葺き。このあたりの建物はほとんどが石灰石とスレートでできています。
この塔のてっぺんにも風見鶏が。アルデンヌの人々は風見鶏が好きなのかな。
モゼを出る
モゼの村を下って小川のところにやってくると、ちょうどそこで村は終わり、道は上り出します。畑の中を行くこの道の先にもまた、こんもりした森が見えています。
タワーハウス?
次の村に向かう途中、こんな建物がありました。小さな塔があるのですが、これはいったい何でしょう。このあたりにはタワーハウスがあると聞きましたが、これがそうでしょうか。
地道を行く
道はいつしか地道に。
アルデンヌは幹線道でもあまり車は多くありませんが、私たちは基本的にそうした道は避けてルートを作っています。このあたりの国道は日本の県道、地方道は同じく町道程度の造りなので、幹線を外れると地道ということは結構あるのです。
ここは僅かな距離だったので助かりました。
牧草地と森が続く
道はアップダウンを繰り返し、森の中へ、すぐに牧草地に出、また森に入るということを繰り返します。
森から下るとサール=ベルナール(Sart-Bernard)ですが、このあたりは細かいアップダウンの連続で、アップアップ。いったんN4に出ると、これも結構な上りでもうバテバテ。まだ30kmしか走っていないのに。
N4を離れると、今度は2kmほど完全に森の中を行きます。次の村メイエン(Maillen)まではもうすぐなのですが、目いっぱいで、この森の中で補給食休憩。あ〜、しんど。
メイエンの教会
この小休憩でなんとか息を吹き返し、残りの森を駆け抜け、小さな谷を一つ越えて、メイエンに到着。
トン・サムソンやモゼは建物の密集度が低い、どちらかというと郊外農家型の集落ですが、ここは密集度が高い都市型の集落で、中心には大きな教会が建っています。このあたりの村にはどこも、その村の規模からは想像できないくらいに教会が立派です。
民家の納屋
教会の前にある民家の納屋をちょっと覗かせてもらうと、下は牛など家畜のスペースで、その上に干し草がどっさり積まれていました。
メイエンからクリュペへ
ここまで来れば美しい村その3のクリュペ(Crupe)まではもうすぐ。
メイエンを出れば、しばらくは大きなアップダウンがないようで、彼方に連続した丘が見えるだけになります。
麦畑と牧草ロール
きれいな麦畑と牧草のロール。
クリュペまではずっと下りかと期待しましたが、ここはアルデンヌ高地。穏やかなアップダウンを繰り返しつつ下って行きます。
クリュペのお城
道脇にいつしか小川が流れるようになると、森の中のクリュペに到着します。
村の入口に小さな湖があり、その畔に村の領主のお城が建っています。この湖を廻る道に入れば、料理自慢のオーベルジュだというル・ムーラン・デ・ラミエ(Le Moulin Des Ramiers)も。
クリュペのお城その2
この村は豊富な水に恵まれ、かつては製紙、製塩、鍛冶、ビール醸造などの産業で栄えたそうです。その原動力となった水車は今も残っているといいますが、それがどこにあるのかは分かりませんでした。おそらくお城の建物の一つの中なのでしょう。
クリュペの通り
お城を眺め、その近くのカフェで一休みして出発すれば、お城の先ですぐに上りになります。
聖アントワーヌを祭る洞窟
この上り坂の途中にある教会の裏手には、今も多くの参拝者が訪れる聖アントワーヌを祭る洞窟があるというので、立ち寄ってみました。
洞窟とはいってもここは人工的に作ったのではないかと思えるくらい浅いもので、そこに聖アントワーヌだかキリストだかの像などが置かれています。
クリュペ付近
クリュペからは森の中を小川に沿って走って行きます。鉄道の小さな煉瓦造のアーチをくぐり、ちょっとした集落を抜けると、森の中の細道に。
もう書き飽きたのでいちいち書かないことにしますが、ここにももちろんアップダウンがあります。
エヴルアイユのお城
そして森を抜け牧草地を抜けると、またお城がありました。ここはエヴルアイユ(Evrehailles)というところのようです。このあたりでは、ちょっとした村には必ずといっていいほどお城があるようです。
Château d'eau
その先の畑の中にちょっと変わった塔状の建物が見えます。頂部の形状からすると軍事的な施設のようにも見えますが、ある資料にChâteau d'eauとあるので、これはきっと水道の施設でしょう。
デュ・ボック醸造所
この先で道はN397に合流します。この国道を1kmほど行くと、プルノード(Purnode)です。ここは、これまで訪れた集落から見れば、立派な町という広がりがあります。
カフェのカウンター
この町にはデュ・ボック醸造所(Brasserie Du Bocq)があります。
1858年創業のこの醸造所はベルギーの中では比較的大きなもので、日本にも輸出しているようです。かつてはピルスナータイプのビールを製造していたようですが、2009年のワールド・ビア・アウォードで一位になった、ナミュールの名を冠したブランシュ・ド・ナミュールを始め、ゴールデン・エールのラ・ゴロワーズ、トリプル・モワネなどの上面発酵タイプも造っています。
ナミュールの白とロゼ
この地方に来たら試さなければならないのはセゾンビールでしょう。これは、元はワロン地方の農家が夏の農作業のときに喉を潤すために作っていたもので、セゾンは季節の意味です。農閑期の冬、三月に仕込まれるためセゾン・ド・マルスとも呼ばれたようです。
アルコール度数は5%程度で、ホップの苦味を効かせ、ドライで酸味があることを特徴とするようですが、醸造所がセゾンタイプとして出しているものは、こうした特徴が薄れたともいわれています。この醸造所からは、セゾン1858というのが出されています。
アワーニュ
デュ・ボック醸造所からは国道を離れカントリーロードに入ります。ここには穏やかにうねった畑が一面に広がります。
アワーニュ(Awagne)を過ぎれば、またいつもの牧草地の中を行きます。
牧草地の中を行く
とにかく広い草原が広がります。
草原
草原の中にポツンとまたあの水道施設のような塔が。
風車
ここは丘の上。風が強いのでしょう。風車がいくつも見えます。
なるほどここは風が強く、ビュービュー。こうしたところで、自転車レースでは、風よけのために隊列が斜めになるのがよくわかります。
リソーニュ
時々小さな集落を通り抜け、森の中にある畑の中をどんどこ。景色はどこまでも穏やかで、道も穏やかな上りと下りを続けます。
牧草地の中にあるリソーニュ(Lisogne)をかすめ、
リソーニュ〜ティーヌ間
また畑の中を行き、
ティーヌへの下り
ティーヌへ下ります。
ティーヌ
このあたりの村はみんな美しい。
フォア=ノートル=ダム
フォア=ノートル=ダム(Foy-Nortre-Dame)は、教会だけの村といっていいほど、小さい。
フォア=ノートル=ダムの家
道路の上に家が。
フォア=ノートル=ダムからの上り
言葉が少ないのは、もうへろへろだから。。
セル
久しぶりに二車線の道路N94に出ると、ほどなく本日の終着地、美しい村その4のセル (Celles) に到着します。
聖アドラン通り
石畳の聖アドラン通りを下って行くと、美しい民家の向こうに聖アドラン教会が見えてきます。
セルの民家
セルは周囲を低い丘に囲まれたとても小さな村ですが、その歴史は意外と古く、669年にまで遡るといいます。
このあたりで産出する砂岩と石灰岩で造られた、淡い色の建物が並び、みんなきれいな花で飾られています。
聖アドラン教会前
村の端に建つ聖アドラン教会の前に到着です。
聖アドラン教会とエルミタージュ
聖アドラン教会のうしろの丘の上には小さなエルミタージュが建っています。
エルミタージュ
エルミタージュ(Ermitage)は『隠れ家』というような意味ですが、これは小さな教会や修道院といったものによく使われる言葉でもあるようです。
聖アドラン教会
アルデンヌ地方の走り出し初日の感想ですが、まず、村はみんなきれいで、これは Best 24 Villages に限らないことが驚きでした。どの村もみんな素敵です。
次に、景色ですが、これは文句なくすばらしい。どこまでも続く丘、牧草地、森、そして空。360°地平線が見えるようなロケーションにはしばらく行っていなかったので、ちょっと感動です。
最後に道ですが、これは予想以上にきつかった。無数のアップダウンの繰り返し。ここには平地はない! 明日からの行程にちょっと不安を抱くほどです。しかしきれいな景色を見ていれば、なんとかなるかな。
エルミタージュ付近から見るセル