スカイ島の二日目はブロードフォード(Broadford)から、島の中心となる街ポートリー(Portree)まで。
途中、島で唯一のウィスキー蒸留所であるタリスカー蒸留所(Talisker Distillery)に立ち寄る。
ポートリーがスカイ島の中心の街なら、ここブロードフォードは島の入口の街と言ってよいだろう。英国本島からアクセスすると、最初に着く大きな街がここだ。
その中心部はA87の旧道と思われる通りで、かわいらしい住宅やカフェが建ち並んでいる。
旧道が終わりA87に出るとほどなく、ブロードフォード川を渡る。
泥炭層から滲み出した有機物が川を黒い色にしている。
今日はしばらくA87を走らなければならない。この道はスカイ島の幹線道路なので車の往来が激しく、自転車向きではないが、朝のこの時間帯はそれほどでもない。
正面にスカルパイー島(Scalpay)が見えてきた。その手前に見える水面は、英国本島とスカイ島を隔てるインナー・サウンド(Inner Sound)という海峡だ。
スカルパイー島とスカイ島はかなり近く、その間をごく狭いLoch na Cairidh という水道が流れている。
先に山が見えてきた。
その中でも右端のものは、特徴ある双耳峰だ。
スカルパイー島との間の水道から奥へ延びるエイノート湖(Loch Ainort)に入った。
先ほどから見えていた山はこのエイノート湖の対岸にあるものだった。
道端に特徴ある家が建っている。これはクロフター(crofter)と呼ばれるスコットランドの小作農家の典型的な住宅だ。
クロフターを語るにおいては、クラン(Clan)と呼ばれる氏族制度とハイランド・クリアランス(Highland Clearance)について述べなければならないのだが、それらを割愛して簡単に言うと、18世紀半ばにイングランドに併合されたスコットランドでは、貴族やクラン・チーフはそれまでの特権を失い、小作人からの上がりだけでは生活が苦しくなる。そこでこれらの権力者たちは小作人を強制的に追い出して大規模な土地を確保し、そこで羊毛産業を展開するようになる。
小作人たちは海外に移住せざるをえなかったり、海辺や低地に追いやられたわけだ。
湖(Loch)と山と荒野、これがハイランドの景色だ。
ここはルイブという村らしい。
道はエイノート湖の奥へ向かっている。正面には二瘤山。
ルイブを過ぎると周囲にはまったく何もなくなる。
正面は山、右手はエイノート湖、そして左手には荒野が続くばかりだ。
エイノート湖のどん詰まりまでやってきた。
ここからはA87を離脱してカントリーロードに入る。
その道はエイノート湖の北岸に続き、山裾を穏やかに上って行くのが見える。
ここのカントリーロードは舗装状況があまりよくない。穴ぼこは開いていないが、表面がザラザラでちょっと走りにくい。
そのザラザラ道はいきなり上りだ。
朝から見えていた山がぐっと近付いてきた。
その頂部にはゴツゴツとした岩肌が現れ、中腹より下はヘザーだかヒースだかで覆い尽くされている。高木は一本たりとも生えていない。この高木がないということが、荒涼とした風景を創り出す一因かもしれない。
上っていた道がいつの間にか下りになった。
平面的にも大きくUターンして、エイノート湖に流れ込む小川を渡る。
この小川からは再び上りだ。勾配はあまりきつくないが、あのザラザラ道が続いていてここも上りにくい。
しかし、横にはエイノート湖、その周囲には幾多の山並みと、素晴らしい景色だ。(TOP写真)
エイノート湖を出て再び Loch na Cairidh に入る。
横に浮かんでいるのは朝から見えていたあのスカルパイー島で、その左はラッセイ島(Raasay)。この両島の間、彼方にうっすらと見えるのが英国本島。
水道の中にはまん丸の養殖用プールが浮かんでいる。
スコットランドでは鮭の養殖が盛んだと聞いたことがあるが、いったいどんなものを養殖しているのだろう。
A87から東に飛び出した半島の北側にやってきた。
先にはこれまでとは異なる山が見えている。とんがった頂が三つ。
半島周遊が終わりA87に合流すると、右手は入り江のスリガチャン湖(Loch Sligachan)になる。
スリガチャン湖に入るとすぐ、ラッセイ島からのフェリーが着くスコンサー(Sconser)があるが、フェリー乗場周辺にはカフェなどは見当たらず、トイレ休憩だけで先へ進む。
スリガチャン湖がどん詰まりになるころ、先にギザギザ山が見えてくる。
ブロードフォードとポートリーのちょうど中間にあるスリガチャンに入ると、スリガチャン川を渡る。
先ほどから見えていたギザギザ山はどうやらスガー・ナン・ギリアン(Sgurr nan Gillean)で、その左にあるのはマースコ(Marsco)という山のようだ。このあたりにはたくさんハイキングルートがあり、ハイカーが大勢やってくるらしい。
スリガチャンのアウトドアの拠点となるのがスリガチャン・ホテルで、私たちはここのバーで一休み。時は11時半。宿泊客の中には、ここで遅い朝食をとっている人もいる。
日本でバーというともっぱら酒を売るところだが、こちらのそれは酒類はもちろん、コーヒー、紅茶に始まりミルクやジュースなどの飲物もあり、大人はもちろん子供も出入り自由なところだ。一般的なバーではランチやディナーを出すことも多い。酒の販売は法律で正午からと決まっているようで、午前中は売らない。これはスーパーマーケットも同じだ。
英国といえば紅茶が有名だが、ここがスコットランドだからなのか、はたまた英国ではそれが一般的なのか、紅茶はティーバックでサービスされる。当然大してうまいものではない。最近はコーヒーも飲まれるようだが、これはイタリアンレストラン以外のものは飲めたものではない。アメリカンをさらにお湯で割ったようなしろものだ。
ということでここでは、スコットランドではコーラを凌ぐ人気だという国民的炭酸飲料のアイアン・ブルー(Irn Bru)を試してみた。オレンジとブルーの派手なパッケージの中身をグラスに注いで驚いた。中身もオレンジをさらにどぎつくしたような色だ。その味は、甘みが非常に強い。はっきり言ってそれ以上のことはわからなかった。。。
スリガチャンからはA87を離れ、A863でタリスカー蒸留所へ向かう。
周囲はスガー・ナン・ギリアンやマースコを始めとする山々に囲まれている。
ちょっとした坂を上って行くとマースコがうしろに去り、スガー・ナン・ギリアンもほどなく後方へ。
この道は山間の谷を通っているようだ。
ピークを過ぎるとハーポート湖(Loch Horport)への下りが始まる。
ちょっと下って平坦になり、ちょっと下って、
今度は上り。ハイランドは一筋縄ではいかない。そこら中にアップダウンがある。
周囲は高い山がなくなり、ハーポート湖に落ちる丘が連なる。
エイノート湖や Loch na Cairidh はスカイ島の東海岸だが、ハーポート湖は西海岸だ。スカイ島を東から西へ横断したわけだ。
ハーポート湖は海の深い入り江なので、潮の満ち引きがあるのだろう。この時、このあたりは水が引いていて湿地状になっている。あるいはここが川と海の境なのかもしれない。
さらに結構な坂を上るとハーポート湖は水に満たされ、民家がポツポツと建っているのが見える。タリスカー蒸留所のあるカーボスト(Carbost)に着いたらしい。
ここは両岸共になだらかな丘が続く。
ここからタリスカー蒸留所までは下りだ。
ぐわ〜んと一気に下って、
タリスカー蒸留所に到着。ここはスカイ島唯一のウィスキー蒸留所で、その歴史は古く、1830年に設立されている。
ここには45分ほどの見学ツアーがあるので、それに参加することにした。ツアーは参加人数が制限されているためインターネットでの予約を試みたが、これはうまくいかなかった。しかし運良くこの回には空きがあった。
蒸留所を見学するのは初めてなので他との比較はできないが、規模は想像よりこじんまりしており、近年NHKのドラマで放映された『マッサン』に出てくるものとあまり変わらない感じだ。
まず、原料の説明があった。主原料は大麦と水で、ピート(泥炭)は麦芽を乾燥させる際に燃焼させ、スモーキーフレーバーと呼ばれる独特の香り付けに使われる。スコッチウィスキーといえばこのスモーキーフレバーだが、中にはピートをまったく使わない蒸留所もある。
ワインは完全にぶどうだけから作られるが、ウィスキーは穀物に加え水が必要だから、水がかなり重要な要素だとのこと。
製麦(モルティング)[浸麦、発芽、乾燥] は別の場所でやられているようで、見学できる工程は醸造 [仕込みおよび発酵] からだが、ここからは撮影禁止ゾーンとなるため簡単に説明を。
仕込みはマッシュタンという平べったいお椀を被せたような容器で行われ、麦芽から麦汁が作られる。
発酵は麦汁に酵母を加えもろみを作り出す工程で、ウォッシュバック(発酵槽)には酒や醤油のそれと同じような大きな木の桶が使われる。
次はいよいよ蒸留だ。マッサンにも出てきた銅製で瓢箪を潰したような形のポット・スチル(単式蒸留器)で、水とエタノールとの沸点の違いを利用し、蒸留がおこなわれる。ここで得られる液体は無色透明だ。
最後の工程は熟成だ。取り出された蒸留液はオーク樽に詰められ、3年以上熟成させることが法律で定められている。このオーク樽は木の香りが適当にあり、またそれが強すぎないものが要求され、シェリーの空き樽が最高らしい。上の写真にあるように、ここの最古の樽は1919年のものである。
蒸留所の見学を終えラウンジに戻ると、ウィスキーのテイスティングだ。ここで飲み方のアドバイスを受けた。ストレートのウィスキーに水を一滴か二滴垂らすと、赤ワインが空気に触れて花開くように、ウィスキーもまた水と反応し、香りが立ちまろやかな味になる。
タリスカー蒸留所のあとはスカイ島最大の街ポートリーへ向かう。
ここからはハーポート湖の奥まで引き返し、対岸を行くことになる。
ハーポート湖の対岸が近付いてきた。
その斜面は赤い。一面をヘザーが覆っているのだ。
ドライノック川(River Drynock)を渡るとすぐにA863に入り、上りが始まる。
うしろにはあのスガー・ナン・ギリアン周辺の山が見えているが、角度が変わってまったく異なる山に見える。
この上りは斜度がきつくなく、ハーポート湖の対岸が眺められて気持ちいい。
この丘もヘザーだらけだ。
ハーポート湖の出口が見えたところでA863を離れ、内陸のシングルトラックに入る。
A863はハーポート湖からその出口にあるベアグ湖(Loch Beag)を廻って進むが、この道はそれを少しショートカットするし、何といっても細道だから気分がいい。
しかしちょっとアップダウンがある。
ひと上りすると、先にブラカデール湖(Loch Bracadale)が見えてくる。その先はスカイ島の西端のデュイリニッシュ半島(Duirinish)だ。
この頂部からベアグ湖の奥へ落っこちると、先ほど分れたA863に合流する。
A863はベアグ湖とそこに流れ込むアマー川の間を渡り、対岸へと延びて行く。
これがベアグ湖で、
こっちがアマー川だ。
アマー川の方は両岸とも際まで丘が迫り、その間隔も狭いが、ここでぐっと広がりベアグ湖となるのだ。
ベアグ湖は西海岸にある。一方、本日の終着地のポートリーは東海岸にあるので、ここからスカイ島を横断することになる。
ということで、また上りだ。
えっこらよっこらと上るサリーナ。
へ〜こらサイダー。
こちらではサイクリングは結構盛んなようで、時々サイクリストに出会う。
多くはツーリングバイクだが、この時は珍しくMTBに乗る方とすれ違った。
道はどんどん上って行く。
周囲はなだらかな丘が続くだけで、まったく何もなし。
標高150mまで上ると道は下りに転じた。
どうやら最高点を過ぎたらしい。
このあたりは日本ではほとんど見られない風景が続く。
ボグ(泥炭地)が広がる原野が丘を覆っている。そこには木一本立っていない。
下りになったけれど、そんな中にもアップダウンはある。
丘の上にも川は流れており、そこまで下って上るのだ。
原野の中をどんどん行くと、先に低い山が見えてくる。
あれはポートリーの北にあるトロッターニッシュ半島の山塊だ。あの山の南(右手)の端に向かうポートリーはある。
道脇に見慣れないものが出てきた。これがピート(泥炭)だ。
ピートは燃料にしたり、ウィスキーの麦芽を乾燥させるのに使われることが多い。それを採掘しているのだ。
道はその後も下り続ける。ポートリーの湾が一瞬見えたが、それは上り坂で隠れ、その後も起伏に隠れて一向に姿を見せない。
そのうちにポートリーの街に入って、湾に面したB&Bに到着。
ポートリーには美しい湾がある。それは Loch Portree というからポートリー湖となろうが、これは海だ。
そしてその湾があるポートリーはスカイ島最大の街で、スカイ島観光の拠点となるところだ。スカイ島はスコットランドでもかなり人気の観光地で、この時期はわんさかとポートリーに観光客が押し寄せる。ところがポートリー自体は人口二千人ほどの街なので、B&Bもレストランも満杯になる。そんなわけでこの夜に訪ねたレストランはことごとく満席で、あやうく夕食をとりはぐれるところだった。
さて、明日はスカイ島の北部のトロッターニッシュ半島を巡る。そこは風光明媚なところとして知られ、クワラング(Quiraing)やオールドマン・オブ・ストー(Old Man of Storr)といったトレッキングに最高なところがあるという。楽しみだ。