今日はポストイナ(Postjna)から西へ向かい、まず世界遺産のシュコツィアン洞窟群(Škocjanske jame)を見学します。そしてさらに西へ進んでイタリアに入り、アドリア海岸のトリエステ(Trieste)まで走ります。
朝の気温は20°C。この気温、通常から比べるとかなり高いらしいのですが、東京に比べるととても涼しく感じます。この時間帯はサイクリングにちょうど良い気候です。しかし今日も日中は34°Cまで上がるといいます。暑くなる。。
ポストイナは小さな街で、走り出すとすぐに市街地を抜け出ます。
シュコツィアン洞窟群までは30kmで、409号線をまっすぐ。
この409号線は日本で言えば国道に相当するものだと思いますが、あまり広くありません。都市部を除けばこうした道は、二車線で路側帯がほとんどないというのがスロヴェニアのほぼ標準です。
もっとも、人口が少ない上にこの道に並行して欧州自動車道路が通っているので、大して車は通らずあまり問題はありません。
ポストイナ周辺の景色です。周囲は畑で先に小高い山が見えてきました。
ここは牧草地のようで、奥は小麦畑のようです。
スロヴェニアでは主食であるトウモロコシや小麦と、ビールの原料のホップが多く生産されています。また豚、牛、羊などの家畜も飼育されているようです。
大きな木の並木がありました。
その並木を抜けると、あの山が近付きます。
スロヴェニアは北にアルプス山脈を抱える山国で、その他の地域も山がちで起伏が多いのです。
409号線はまずまず走りやすい道と言えますが、『二本道があったら狭い方を行け!』が私たちの奥義なので、できるだけ409号線から離れるようにします。
ちょうど旧道と思われる道が見つかったので入ってみました。ここはフルシェヴィエ(Hruševje)という村です。
フルシェヴィエを出て409号線に戻ると、先ほどから見えていた山が迫ります。
白っぽい山肌は石灰岩が露出したところです。このあたりから西はカルスト地形の語源となったクラス地方(Kras)で、大地は石灰岩でできているのです。
ヨーロッパの街はたいてい小さいですがはっきりとした塊になっていて、日本のようにどこからどこまでが街なのかわからないということはありません。
このあたりは小さな集落が数kmごとに現れます。
ラズドルト(Razdrto)を出ると道はちょっとした上りになりました。
ここでうしろからサイクリストがやってきて私たちを追い抜いていきました。パニアバッグを付けているのでツーリストです。スロヴェニアはかなり自転車フレンドリーで、サイクリストもたくさんいます。
次の集落のソノジェチェ(Senožeče)は村の外側を進んで行きます。
シュコツィアン洞窟群へはこのあたりで409号線を離れ、ダート道を行くことも考えられますが、昨日ダートでひどい目に遭った私たちは安全策を取り、このまま409号線を行くことにしました。
ディヴァーチャ(Divača)が近付くと、先に山が見えてきました。
シュコツィアン洞窟群はあの山のどこかにあります。
ディヴァーチャはこのあたりでは比較的大きな街で鉄道駅があり、シュコツィアン洞窟群の玄関口となる街ですが、私たちは特に用はないのでその外辺部をかすめて進みます。
道脇にシュコツィアン洞窟群の大きな案内板が立っているところで409号線を離れ940号線に入りました。
ディヴァーチャから4kmほどで世界遺産のシュコツィアン洞窟群のビジターセンターに到着です。この施設は昨日訪れたポストイナ鍾乳洞のそれと比べるとかなり地味で、チケット売り場と小規模な土産物屋、それにカフェ・レストランが一軒あるだけ。
シュコツィアン洞窟群にはガイドツアーによってのみ入場できます。コースは二つあり、メインの地下渓谷巡りと、これにレカ川(Reka)の地下渓谷を加えたものとです。メインの方だけでも距離3km、最深部は144mとアップダウンが多く、所要二時間と結構ハードそうなので、私たちは前者を選択。
ツアー開始まで少し時間があるので、シュコツィアン洞窟群の上を散策してみることにしました。
写真で奥の教会のところとそのずっと手前が凹地になっているのがわかるでしょうか。奥はマーラ・ドリーナ(Mala dolina)、手前はヴェリカ・ドリーナ(Velika dolina)と呼ばれる大きな窪みです。
ドリーネ(doline:語源はスロヴェニア語の谷)はカルスト地形特有の凹地で、地面が雨水などによって溶食されたり、陥没したりしてできるものです。
シュコツィアン洞窟群はこうした地形の下にあるのです。
こちらがヴェリカ・ドリーナ。断崖の高さは160mあるそうです。向こう側からレカ川が滝になって流れ込んでいるのが見えます。
このレカ川は私たちが立っているこちら側の断崖の下で再び地底に潜って行きます。
地底に潜ったレカ川はここから30km以上地下を流れて行き、アドリア海に注いでいます。
このレカ川は、深さ200m以上、長さ6kmにおよぶ地下洞窟、地底湖、滝などを作り出します。シュコツィアン洞窟群はこの川に沿って形成されており、私たちはツアーでその一部を巡ります。
午前10時、ツアー開始の時刻になりました。ビジターセンターの近くには洞窟の入口らしきものは見当たらなかったので、どこにあるのかなと思っていると、ガイドが突然歩き出しました。
なんだかあさっての方に行くな、と思っていると、道路を渡ってさらにどんどこ。
森に入って緩い坂道を下って行きます。
下の平場に出ると洞窟の入口が現れました。ここまでビジターセンターから10分ほどです。
ここで言語ごとにグループ分けがされます。ツアーには日本語でのガイドはもちろんオーディオガイドもないので、私たちは英語のグループに入りました。
洞窟の入口の横にある案内板の前で、一通りガイドの説明を受けます。その後ガイドが入口の扉の錠をガチャっと開けて中に入ります。洞窟内の気温は12°Cとのことで、ポストイナ鍾乳洞より暖かいです。
写真は出口です!
なぜかって? 洞窟の内部は撮影禁止なのです。ちょっとつれない気がしますが、撮影で滞留が起こらないようにするための配慮でしょうか。
これは出口付近から洞窟を見返ったところです。
このあたりだけを見てもこの洞窟の雰囲気と大きさがおおよそ感じられると思いますが、内部はもっともっと凄いです。
写真がないのでシュコツィアン洞窟群についてちょっとだけ解説すると、お題目的には次のようになります。
少なくとも200万年以上前から形成されてきた鍾乳洞で、ヨーロッパで最も深く最大規模の地下洞窟群である。1万年以上前に人が住んだ痕跡があり、多くの出土品が採掘されている。
しかし感動するのはやはり、巨大な地下空間の中を川が流れているということでしょう。水が滴り落ちる音、流れる音。そして水が遥か頭の上まで来ていた痕跡。これは何とも言えない感じです。
もう一つは、真っ暗闇の中をかつて探検家たちが辿った痕跡。探検家というのはまったく大したものです。もしここに照明がなかったらと考えると、とてもこんなところにはいられません
この空間を見るとやっぱり自然への畏怖の念が沸き起こります。
ツアーはここで終わりです。洞の出口の先はヴェリカ・ドリーナの中でした。そそり立つ岩壁の中の緑が眩しい。
ここからビジターセンターに戻るルートは二つあります。疲れていたらリフトで、そうでなかったらヴェリカ・ドリーナに沿って歩いてみてください、とガイドが言うので私たちは歩くことに。
先に小さな滝が見えます。あの滝がレカ川です。
何枚か前の写真でドリーネの上からのものを紹介しましたが、ここでレカ川がヴェリカ・ドリーナに流れ込んでいるのです。そしてこの流れが壮大なシュコツィアン洞窟群の中を流れて行くのです。
ヴェリカ・ドリーナの中腹を抉り取って遊歩道が造られています。
この遊歩道を進んで行くと『滝→』の標識があったので行って見ました。
この流れは先ほどドリーネから見えた滝のすぐ上流です。レカ川はこんなふうに地底を複雑に流れているのです。
地上に上るルートの途中にきれいな小さな花が咲いていました。
どこかで見たような花だなと思ってよく観察すると、花の大きさは2〜3cmととても小さいのですが、これはどうやらシクラメンのようです。シクラメンの原産地は地中海沿岸のようなので、原種に近いものでしょう。
かなりヘトヘトで正午ちょうどにビジターセンターに戻りました。出発からちょうど二時間です。
このシュコツィアン洞窟群とポストイナ鍾乳洞は比較されることが多いですが、同じ鍾乳洞とは言ってもまったく性格が違います。それぞれの魅力を一口で言えば、前者は荒々しくダイナミックで探検心をくすぐる洞窟の空間構造そのものであり、後者は鍾乳石の造形美と観光のしやすさにあります。あなたがドキドキするような冒険が好きだったら前者を、美しい造形に興味があり、子連れだったら後者を薦めます。
ここで昼食をとりながら一休み。ローストビーフサラダとマッシュルームのパスタです。スロヴェニアはイタリアの隣にあり、イタリア文化の影響を大きく受けた国なので、パスタはたいていどこでもおいしいです。
一休みしたらシュコツィアン洞窟群を出てトリエステへ向かいます。
やってきた道を409号線まで戻ったあとのルートは思案のしどころです。まっすぐ西へ向かう道は近道ですが、一部はダートのようです。ディヴァーチャを経由すれば間違いはないのですがこれはちょっと遠回り。
分岐点で様子を伺うと、西へ向かう道のイントロは広めの舗装路で問題なし。ダート部分はこの延長なのでそう大きな問題はなかろうと、ここは近道を選択。
予定の場所から砂利道に突入。
この砂利道は昨日のようなガレ場もなく、普通の大きさの砕石が敷かれた一般的な道だったので問題なく通過できました。
ちなみにこのような砂利の舗装をマカダムと呼びます。英国の土木技術者マッカダム(John Loudon McAdam)が開発した舗装法だからです。海外の自転車ルート案内に舗装状況が書かれている時、Macadamとあったらこれです。
ダートを抜けた先の街はロケフ(Lokev)です。ここで205号線に入ると道は穏やかな下りになり、快調に進んで行きます。
ロケフの少し西にあるリピツァ(Lipica)は、16世紀にハプスブルク家が品種改良によって生み出したリピッツァナー(Lipizzaner)という馬の産地として有名です。これは真っ白な馬で、ファームの見学もできるようです。
国境を通過してスロヴェニアからイタリアに入りました。両国ともEUでシェンゲン協定に加盟しているため、国境とは言っても道脇に小さな標識が立っているだけです。
イタリア側の最初の街はバソヴィッツア(Basovizza)です。ここまで来るとトリエステはすぐそこなので、ちょっと休憩していくことにします。なんだかガヤガヤと賑わっている食堂があったので入ってみました。
この店の名にはトラットリアとありますがここはバールのようなところで、みんなカウンター周りで飲んでいます。
なにか面白そうな飲物はないかなと辺りの人々の飲物を観察すると、ワインの人もいればコーヒーの人もいます。おじさんたちはたいてい昼間っから飲んでいるのです。このあたりではこれ、フツーです。
その中で目に留ったのが白っぽい色の飲物とピンク色の飲物です。何か訊いてみると、グレープフルーツジュースと赤ワインの発泡水割りでした。
ワインの水割りは日本では一般的ではありませんが、イタリアやスペインでは特に暑い夏に良く飲まれます。この時の気温は35°Cで、暑っう〜〜
こちらに来ると体感できますが、日本の暑さとこのあたりの暑さでは種類が違うと言うかなんと言うか、もっとカーッと暑いとでも言うのか、それで日中飲むにはワインではアルコール度数が高すぎると感じるのです。ビールでもいいのですが、そのビールでさえアルコール度数が高いと感じてしまいます。
ここの飲物代は二人で2.4€。安いです。
一休みしたらトリエステへ向かいます。バソヴィッツアの先はず〜っと下り坂!
ぐわーっと快調に下って行くと、
左手の視界が開き、トリエステの街が見え出しました。
街の向こうに見えるのはアドリア海!
トリエステは人口20万人の大きな都市です。
この街は第一次世界大戦まで長い間オーストリア=ハンガリー帝国の統治下にあったので、今でもウィーン風の建築とカフェテリアが多く見られます。また中世からの貴重な建築物も残っています。
私たちの宿はサン・ジュストの丘(Colle di San Giusto)のすぐ近くの便利な場所にありました。
チェックインすると、宿のおじさんがコーヒーと赤ワインをごちそうしてくれました。コーヒーはモカで入れられたエスプレッソでおいしい。ここはイタ〜リア!
荷を解いたらまずシャワーを浴び、ビールで喉を潤します。スーパーで買うビールは500mlで1€程度と、スロヴェニア同様安くてうれしい。
アドリア海に面したイタリアとなれば、夕食は魚介類に決まりです。おじさんにいくつかレストランを紹介してもらって出かけると、内二軒は満員で入れず、三軒目でようやく食事にありつきました。
飲物は白ワインと発泡水を。普段は食前酒としてスパークリングワインを飲むことが多いのですが、こちらでは気候のせいかアルコール飲料より水がおいしいと感じるくらいなので、必ず発泡水を頼むようになりました。0.5Lで、白ワイン5€、発泡水2.5€。ワインは安く、水はこれからすると割高に感じます。
前菜にサーモンと白身魚のカルパッチョ。これはメニューにはカルパッチョとありましたが、日本的に言えばマリネです。生魚のカルパッチョをイメージしていたのでそれとは異なるものになりましたが、味的にはおいしいく、ボリューム的にも満足。
食べながら気付いたのですが、こちらでは基本的には生魚は食べませんから、日本発祥である魚のカルパッチョはこのあたりにはないでしょう。
メインは、アサリ、ムール貝、手長エビ、エビのトマトソース・スパゲッティーニ。
アサリはおいしい貝です。大好きです。日本のものとは少し違いますが。ムール貝はあまりおいしくない貝ですから好んでは食べません。でもここのはまあまあでした。大西洋や北海のものに比べ、アドリア海のムール貝はおいしのかもしれません。(笑)
さて、アドリア海までやってきましたよ。明日はここトリエステの観光をして、スロベニア唯一の商業港にしてベネツィア共和国時代の雰囲気を残すコペル(Koper)まで行きます。そろそろビーチリゾートが楽しめそう。