昨夜の雨は止み、朝もやがかかっています。
今日は基本上りの山岳コースということで、コバリードの町をふだんより早めの7時過ぎに出発しました。
すぐに、昨日の夕方通った『ナポレオン橋』に到着。
橋を渡って左岸を少し進んだところから、ハイキングでコジャック滝(Veliki Kozjak)をめざします。
左岸に渡り、すぐにキャンプ場に入ったのですが、川沿いを通り抜ける道が見つかりません。
ちょっとうろうろした後、少し内陸寄りのダート道を北に向かいます。
ソチャ川が見えてきたあたりで自転車では進めなくなり、木陰に自転車を置いてハイキング出発。学生らしい団体グループに会いました。
その先には川にかかる吊り橋が見えます。
吊り橋からは、ソチャ川に注ぐ小川のコジャック川に沿って歩いていきます。
アップダウンはほとんどなく、歩きやすい林の中の小道を進みます。
すると、橋の横に小さな滝がありました。岩を丸くえぐって流れ落ちています。
「やった〜、コジャック滝に着いた」とサリーナ。すると「違う違う、もっと先のはずだよ」とサイダー。
そうなの〜 とさらに歩いていくと、コジャック川の川縁に出ました。
ゴロゴロ石の間を川に沿って歩いていきます。
水辺には小さな橋もかけられて、ハイカーを滝まで導いてくれます。
昨夜の雨で滑りやすいので、気をつけて。
そして、縞模様の地層の浮き出た狭い岩場を進み、洞窟のようなところに入っていきます。
するとその先に、天井の岩の裂け目から落ちてくる滝がありました。これぞ『コジャック滝』です。
薄暗い洞窟の中で、スポットライトのような光を浴びながら細く流れ落ちるコジャック滝は15mほどの高さで、スロヴェニアでも最も美しい滝の一つと言われています。
しばらくは、ただ滝が落ちていく光景に目を奪われる私たちでした。
見上げると、天井の細い岩の隙間から光が差し込み、滝や池をきらきらと輝かせています。
地層の壁の間を抜けるような滝の洞窟への細いアプローチも、探検気分でコジャック滝の感動を盛り上げてくれますね。
コジャック滝の見学に満足し、再び吊り橋まで戻ってきました。これ、結構長くて揺れるんです。
この吊り橋を渡るとLazarというキャンプ場に出ますが、私たちは自転車を途中に置いてきたので来た道を戻ります。
雲が晴れ、青空が広がり始めています。
正面に見えるのは、ユリアン・アルプスのVeliki vrh(1,768m)やKrasji vrh(1,773m)でしょう。川ではカヌーを楽しむ人たちも見えました。
ここからダート道をコバリードの入口まで戻ります。
吊り橋まで右岸を通れば舗装路だったようですが、ダートも1km弱くらいなので、まあ良しとしましょう。
ナポレオン橋を通り、コバリードの入口からR203に入ります。
空はついに快晴。山並みの緑を楽しみつつ走ります。
コバリードを出て最初の村はTrnovo ob Sočiというところです。
ソチャ川の対岸、右手側には険しい山が屏風のように広がっています。
さらに進むと、次の村Srpenicaのあたりから、その北側に聳える2,000mを超える山々が姿を現します。頂上は岩場で不思議な形をしていますね。
周囲の眺めがすばらしい牧草地があったので、そこで小休止。「青空で景色はよくて、今日は最高だね〜」とサリーナ。
そんな山をめざして走っていくと、Žagaに到着です。
ここからR203はソチャ川に沿って右に折れ、東へと向かいます。
その曲がり角では、ウチャ川(Učja)を渡ります。
ウチャ川はイタリアから国境を越えてスロヴェニアに入り、Žagaでソチャ川に流れ込んでいます。
東へ向きを変えると、目の前にはまたしても屏風のような山並みが。今日はこの山並みの中腹まで上る予定です。
そして、ユリアン・アルプスのこれらの山々のどこかに、明日上る峠道があるはずです。
右手すぐそばにソチャ川の大きな流れが近づいてきました。
そして、北からソチャ川に流れ込むボカ川(Boka)を渡る橋の手前で自転車を停めました。
そこからちょっとハイキング。林の中の山道を上っていきます。
林の中には白く大きな岩が並び、木漏れ日の中でぼんやりと浮かんで何だかテントのように見えます。雰囲気はとてもいいのですが、結構な上り坂でちょっとぜいぜい。。
そして、到着した見晴し台から見上げると、扇のように削られた岩肌の途中から勢いよく流れ出る滝が見えました。ボカ滝(Slap Boka)です。
カルストの山で湧き出し地中を通ってきた水は、地上に出て30mほどで絶壁に至り、そこからボカ滝となって流れ落ちます。滝は2段で、上は高さ106m、下は高さ33mとかなりの迫力です。
こうして生まれたボカ川は1kmほどでソチャ川に流れ込み、スロヴェニアでも最も短い川の一つなのだそうです。
ボカ滝から戻り、道路沿いのホテル・ボカのテラスでラドラーを飲みながら30分ほど休憩。
そして再び自転車にまたがると、ここからはR203を離れてソチャ川を渡ります。ゆったりとした流れのソチャ川では、色とりどりのカヌーが浮かび、楽しそう。
ソチャ川の左岸は細い道ですが、車はほとんど通らずとても快適です。
しばらくは川のすぐ近くを走ります。
ソチャ川の川幅が広がったあたりでは、広い水辺の先に壮大なユリアン・アルプスの山並みが聳え立っています。
中央やや左にツンととがった山はRombon(2,208m)。
そこからは、ユリアン・アルプスの谷間で少し広い盆地のようなエリアに入ります。
ソチャ川の対岸には、このあたりの観光拠点的な町ボヴェツ(Bovec)がありますが、私たちが向かっているのはČezsočaという小さな村です。
林を抜けると、牧草地に出てきました。広い青空の下、緑の絨毯の真ん中にカーブを描きながら小道が続き、その周辺は険しい山々に覆われています。(TOP写真も)
このすばらしい環境は、自転車でのんびり走るのにピッタリ。サイクリングを楽しむ家族連れなどと抜きつ抜かれつしながら走ります。
この景色には、「こりゃ〜まいった。すごい〜」と満足げなサイダー。
Čezsočaの小さな集落に入りました。
正面の塔は聖アントニオ教会(Saint Anthony the Great Church)です。この教会は第一次大戦でダメージを受けた後、1927年にロマネスク様式で改修されたとのこと。
集落を抜け、再びソチャ川を渡ります。
河原には川遊びの人たちが大勢。その上には、北のユリアン・アルプスの山並みが連なっています。
ソチャ川を渡るとまた牧草地が広がり、その先にはボヴェツの町があります。町の南で再びR203に入ると車も歩行者も多く渋滞気味で、ここがこのエリアの観光拠点になっていることがわかります。
ボヴェツを抜けるとR203は北に向かいますが、私たちはソチャ川に沿って東へ進むR206へ。正面のとんがった山はSvinjak(1653m)。
ソチャ川に沿ってR206をどんどん進みます。
今日は上り基調とはいえ、ソチャ谷の谷間を走るこのあたりはほぼ平坦と言っていいほどで、川幅が狭くなり流れが出てきたソチャ川でカヌーを楽しむ人たちを眺めつつ走ります。
川の流れは場所によってはこんな感じ。
岩の間をえぐるような急流になっているところもあります。
ソチャの村の教会が見えてきました。
さて、時刻はもう1時近くになっています。R206沿いにはときどきキャンプ場や宿泊施設などがありますが、食事できるところは少ないので、この近くにあるレストランでお昼にすることにしました。
ところがそのレストラン、人はいるのに薄暗くて何だか様子が変です。
聞いてみると、「いや〜実は電気設備の故障で停電状態で、食事の用意はできないんだよ。自家発電で飲み物なら出せるけど」とのこと。ありゃりゃ。
とりあえず飲み物をもらいつつ「この辺に他のレストランはありませんか」と尋ねると、「この辺はみんな停電じゃないかな」との答え。ががーん!
とにかく先へ進むしかありません。ソチャ川をさらに遡ります。今日はこれから本格的な上りなのに、まさかお昼抜き?
このあたりにはほとんど集落はありませんが、ポツポツとキャンプ場や民宿があり、そんなところに架かる吊り橋でちょっと小休止。白い岩の川底を青みがかった水が流れて美しい。
ここで出会ったサイクリストはベルギーがら山を越えてはるばるやってきた強者で、「面白い自転車だね〜」と私たちの自転車を写真におさめていきました。
お腹をすかせながら走る私たちの目の前に、Rasor(2,601m)をはじめとする険しい山々が立ちはだかってきました。
景色はすばらしいのですが、あの山々の麓からは勾配のきつい上りが待っています。
と、その道路沿いに1軒のレストランが現れたではありませんか。何台もの車やさっきのベルギーのサイクリストもここで停まっています。
どうやら停電ではなくお昼を食べられるようで、「助かった〜」
時刻はもう2時。ゆっくりたっぷり、お昼をいただくことにします。
まず一品目は、まわりの人たちが食べていておいしそうだったシチュー。お肉と豆、麦、ポテト、マッシュルームなどが盛りだくさんに入っています。
そして二品目は、ひき肉のグリル。Ćevapčićiという名前で、『ケバブ』から来ているのでしょう。旧ユーゴの国々ではよく食べられているそうです。
お腹も満たされ、レストランを出て走り始めると、すぐにトリグラウ国立公園の観光案内所が見えてきました。
私たちが今走っているところは、『トリグラウ国立公園』の真ん真ん中。スロヴェニア唯一の国立公園で、最も低いトルミン渓谷からスロヴェニア最高峰のトリグラウ山を含むユリアン・アルプス東部に広がっています。
観光案内所を過ぎると、山々に阻まれた道は北へと大きく進路を変えます。
曲がり角から勾配がきつくなってきました。ハヒハヒ、と上るサリーナの後ろの山の間に、白い岩の稜線が見えています。この稜線の北東(写真では左)にトリグラウ山があるはずですが、見えていないようですね。
しばらく上ると小さな教会の建物が見えました。
そして、その先にはユリアン・アルプス植物園の入口があります。ここにはたくさんの高山植物があるようですが、時間がやや押しているため植物園には立ち寄らずそのまま進みます。
ヨロヨロと上ってきた目の前に、北の山の頂が白く見えてきました。2,645mのJalovecでしょう。このあたりは、どちらを向いても険しい山の頂に囲まれています。
そしてついに、分かれ道のT字路に到着しました。右手には、R206が九十九折のくねくね道となって上っています(サリーナの後ろ)。
この九十九折は明日の行程で、今日の私たちは左手の道を進み、宿へと向かいます。
左手の道は一般道で、九十九折ではありませんが、こちらも傾斜はさらにきつくなっています。
「ひええ、もうだめ〜」と10%前後の勾配の道をヨロヨロ1kmほど進むと、Koča pri izviru Soče(『ソチャ川源泉にあるコテージ』の意味)という山小屋に出ました。ここからは歩いてソチャ川の源流に行くことができるので、ハイカーがたくさん集まっています。
私たちも自転車を置いて源流へ。
ソチャ川は、ここまで私たちが通ってきたトレンタ谷からボヴェツ、コバリード、トルミン、モスト・ナ・ソチを流れ、さらにノヴァ・ゴリツァを経由してイタリアのモンファルコーネ近くでアドリア海に注ぐ138kmの川です。
源流から河口に至るまで美しいエメラルドグリーンの水を湛える川は、世界でも珍しいと言われているそうです。
山々に囲まれた谷の中、源流まで400mほどの距離を上っていきます。
そして、岩の間の小さな流れにたどり着きました。
このあたりがソチャ川の源流のようです。
しかし、その川辺まではかなりの急斜面で足場も心もとないので、サリーナは源流接近を断念。
岩から転げ落ちそうになりながらサイダーが撮った『ソチャ川の最初の流れ』がこれ。地下から湧き出た水が、苔むした岩の間を細く伝って流れています。
一方サリーナは、少し下の足場のいいところで、源流から岩の間を流れ落ちる澄んだ水を眺めます。
中央上やや右に、源流から下りてこようとする緑服のサイダー。わかりますか?
それは、こんな岩だらけの急斜面でした。
ここから流れ落ちた小川は、はるかアドリア海までの旅を続けていくわけですね。
そして、私たちの今宵の宿は、山小屋のまだ先です。その道はすぐにダートとなり、林の中を進んでいきます。木々の間からは白い頂の山々が顔をのぞかせています。
林が開けたところに、板葺きの数棟のロッジが現れました。
宿の名前、ケクチェヴァ・ドマチヤ(Kekčeva domačija)は『ケークの農家屋敷(Homestead)』という意味だそうですが、背景の壮大な山並みと、その中にたたずむ美しいロッジへのアプローチには度肝を抜かれました。す、すごい!
早速母屋でチェックイン。ご夫婦2人で運営している宿です。「自転車でどこから来たの? どこへ行くの?」とビックリされました。
ロッジの部屋に荷物を置いて、何はともあれテラスで一杯。テラスの周囲は牧草地、そして周りの森の向こうにはユリアン・アルプスの山々がどーんと構え、とにかくゴージャスな眺めです。
途中はへろへろでしたが「上ってきてよかったね〜」とご満悦のサリーナ。
背景の山は、方角からしてPrisojnik(2,547m)やRazor(2,601m)でしょう。
このすばらしいロケーションのテラスで、19時から夕食となりました。
宿泊客は5〜6組くらい。右手には小さなプールがあって、さっきまで家族連れが山の中の水浴びを楽しんでいました。
食事は地元の食材を使った手作りの品が並びます。まずは猪肉ソースのニョッキ。
そしてお勧めのリースリングの白ワインは、辛口ですがとても味わい深い。オーストリアにある宿のご主人のワイナリーでぶどうを栽培し醸造したもので、車で3時間ほどで行けるのだそうです。
そしてメインは、ザワークラウトとハム、豆のスープ。ザワークラウトの酸味が口いっぱいに広がります。スープの底には厚切りのハムが隠れています。
最後にデザートは『シュトルクリ』。スロヴェニアではおなじみの食べ物だそうで、ナッツ類の餡をしっとりした皮で包んでシナモンを振りかけたものでした。ほんのり甘くてとてもおいしい。
日が暮れるにつれて、周囲の景色は刻々と変化していきます。
ゆっくり食事をしながら眺めるその景色は、一瞬も見飽きることはありません。
山の頂きに映る夕日は、どんどん頂上の切っ先まで上っていきます。
西を見れば、山かげに沈んだ夕日を受けて雲がオレンジ色に輝いています。そして日は暮れ、次第に月と星の輝く世界に変わっていくのです。自然の中に抱かれた静かな宿の滞在は、本当に贅沢なひとときでした。
さて、いよいよ明日はいきなり最大の難所、ヴルシッチ峠(Vršič)越えです。標高1,611mまで、果たして上りきれるのか?