爽やかな高原の朝。
澄んだ空気と朝の光に誘われてロッジの部屋から出てみると、すばらしい快晴です。
母屋のテラス側の草原に来てみれば、北の山並みに朝日が届いていました。
東を向くと、太陽はまだユリアン・アルプスの山々の背後に隠れています。
そして、そんなテラス席で朝ごはんです。
パンと紅茶、自家製のバター、ジャム、果物、そして今摘んだハーブがたっぷり入ったオムレツ。久しぶりの紅茶はいい香り。
山の間から朝日が差してきました。今日は峠越えなので、気合いを入れてスタート。
宿のご夫婦からエールをもらいます。「ヴルシッチ峠までは昨日よりずっときついよ! でも、その後はブレッドまではずーっと下りだからね」
まずは昨日来た道をT字路に向かいます。
険しい山に囲まれた林の中のダート道を行く。
そして舗装路に出たら爽快な下り。
「でもどうせ峠まで上るんだから、もったいないよ。下りたくないんだけどなあ」とサリーナ。
2kmほどでT字路に到着。標高差100mほど下りました。
標高800mのここからいよいよ上り。ヴルシッチ峠アタック開始です。
標高1,611mのヴルシッチ峠までは約800mの標高差を9kmで上るので、平均勾配は9%くらい。
「最初から結構きついなあ〜」とサイダー。
勾配のきついつづら折りのくねくね道がずっと続きます。そしてカーブのところには番号と標高を記した看板が。T字路を出て最初の看板は48番でした。ここは46番で、標高は896mと書いてあります。
「あと45もカーブがあるのか。。」と目的地の遠さに気合いを削がれます。あとでわかったのですが、この数字は下りのカーブも含まれているので、頂上までは半分くらい。
黙々と上っていくと、どんどん景色は開けてきます。
北の方の山並みが堂々とした姿を見せ始めました。山頂は白くて雪のように見えますが、カルストの岩場ですね。
カーブの続く道は、日向になったり日影になったりしながら林の中を進んでいきます。
ときどき車やモーターバイクが通っていきますが、「意外に自転車が少ないね〜」
方向が変わると、今度は南の山並みが見えてきます。
右前方のぎざぎざ山はZadnjiški Ozebnikかな。
41番カーブにさしかかりました。
ここでついに標高1,000m越え。ようやく200mほどの高度を上ってきました。「まだ600mもある」と思っていはいけません。
上っていれば南の山々が少しずつ上から横へと位置を変え、だんだん視界が開けていきます。谷底も姿を現してきました。
つづら折りをヨロヨロ上るサリーナ。
ヘロヘロと上るサイダー。
ずいぶん上ってきました。
目の前に屏風のような白い山の壁が迫っています。
くねくねカーブ道はほぼ終わり、まっすぐな坂道をさらに淡々と上っていきます。
白い大きな山々が道と並行してすぐ近くの横に並んでいます。
そして久しぶりのカーブの番号は25番。もう20以上のカーブを通過してきました。
標高は1,580m。これが峠への最後のカーブ、とペダルを踏みしめるサリーナ。
そして上ること約2時間半、ついにヴルシッチ峠に到着です。やった〜〜
ここは、スロヴェニアで最も標高の高い峠です。周囲の山々を縦走するスタート地点として人気の場所だそうで、車で来たハイカーがたくさんいました。
峠の頂上では、自転車で上ってきた人たちも結構見かけました。私たちのように南側から上る人より、北から上ってくる人たちが多いようです。
峠では、私たちが上ってきた南側の眺望が開けています。
そんな南を背景に、サイダーがポーズ。
峠の頂点のすぐ横を見上げれば、急勾配の荒々しい山肌の上に白い岩山が並んでいます。
さて、上り疲れたのでちょっと休憩しましょう。
峠の頂上から少し右手に上ったところにカフェ・レストランがあります。その上り道では、なぜか羊軍団がかなりくつろいでいます。
その先にあるのがこの Tičarjev dom というカフェ・レストランです。峠よりさらに見晴らしのいい場所でした。
まだ11時過ぎとお昼にはちょっと早いので、飲み物休憩。
そのカフェからの南への見晴らしはこんな感じ(TOP写真も)。
重なる山並みの絶景を背景に、満面笑顔のサリーナ。
一休みして元気を回復したら、いよいよ下り始めましょう。
まずはカフェから峠の頂上まで下りていきます。
そして、R206の峠の下りスタート。
このヴルシッチ峠は「ロシア人の道」とも呼ばれ、20世紀初めに1万人にも上るロシア人捕虜たちによって、軍事目的で建設された道なのだそうです。
背後には荒々しい白い岩の壁。
写真は上っているかのように見えますが、ずっと下りなのでご安心を。。
そして、下りとなる峠の北側でもつづら折りのヘアピンカーブが続きます。
南側と違って、こちらではカーブ部分はすべて石畳になっています。急勾配で滑らないようにと配慮してつくったのでしょうが、下り自転車にとってはボコボコでちょっと走りにくい。
周囲はゴツゴツした頂の山々が列をなして聳え立っています。
このすごい景色を一気に下るのはもったいないと、ときどき停まってゆっくり眺めます。
足元をみると、金属のような白銀の花びらの巨大タンポポが咲いていました。これはカルリナ・アカウリス(キク科)。2015年夏に上ったスペインのピコス・デ・エウロパでも見かけました。
山岳の景色の中をさらに下ります。
この下りでは、上ってくる自転車の人たちに結構出会いました。北のクランスカ・ゴーラから上ると12kmで約800mの標高差。周囲に広がる景色はこちらの方がよさそうです。
ゴツゴツした頂の連続を背景に下るサリーナ。
何度かカーブを曲がり、標高差で500mほど下りてきたところに『ロシア人のチャペル』(Ruska kapelica)があります。
自転車を置いて林の中を少し上ると、木造の建物が見えてきました。
1915年、オーストリア軍がロシア人捕虜を使ってここに軍事用道路の建設を始めましたが、1916年3月に大規模な雪崩が発生し、多くの人が犠牲になったといいます。同年11月にロシア人捕虜によってこのチャペルが建てられ、雪崩の犠牲者はその隣の小さな墓地に埋葬されたそうです。
チャペルの建物は木造で、板張りで覆われています。バロック様式の丸屋根を持つ2の塔があり、これはロシアではよく見られる様式だとか。
残念ながら中には入れませんでしたが、素朴なつくりながら界壁のある祭壇や、鋳鉄のシャンデリアや蝋燭立てなどが見所だそうです。
さらにどんどん下っていくとPišnica川が近づいてきて、橋を渡ったあとは川に並行して走ります。
川遊びや釣りを楽しむ人たちも見られました。
下りはほぼ終わり、川が流れ込む湖に出てきました。
このあたりには、周辺を走るファミリーサイクリングや峠を目指すロードレーサーなど、自転車の人たちがたくさんいます。
ここはヤスナ湖(Jasna Jezero)といって、川の間につくられた人造湖だそうです。
湖の北端に降りてみると、エメラルドグリーンの湖面のはるか先に白い三角岩の険しい山が聳えています。
湖沿いのどこかで昼食と思ったのですが、カフェ的なところはあってもレストランが見つかりません。
それではと、湖のすぐ先の町クランスカ・ゴーラに向かいます。
すぐにクランスカ・ゴーラの中心に到着。中央教会の塔が聳え、広場にはカフェやレストランのテラスが並んでにぎやかです。
ここは、スロヴェニアのユリアン・アルプス観光拠点となっている町です。自転車の人もとても多い。
そんな中の1軒、Gostilna Cvitarというレストランで昼食にしました。
サラダバイキングと、お肉ソテー3種盛りにお米を添えて。お肉は牛肉、豚肉とハンバーグ。かなりのボリュームでしたが、上りにエネルギーを使ったからか、ぺろりと完食。
満腹になって、再び自転車スタート。
クランスカ・ゴーラには、スロヴェニア・アルプス博物館や民俗博物館など見所もありますが、ブレッドまではまだ40km近くあるので残念ながらパス。
町を出ると、すぐに自転車道に入りました。
緩い下りの自転車専用道が東に向かって続いています。
こりゃ〜快適だわ〜、とサリーナ。
家族連れやカップルなどがたくさん走っています。
牧草地が広がっているところに出てきました。牛や馬もいます。
橋を渡ります。この川はサヴァ川(Sava)で、しばらくこの谷間を一緒に東へと進みます。
サヴァ川はグランスカ・ゴーラのすぐ西で生まれ、ここからブレッドやリュブリャナを通り、国境を越えてクロアチアを抜け、セルビアのベオグラードでドナウ川に注ぎ込みます。全長990kmのこの川は、リュブリャナ、ザグレブ、ベオグラードと3つの首都をつなぐ壮大な川なのです。
自転車道をどんどん進む。
旅の自転車も通り過ぎていきます。
そして、サヴァ川とは近づいたり離れたりしながら、一緒に進んでいきます。車が走るのはR201。
その先で、サヴァ川を渡るところが鉄橋になっていました。
何だか楽しい自転車道ですが、ここには昔トロッコ列車でも通っていたのでしょうか。
そして、しばらく走るとまた鉄橋があり、再びサヴァ川を渡ります。
橋を独り占めして楽しそうなサリーナ。
自転車道は続く、どこまでも。
「これなら余裕じゃな〜」と嬉しそうなサイダー。
家族連れの子どもたちも元気に走っています。
こんな雰囲気の中、あっさりブレッドに着くのかと思われたそのとき、、
Mojstranaを過ぎようとしたところで舗装路が途切れ、ダートになりました。「そ、そんな〜」と言いつつ、サヴァ川と並んでダートを走るサイダー。
ここは、Mojstranaの村を抜けて南側の道を行けば舗装の自転車道を進めたようですが、2kmほどで舗装の自転車道に戻ることができたので事なきを得ました。
このあたりから、舗装路ながら自転車道は丘を上ったり下ったりと少しワイルドになってきます。
勾配17%という看板も! もちろん押し。
そんなエリアを抜けると、今度は高速道路の横に出てきました。
この高速道路は、オーストリアのローゼンバッハから山の下のトンネルを7〜8kmほど抜けてやってきたものです。自転車じゃあ考えられない長さのトンネルですねえ。
高速道路をくぐって入った町はイェセニツェ(Jesenice)。鉄鋼業で発展してきた町だといいます。
町の中心部は通らず、サヴァ川とともに住宅地を走り抜けていきます。
さて、ようやく目的地のブレッドに近づいてきたようです。ここからサヴァ川を離れ、高速道路と交差したR634に入ります。
このR634、最初はずっと上りです。それもヘアピンカーブがあったりかなりキツくて、14%という看板も。車も結構通るのでちょっと怖い。
100mほどの高度差をヨロヨロと上ったら、Kočnaという住宅地を抜けて、気持ちのいい緩い下りに入ります。
周囲は森に囲まれた牧草地で、その中の爽快な一本道をびゅーんと飛ばします。
そして、いくつか住宅地を抜けたらブレッドの町に入ってきました。
私たちの宿はブレッド湖の北側の高台にあります。町の北から入ると中心部を通らないので、まわりはとても静かな感じ。
ついに到着しました。今日から3泊を過ごすのは、ホステルとアパートメントの部屋があるJazz Bledという宿です。
私たちはアパートメントの部屋へ。ダイニングキッチンと寝室があり、広くて設備も完璧で文句なし。
そして、宿のオーナーのおじさんはスーパーフレンドリー。「え、ヴルシッチ峠を越えてきたの? 君たちすごいよ〜!」と驚かれ賞賛された後、お勧めレストランとか湖のビーチとか、景色のいいところなどいろいろ教えてくれました。
シャワーを浴びて一休みした後、お勧めレストランに行ってみました。夕食はタコのマリネサラダと鱒のグリルに白ワイン。この鱒のグリル、オリーブオイルとビネガー、ニンニクのきいたソースをかけたイタリア風で、とても美味しい。
今日は、この旅唯一の峠越えを何とかこなし、ユリアン・アルプスの絶景も楽しむことができました。明日は峠の疲れを癒し、ゆっくりブレッド湖周辺を観光する予定です。