ユヴァスキュラからクオピオまで列車で移動してクオピオで一泊したのちの8月2日は、一日中のんびりと島と湖の景色を楽しみながら、船でクオピオからサヴォンリンナまで移動しつつ休養しました。
私たちが乗船したプイヨ号は小さな舟で、デッキの手すりに折り畳んだ自転車を縛り付けました。
プイヨ号は観光用というより地元の人々の日常の足のようで、ほとんどが地元の方の利用です。
フィンランドの湖水地方は湖が占める割合が25%と云われ、湖の中に島があるのか陸の中に湖があるのか分からないほどで、湖とも川とも付かない水面がどこまでも続いていきます。
舟から見えるのはだただた湖と森ばかりで、時折その森が開き、小さな農場と民家が見えるくらいです。
ここはそうしたところなので、陸路より水路の方が便利なのかもしれません。時々私たちのプイヨ号の横を小舟やヨットが通り過ぎていきます。
湖水地方の湖は黒い。
このあたりの土は黒く、それが水に溶けて黒い湖を作るのだと聞きましたが、これはおそらく寒冷地で比較的よく見られる現象で、冷涼な気候で堆積した植物の分解が進まないため泥炭層ができ、そこから流れ出した有機物が湖を黒く見せるためだと思います。
そうした黒い湖に、湖畔の白樺の真っ白な幹が映る様はひどく幻想的です。
湖は真っ平らに見えますが、所々に水門があって水位を調整しているようでした。どうやら平らに見える湖にも高低差があるらしいです。
船のエレベーター。
前方の水門が閉じたゾーンに船が入ったところで後方の水門を閉じ、ゾーン内の水を排水したのち前方のゲートを開きます。パナマ運河と同じですね。
こした水門があるところを振り返ると、左右の流れで若干ながら水位が異なるのが分かります。
ここは右側がちょっと高い。
私たちの航路の逆向きの船なのか、プイヨ号と同じ位の大きさの船とすれ違いました。
真っ黒い湖が延々と続いて行きます。島(陸?)はどれも標高数m程度で、鏡のような平らな湖に森だけが写し出されます。
湖の畔にはあちこちに小さな建物が立っています。なにかな、と思って聞いてみるとこれらはサウナ小屋とのこと。ここフィンランドはサウナの発祥の地と言われており、各家庭にはかならずといっていいほどサウナがあるのだそうです。
サウナ小屋にはデッキや桟橋がが設けられていることも多く、そこからザブンと湖に飛び込んでサウナで火照った身体を冷やすのです。
子供達は昼間から小屋の付近で水浴びをしていました。
朝の9時半にクオピオを出航したプイヨ号は夕方の18時半にサヴォンリンナのオラヴィに到着しました。
ここはフィンランドの三古城の一つだそうで、1475年に湖に浮かぶ小島に建設された要塞です。ほんとに要塞といった雰囲気で装飾的なものは一切なく、ちょっと不気味な感じです。
オラヴィ城で下船も出来ますが、その観光は翌日にしてサヴォンリンナに向かいます。20:45にサヴォンリンナに到着。港から1kmほどのホテルに到着すると、そこで声をかけてくる人がいました。この方はドイツ人で私たちの自転車のことを知っていて、珍しかったので話しかけたといいます。こんなことも珍しい自転車に乗っているからですね。
さて、ここからがフィンランド・サイクリングのメインイベントです。ゆっくりクルーズ休養のおかげで、翌8月3日のこの日は体調も万全でお天気もこの上なし。
朝一番でオラヴィ城を見学したら、観光案内所で情報収集です。自転車で楽しいところは? と聞くと、もちろんそれはプンカハリュ! との答え。プンカハリュはここから30~40kmのところにある、松林と美しい湖が広がるすばらしいところだとのことです。
地図をもらい、そのプンカハリュを目指すことにしました。
プンカハリュまで距離的に近いのは幹線路を使うことですが、私たちは景色のよさそうな南まわりのカントリーロードを選びました。
街を出るとほとんど何もなく、森と一本道だけが続きます。
しまった、水が! と思いましたが、まわりにはお店はおろか人家さえありません。20kmほど走ったところにたった一軒だけあった店でようやく水を入手、あやうく遭難するところでした。
道と森だけの景色が破れ、道端の木々の合間から湖が顔を出します。この湖も他の湖水地方のそれ同様、日本のように人工物で埋め尽くされることなく、ただただひっそりとしています。
真っ青な空の下、松林や草花に囲まれた道を爽快に飛ばします。
しばらく行くと陸のほうが多いか湖の方が多いかわからないほどになります。途中には古い鉄道の廃線跡を利用したらしい、快適なサイクリング・ロードがありました。
そのサイクリング・ロードが終わると松林が逆光の中に浮かび上がり、その向こうに湖が見えるようになります。
どうやらこのあたりが観光案内所のお姉さんが言っていた、自転車で凄く楽しいところ、のよう。
ここには森と湖の間の一本道が、緩やかなアップダウンを繰り返しながら8kmほど続いていました。サイクリングロードではありませんが、車はほとんど通らないので快適です。
先にフィンランドの湖は黒いといいましたが、ここでは空の青を写して、青く見えます。
プンカハリュはサヴォンリンナから続く陸地からちょっと離れたところの地名で、そこまでサヴォンリンナ側から、陸と言っていいかどうかわからないほどの、道路があるだけの細い陸で繋がっているのです。
木漏れ日を浴びて走るサリーナ。
この道は特に環境が良いからなのか、これまでまったく見掛けなかったサイクリングをする人とすれ違いました。
松林と陽を反射する湖は、息をのむほど美しい。
この8kmに及ぶ道を往復でゆっくり楽しんだあと、夕食にとすばらしいレストランがあるラウハリンナへ向かいます。
しかしラウハリンナまではずいぶんと距離があります。サヴォンリンナの宿に戻るのがあまり遅くなってもと思い、バス輪行にすることにしました。
ところがこのバスがいくら待ってもやってきません。仕方がないので自転車でと走りだした瞬間にバスがやってきました。急いで折り畳んで乗車、折り畳み自転車の威力を発揮です。
バスで下車したメルタラからラウハリンナへの道は途中からダートでした。その上結構なアップダウンです。ようやくたどり着いたレストランは、なんと18時半で閉店とのこと。仕方なくサヴォンリンナへ帰ろうと船の出航時刻を尋ねると、もうサヴォンリンナ行きの船はないとのことで、疲労が一気に噴出です。
親切なウエイトレスに水をもらってなんとか自転車でサヴォンリンナへ向かいましたが、気力が萎えてよろよろです。途中でトライアスロン・バイクのお嬢さんにあっさりと抜かれてしまいました。
この日は予定していた走行距離を大幅に超え、90kmオーバー。まあなんとか走り切れて良かったのですが。。