1996.08.14(水)
前日夜キューバからメキシコシティへ移動して宿泊、翌朝また飛行機に乗ってやってきたのはメキシコ中央高原の街グアナフアト。今回のメキシコは、中央高原の珠玉のコロニアル都市を訪ねる計画です。
グアナフアトは18世紀には世界の1/3の銀を産出していたそうで、その繁栄の姿をとどめる街並みはメキシコの代表的なコロニアル都市の一つと言われています。石畳の道に教会や歴史を感じさせる建物が並んでいます。
午前中に到着した私たちは、街の中心部にあるユニオン・ガーデンに面したポサダ・サンタ・フェというホテルに宿をとりました。
19世紀の建物を利用したホテルはなかなか良い雰囲気です。ガラスの天窓には花や孔雀など繊細な模様が描かれています。
そして、上階のテラスからはグアナフアトの大聖堂のクーポラが間近に見えます。すばらしいロケーションのホテル、気分は盛り上がります。
1階にはテラス席のあるレストランがあります。朝ごはんをここで食べるのは気持ち良さそう。もちろん夕食も楽しめそうです。
部屋に荷物を置いたら、早速街歩き開始です。ここグアナフアトは標高2,000mほどの高地にあり、日差しは強いけれど爽やかです。
大聖堂の前にあるラ・パス広場にやってきました。右手には貴族の邸宅の建物を利用した博物館などが並んでいます。
グアナフアトは山に囲まれた街で、細い路地の向こうに緑の山が見えるのも街の美しい景観の特徴の一つと言えるでしょう。
建物の壁面はざらっとした質感のものも多く、カラフルに色が塗り分けられていて楽しい。
ラ・パス広場から東に1ブロック進むとラ・コンパニア教会があります。
1765年に完成したこの教会は淡いピンク色をしていますが、これは石材の自然色だと言います。
この教会の見所は、ファサードの3つの門を飾るチュリゲラ様式の装飾です。
チュリゲラ様式といえば、ねじれ柱にゴテゴテした装飾過剰というイメージですが、これは多様な装飾が施されていても直線的な柱で比較的スッキリした感じです。
中央の入口の上部。ピンクの石にさまざまな装飾が施されています。
教会の中に入ってみると、高い天井の身廊の奥にペディメントを持つネオクラシックの祭壇がありました。
祭壇の前の交差廊には29.5mの高さになるクーポラがあります。
そこには3段になる窓が設けられており、教会内部に明るい光を招き入れています。
通りから教会の敷地に入る門の飾り。シンプルだけど美しい。
次に、ラ・コンパニア教会の隣にあるグアナフアト大学に入ってみました。
大学内のパティオからは、ラ・コンパニア教会のクーポラがよく見えます。
グアナフアト大学は、イエズス会の学校として1732年に創設された歴史ある大学です。
このパティオにつながる階段と踊り場は躍動感があって楽しいですね。
そして、大学の建物で印象的なのは、敷地の西側にあるバロックのようなファサードの音楽ホール、そしてそこに至る広い階段です。
この音楽ホールと階段は1955年に完成したもので、その直前の1952年に大学に音楽科が設けられ、グアナフアト大学交響楽団が創設されたのもこの年なのだそう。このオーケストラは、メキシコ初の大学が有するプロのオーケストラなのだそうです。
山あいに設けられたグアナフアトの街は、高低差が多く道が入り組んでいます。時にはこんな長い階段に遭遇してしまうことも。
そんな街では、階段だけでなくトンネルの道にもよく出会います。これはアロンソ通りに面する地下通路の入口。
トンネルの歴史は古く、街の下を流れるグアナフアト川の氾濫を解消するため、地下に水路と通路を築いたことから始まるそうです。
こちらはアロンソ通り。路地の正面に見えるのはサン・ディエゴ教会です。
そして、アロンソ通りから先ほどのトンネルの反対側を覗くと、またトンネルが設けられています。
これらは歩行者用のトンネルとなっていますが、例えば街の中心部の東西に伸びるミゲル・イダルゴ通り。当初は増水時の排水の目的で1883年に川の上に造られましたが、現在は街を通過する車の通路として機能しています。グアナフアトには、こんな地下の交通網があるのです。
アロンソ通りの突き当たりにサン・ディエゴ教会があります。
教会の下に見える道路はここからトンネルに入っていきます。こうした地下交通網の存在によって、街の美しい景観と楽しい街歩きが維持されているのでしょう。
ラ・ウニオン公園に面したサン・ディエゴ教会は1663年に建てられました。その後、1760年の洪水で大きな被害を受け、再生までに24年を費やしたのだそうです。
見所はファサード。このファサードは、メキシコのバロック様式の中でも珠玉のものと言われています。
ところで、メキシコではフォルクスワーゲンのカブトムシをたくさん見かけます。色もカラフルでかわいい。
ドイツでは1970年代に生産が終了していますが、メキシコ工場では生産を継続しているとのこと。
(*2003年にメキシコでもタイプ1の生産終了)
さて、いったんホテルに戻って一休み。そして昼食をとったら午後の部スタートです。
まずは、すぐ近くの大聖堂(バシリカ)へ。正式名称は "Basílica colegiata de Nuestra Señora de Guanajuato"とちょっと長い。1671年着工、1696年に完成したバロック様式です。
大聖堂前の通りはサッカーをする子どもたちで賑やか。子どもたちが遊べる通りっていいですね。
これも地下の道路網のおかげかな。
大聖堂をあとに、路地をたどって西の方角へ進んでいきます。
静かな、歴史を感じさせる小道。
パステルカラーの街並みに、またカブトムシを発見。
ちょっと目を引くファサードの建物も。
細い路地の中でも究極の、この路地は『口づけの小道』と名付けられています。
伝説によれば、この路地を隔てて犬猿の仲だった2軒の家の息子と娘が恋に落ち、互いの家の2階から口づけを交わしていたというもの。ロミオとジュリエットですね。やっぱり結末は悲しいもので、それを知った娘の父親が激怒して娘を殺してしまったという。
ここからは、ちょっと山登りです。グアナフアトの街を一望できるピピラ記念像の丘の上までわっせわっせと登ります。
この急坂を登った先の高台に、素晴らしい景色が待っていました。キツい登りを終えて、『最高の景色~』とユミちゃんの笑顔が弾ける。
眼下には、右手にサン・ディエゴ教会の連なるカラフルなクーポラ。そして左手には大聖堂。
大聖堂の奥にはグアナフアト大学とラ・コンパニア教会が並び、街並みのまわりを緑の山が囲んでいます。
白い街並みは、谷に沿って遠くまで続いています。グアナフアトを一望にできる素晴らしい見晴台でした。
街の中心部を歩き回って、グアナフアトの初日終了です。
1996.08.15(木)
グアナフアト2日目。今日は、街の中心から5kmほど郊外にあるバレンシアーナまで足を伸ばします。このあたりは豊かな銀鉱山があったところです。
バスを降りると、すぐ目の前にバレンシアーナ教会がありました。小さな郊外の村の教会にしてはとても立派なバロックの教会です。鉱山王のバレンシアーナ伯爵によって1788年に完成したものですが、教会の正面両側に2つ建つはずの塔は、左の塔のみが完成し右は未完のままです。
さて、この教会の前で絵を売っている絵描きさんに出会いました。『教会の絵はいかがですか』と見せられ、ユミちゃんが素敵な一枚を見つけて購入。すると、『じゃあ、今日の商売は終わり。このあたりは交通が不便だから、私の車で見所を案内してあげますよ』とのこと。これは嬉しい。
絵描きさんが『あまり観光客が行かないけどいいところ』とまず連れていってくれたのは、村の北にあるダムです。
1910年頃につくられたというこのラ・エスペランサダムは石積みで、デザインもなかなか優雅な感じ。
次に、パノラマ道路を通ってグアナフアトの街が見渡せる見晴台に着きました。白を基調にパステルカラーの建物がちりばめられています。
こちらは谷間に広がるグアナフアトの街の中心部。シリンダー状の白い建物はイダルゴ市場です。
親切で穏やかな絵描きさんと記念撮影。いろいろと現地情報を教えてもらいます。
続いてやってきたのは、カタという村にあるビジャセカ・デ・カタ教会です。こちらもとても立派な教会です。
チュリゲラ様式のファサードを持つこの教会は、1709年に建設が始まり1789年に完成したそうです。
再び車で走り始め、しばらくすると『あれは水道跡』と絵描きさん。
この谷を流れるドゥラン川の水を貯める施設だったのでしょうか。詳しくはわかりませんが、そんな谷を回り込んで進むと、、
道の正面に見えたのは、大きな石積みの崖地です。これは、ホアン・ラヤス鉱山といって、その名前は1548年にこの銀鉱山を発見したロバ追いの運搬夫に因むとのこと。
この鉱山は、18世紀の終わりには世界に知られるほどの銀の産出量を誇っていたそうです。
眺望を楽しみながら、グアナフアトの中心部に戻ってきました。一緒にランチを食べて、親切な絵描きさんとはお別れです。車がないとなかなか回れない郊外を楽しませてもらいました。
さてサリーナとユミちゃんは、また中心部の散策再開です。目指すはイダルゴ市場。
グアナフアトの中心的市場であるイダルゴ市場は、当初は鉄道駅として計画されたのだそうな。
確かにこの入口、そしてシリンダー状の建物は鉄道駅にも見えますね。
市場は1910年に完成。T字型の平面で、広い方のシリンダーの長さは70m、幅は35m。両脇に2階部分が設けられています。
広い1階部分は食料品が主体で、2階は衣類や雑貨を売っているようです。
野菜や果物など食材店に混じって軽食スタンドもあります。ジュースやサンドイッチを食べる人たちで賑わっています。
八百屋さん。玉ねぎ、トマト、なす、人参、ライムなどが色とりどりに並んでいます。
これはピーマンの類というか、唐辛子の仲間ですね。赤くて過激そうなやつもいます。
メキシコ料理はさほど辛いというイメージはありませんでしたが、火を吹く料理もあるのかな。
市場の横の木陰にも色々な露店が並んでいます。
花屋さんが多く、あとはお土産やさんかな。
近くの公園では古本市をやっていました。お客さんが結構集まっています。
ぶらぶら歩いてホテルの近くまで戻ってきました。
ホテルの前のラ・ウニオン公園は、並木が生い茂って快適な木陰をつくっています。木陰で休憩する人、カフェでくつろぐ人。
街角には、トウモロコシの屋台も出ています。焼きたてが美味しそう。1本がかなり大きいですね。
ホテルでしばらく休憩したら、今宵は音楽を聞きに行くことにしました。場所は街の西にある丘の上のコンサートホールです。
丘の上には2つの建物があります。一つはこちらのコンベンションセンター。さまざまな規模のイベント・会議等が可能なスペースがあります。
もう一つがこのグアナフアト州音楽ホールです。1,862席を持つこのホールは1991年に完成したまだ新しい施設です。
遠くから見ると、石の遺跡のような重厚な趣です。
音楽ホールのエントランスでは、ざらっとした巨大なコンクリート柱が丘の風景を切り取っています。
今宵は『音楽の中のスペイン』と題して、グアナフアト大学交響楽団がアルベニス、ファリャ、そしてビゼーのカルメンを演奏してくれました。