湯野上温泉駅
浅草駅を出た電車はスカイツリーの足元を通り、栃木、新鹿沼と北上して行きます。今市が近づくと日光の男体山がそのがっしりとした姿を現し、鬼怒川温泉あたりになれば、車窓に映る山々や木々は赤や黄に染まってきています。どうやら今回の紅葉狩りはよさそう! と期待が膨らみます。会津田島で乗り換えた列車はたったの二両編成のワンマンカーです。線路脇の紅葉はさらに鮮やかさを増してきているよう。
浅草から四時間。遠い! しかし深まり行く紅葉を眺めていたら、まったく飽きませんでした。辿り着いたのは会津鉄道の湯野上温泉駅です。乗ってきた列車がプラットフォームを去るのを待ち、線路を渡って駅舎に向かいます。その駅舎はなんと茅葺き屋根で内部には囲炉裏があり、雰囲気満点。
夫婦岩
湯野上温泉駅の前には大川(阿賀川)が流れています。そこを覗いてみると、対岸の紅葉の中に夫婦(めおと)岩がすくっと立っています。このあたりは川の両岸に切り立った岩が連なるのです。
湯野上温泉の宿の前で
その大川沿いに南下して湯野上温泉郷に入り、宿で車組と合流。左から、『今日もやるぜ!』のムカエル、『私もやるわよ!』のサリーナ、『久しぶりでちょっと心配~』のマーコン、『おいらは付いてくだけさ!』のペタッチ。
後ろの山もいい感じに色付いています。
湯野上のアーチ橋から南を臨む
しかし、今日の気温は最高7°Cとのことでかなり寒い。そこで遠出は避け、湯野上温泉の近場を巡ることにしました。ムカエルは大内宿に行ったことがないというので、ここまで来たからにはとその大内宿に向けて出発します。
まずは湯野上温泉郷の前の吊橋を渡って対岸に渡り、少し北上してアーチ橋の湯野上橋で国道に出ます。その湯野上橋から南を見れば、大川の流れと美しく色付いた両岸の木々がいい感じ。そして北を見れば、湯野上温泉駅からも見えた小野岳がすっかり色付いています。(TOP写真)
小野観音付近
国道を北上し、湯野上温泉駅を横目に見ながら進んで、大内宿方面の分岐にある小野観音までやってきました。
大川の支流、小野川の周囲も彩り豊かな木々に包まれています。
r329を上る
小野観音からはその小野川に沿ってr329を行きますが、ここからはちょっとした上りとなります。
普段なら大した交通量がなさそうなこの道も、紅葉シーズンということでか、大内宿へ向かう車がひっきりなしに横を通って行きます。これは予想よりずっと多かったので、このシーズンに大内宿を訪れる際にはちょっと注意が要ります。
道脇に小野川の流れ
道脇には小野川の流れ。ザワザワ、ザワザワ、というせせらぎの音を聞きながらゆっくりと高度を上げて行きます。
雪化粧の山
穏やかなカーブをいくつも曲がり前方の視界が開けると、その先に見える山の頂きは白くなっています。昨夜からの雨が山頂では雪になったのでしょう。
大内宿付近
しかしお天気は快復基調で、青空も現れ始めました。
広がった空間の先に道の大きな案内標識が現れると、大内宿はもうすぐです。この先の大内宿の駐車場付近では車が渋滞! これは大内宿は大混雑か?
大内宿入口付近
その車の脇をかすめるようにして進んで大内宿に到着。案の定、大内宿はその入口付近から大混雑でした。
かつて宿場町だったここは、大川沿いの国道121号の開通に伴い周辺から取り残され、忘れられ、茅葺き屋根のままひっそりと佇んでいました。その再発見は1969年(昭和44年)出版の『都市住宅』に精緻な実測図とともに紹介されたのがきっかけの一つだったように思います。そして1981年(昭和56年)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されます。
茅葺き屋根の家々
集落の中を通る幅6mほどの道の両側には小さな側溝があり、さらにかつては馬を繋いでいたという4.5mほどの空間を隔てて、主に寄棟造りの茅葺き屋根の家々が建っています。
しかし中には写真手前の家のように兜造りの屋根や、入口付近の現在は茅葺きでない家に見られるように入母屋造りの屋根を持つものもあります。
本陣跡前
全長450mほどの通りの中程には、かつてあっただろう本陣が近くの本陣を参考にして復元されています。
ふむふむ、なるほど、、、と本陣の説明書きを眺めるジオポタの面々。
1984年の大内宿
この集落が再発見された当時、だれが現在のような姿を想像したでしょう。
この写真は1984年のもので、ちょうど上の写真のあたりです。電信柱が立っており、土産物屋などはほとんど見当たらず、家の前には野良着の人と農作業車が見えます。
山を背負う民家
今は電信柱はなく、家々は食堂や土産物屋、民宿などを営んでいて、とくにこの日は大賑わい。
子安観音堂から大内宿を見下ろす
通りの突き当たりに一軒の民家があり、さらにその奥の高台に観音様があります。この観音様の周囲は紅葉が進んでいてなかなかいい雰囲気です。
その観音様に上れば大内宿が一望にできます。ならんだならんだ茅葺きの屋根がならんだ。
大内宿からの上り
かつての姿を知るものはその変貌した賑わいに驚き、はじめて訪れるものは連なる茅葺きの屋根に驚き、それぞれの驚きを胸に抱きつつ、大内宿を後にします。
大内宿からはその上にある大内ダムに向かいます。ということで、ここからもちょっとした上りが続きます。
大内ダムへ向かう
『ずいぶん上って来たような気がしますが、ダムはまだですか~』 と叫びつつ、先頭のマーコンもなんとか上って行きます。
大内ダム
大内宿から高度で100mと少し上り、ちょっと息が切れかかった頃、大内ダムに到着。『やっとついた~』 とホッと一息の面々。
ダムによって出来た湖の周辺はひっそりとしていて、なかなかいい感じ。
大内ダムから大内宿方面を見下ろす
堤の上から、やってきた大内宿方面を見下ろします。奥の大きな山の手前にちらりと見えるのが大内宿のようです。
大内ダムの堤を行く
ダム湖の周囲には東側にも西側にも道があるのですが、ここからは車がほとんど通らない西側のr330を使います。
大内ダム湖
対岸の小高い山もいい感じに染まりつつあります。
r330を行く
ちょっとお日様が顔を出して日が差すと、増々いい感じです。
市野峠への分岐
湖を半周して、蛇沢までやってきました。この先は市野峠を越えるか、r131のトンネルを抜けるかの選択です。一旦r131まで出てトンネルを確認しましたが、そこは交通量が多いし、市野峠の方が雰囲気が良さそうなので、ちょっと戻って市野峠に向かいます。
市野峠へ上る
市野峠に向かう道は舗装はされているものの、山道といった趣でいい感じです。
序盤はなんとか上って行ける勾配でしたが、
市野峠
峠付近はかなりの急勾配で、押しに。しかしここは湖畔から峠まで距離にして500mほどしかないので、押してもまったく問題ありません。
峠には案内板が立っています。それによるとここは、古代より、南の大内、田島方面と北の高田、坂下方面を繋ぐ重要な峠で、大名行列も通ったようです。そして明治時代には英国人女性のイザベラバードがここを越え、峠からの美しい眺望をその著書に記したとあります。
市野峠からの下り
国土地理院の地形図にある道と現在私たちが通っている道を比べると、若干ずれています。そして小さな案内標識に『イザベラバードの道→』とあるところからすると、この道は新しく整備され付け替えられたのでしょう。
市野峠からの下りその2
市野峠からの下りは素晴らしい!
この日は前日の雨で路面が濡れ、落ち葉もたくさん積もっていたので滑らないようにゆっくり下りましたが、淡い緑から黄色、薄茶、そしてほのかな赤と、微妙なグラデーションの木々の間を抜けて行く感じは、なんとも表現のしようがありません。
市野の集落
大きなカーブ、小さなカーブといくつものコーナーを抜けてどんどん下ります。
急なカーブがなくなり、勾配が穏やかになると市野の集落に下りて来ました。この集落もかなり古そうな大きな民家が建ち並んでいます。大内宿と異なるのは、かつては茅葺きだったろう屋根がトタンで葺き替えられていることと、道の片側にしか建物が建っていないことでしょう。
小川付近
市野の集落からは道が広くなり、そのあともいくつか小さな集落を抜けて山間を下り、里に下りて来ました。
小川窪の集落
周囲には畑や田んぼが現れ出し、道端にはいい色の柿が生っています。
田んぼの中を行く
勾配はかなり穏やかになったものの、まだ下りが続きます。市野峠からの下りはなんと15kmも続くのだ!
『さっきの峠からの下りは紅葉がきれいでしたね~。苦労して上った甲斐がありました。それにこんなに下りが続くなんて、いったいいつの間にそんなに上ったのでしょう?』 と、最初は峠道に恐れをなしていたマーコンが先頭でスイスイ。
ぽこぽこ山
振り返れば、山々がぽこぽこといくつもその頂を並べています。これはちょっとユニーク。
富岡のりんご畑
会津はりんごの産地でもあるようです。このあたりではあちこちでりんご畑を見かけるようになります。
そのりんご畑の隅っこをお借りして一休み。あっ、こらこらペタッチ、だまってりんごをもいではダメじゃあないか。みなさん、こんなことをしてはいけませんよ。
藤家舘付近のr23
南会津は360°山に囲まれています。どちらを向いて進んでも先に山が見える。この気分は他では滅多に味わえません。
r23は広々とした田んぼの中を進んで行き、ここは壮快に飛ばします。
福重岡のカントリーロード
そうはいってもやっぱりカントリーロードのほうがいいね。というわけで、福重岡で脇道に入ります。
ここは田んぼの中を行くのどかな道です。
馬越橋より南東を臨む
福永でこのカントリーロードはおしまいになり、r23日光街道に出ます。ここからは一本道で大川に架かる馬越橋までどんどこ。馬越橋はごく普通の橋ですが、そのすぐ脇に水道橋があり、こちらは吊橋で馬越橋より立派に見えるからちょっとおかし。
時はすでに15:40。日没まであと一時間ですが、山の日暮れは早いのでそろそろ上がりとします。
芦ノ牧温泉駅へ
大川に沿って会津鉄道が走っているので、一番近い芦ノ牧温泉駅に向かうことにしました。
駅まであとわずかというところでマーコンがパンク。ありゃりゃ。
芦ノ牧温泉駅
しかしなんとか修理して、芦ノ牧温泉駅に無事到着です。時間に余裕があったら大川沿いを湯野上温泉まで走っても楽しそうだし、ここで一風呂浴びて上がるのも良し。私たちは宿でゆっくり湯に浸かることにして、ここからは輪行です。
列車に乗ってから気付いたのですが、会津鉄道はサイクルトレイン。5月から11月末まで自転車をそのまま載せることができるのだそうです。これは便利なので、ぜひ続けてほしいものです。
さて、明日は大川ラインの景勝地、奇岩が連なる『塔のへつり』と静かな観音沼をメインに巡ります。きっと今日以上の紅葉が見られるでしょう。
大内宿にて
おまけの一枚
ひとこと by ペタッチ
今回のサイクリングで、会津にはまりました
大内宿や 塔のへつりなどの観光ポイントも立ち寄りましたがなんといっても、
坂を登った後、紅葉林道のながーい下り
坂を登った後、一挙に拓ける田園地帯と里山の紅葉
坂を登った後、整った森の紅葉を走りぬける爽快さ
いやーあ 今回はサイクリングというものを満喫しました
長く走るなら車 ゆっくり堪能するならRUN その中間のサイクリングの価値を見失いかけていましたが、会津の秋の姿に感謝です
サイクリングの腕前とは、ペダルをこぐだけでなく、こういうコース取りができるかどうかが、プロなのでしょう
企画提供者 サイダーに脱帽です 感謝
変速ギアの調整、パンクの速攻手当、またまたお世話になりました
ジオポタの先輩各位なしでは、どこにもいけないぺタマでした