2018年は台風の当たり年でした。計画していた紅葉企画の道の情報を収集すると、あちらこちらで林道が通行止めになっており、改めて今年の台風の威力を思い知ることになりました。そんなんで、なんと予定していた紅葉企画は全滅。ここはなんとか通れる道を探さなければなりません。
数年前に訪れてなかなか良かった、日光から足尾に抜ける旧道の細尾峠ならどうかと思って調べてみると、これは通行可。今年の紅葉企画第一弾は細尾峠に決定です。
この週末はお天気のはずが、直前になって予報が急転。曇りになって、しかも15時ごろに雨マークがあります。まあ足尾まで下ってしまえば、わたらせ渓谷鐵道があるのでどうにでもなるでしょう。
ということで、やってきたのは東武日光駅。
そこからすぐに大谷川(だいやがわ)の畔に出て西へ向かいます。
ここは正面には男体山が見えるはずなのですが、残念ながら今日は雲の中です。しかし空には青い色も見えます。このまま青空が広がってくれるといいな〜
大谷川の上流は中禅寺湖で、そこからから落ちるのはあの有名な華厳の滝です。
そんな大谷川もこのあたりではちょっとした川幅になっています。
道がR119に突き当たると、大谷川に赤い太鼓橋が架かっています。神橋(しんきょう)です。
この朱塗りの木造橋は二荒山神社の入口にあり、北側には日光太郎杉なる巨木が立っています。神橋が現在のような朱塗りの橋になったのは東照宮の大造替の時(1636年)だそうで、かつては一般的には渡れませんでしたが、数年前より渡橋可能となりました。しかしこれには300円掛かります。
神橋からR120を少し行き、川沿いの小径に入ります。R120は結構車の通りがあるのですが、この道に入った途端にほとんど交通はなくなります。
このあたりの木々はうっすら色付き始めたところで、紅葉の見頃まではまだしばらくかかりそうです。
大谷川を渡る小さい橋までやってきました。
前回ここを訪れたのは2014年10月26日で今回より一週間遅く、やはりその時の方が紅葉は進んでいました。山の上の方は紅葉が始まっているといいのですが。
小橋を渡り少し行くと憾満ヶ淵です。
日光植物園の対岸にあるここは男体山から噴出した溶岩によってできた渓谷で、先ほどまでの大谷川とはまるで異なる様相を呈しています。
本日の参加者、左よりマージコ、サトちゃん、サリーナ。
憾満ヶ淵にはお地蔵様が並んだ並んだ。その数は70体ほどあるそうです。
ここはしっとりとした情緒が感じられるところですが、何箇所か段差があるので、自転車だとちょっと担がなければなりません。
憾満ヶ淵の奥まで進むと階段があり、これを上るとこんな静かないい感じの道に出ます。そのうち車の音が聞こえるようになりますが、これは日光宇都宮道路が横を通るようになったからです。
地図ではこの先は道がなくなっているように見えるので、前回は大日橋を渡り左岸に出ましたが、今回はこの道を先まで行ってみることにしました。するとかなり狭くはなるのですが遊歩道のようなものが延びていて、ちょっと担がなければなりませんが『やしおの湯』に抜け出ることができました。
やしおの湯の先で大谷川を渡ると、上流側に山が見えます。今日これから向かう細尾峠はあの山と山の間にあります。
日本ロマンチック街道という少し恥ずかしくなるような名前の道をどんどこ行き、日本キリスト教会を横目に進んで、R120を突っ切って細尾大谷橋を渡ります。
細尾大谷橋の先の細尾町交差点はR122の新道と旧道の分岐点です。
直進すれば現R122で足尾へ、右を行けば旧道で細尾峠を経てやはり足尾に抜けます。私たちはもちろんここは旧道へ。
この旧道の両側には民家が並んでいますがその密度は低く、交通もほとんどありません。
この通りのとある民家の垣根のドウダンツツジはすでに赤く染まっていました。
細尾町の交差点から1kmほど行くと、先ほど分れた現R122の高架橋が上を通っています。
ここで民家は途絶え、森に入って行きます。
高架橋をくぐるとすぐに左沢橋を渡ります。この橋を渡ったすぐ先に ”長い長い峠道案内図” があります。
これは私たちがこれから行く道の案内板で、細尾(左沢橋)→1.3km→日光側ゲート→6.7km→細尾峠→3.8km→足尾側ゲート→0.2km→足尾側国道分岐点 とあります。
ここから峠までは距離8.0km、高度差は400m少々で平均勾配5.3%です。そして足尾側の国道に出るまではちょうど12.0kmです。
案内板から先はまずは針葉樹林帯を行きます。
この上り始めの勾配はちょっときつめで、路面には落ち葉や枯れ枝が散乱しているので慎重に上って行きます。
第一カーブの手前で頭上が開けますが、ここはぐんと斜度が増してエッチラオッチラ。
いろは坂ではないけれどこの旧道のカーブには番号が振ってあり、現在何番目のカーブにいるのか分るようになっています。いろは坂は有名なのでいくつまであるのか分っていますが、こちらはさほど有名でないので、いったい峠までいくつのカーブをこなさなければならないのか誰も知りません。まあそれでも、カーブの数を数えるのが楽しみとは言えそうです。
峠道ですからカーブがあるのは当たり前っですが、この序盤はヘアピンカーブ続きです。
それを廻って廻って、また廻って進めば、『10.7km←足尾|細尾→1.3km』の標識が建っています。この標識のすぐ先に細尾側のゲートがあります。このゲートは冬場以外は閉じられないようなので、この道は車やバイクも走れるのですが、これらはほとんど通りません。
ゲートのすぐ先で空が開くと、そこにはR122を跨ぐ日足跨道橋が架かっています。
R122はこのすぐ南で日足トンネルに入って細尾峠をくぐり、足尾に抜けていきます。このトンネルと新道のおかげで、今私たちが走っている道はほとんど自転車専用道のようになったのです。
日足跨道橋を渡ってさらに先に進めば、
『おっ、ちょっと紅葉、始まっていますね〜』 と、シングルギアでこの峠道に挑むサトちゃん。
最盛期の紅葉はもちろん素晴らしいのですが、こうした色付き始めは、山全体がいろいろな色に包まれるのが良いところ。
赤、オレンジ色、紫、黄緑色、黄色、緑色と、ここは楽しい。
こんなふうにいろいろな種類の木があるのでその変化が素晴らしいと、今年は日光周辺を攻めることにしたサトちゃん。
周囲にきれいな色が出てくると、道が上りであることはあまり意識せずに進むようになりますが、それでもやっぱり時々きつい坂道が現れるのでした。道はご覧のように落ち葉と枯れ枝で埋もれそうなくらいです。
そうそう、この道は勾配の取り方に少し特徴があり、ヘアピンカーブのところで急勾配のあとは、しばらく横走りするかなり緩い坂になります。
標高が900mを超えたあたりから周囲は広葉樹に変わります。
緑からうっすらと黄色みを帯びていく木々。
中にはこんなオレンジ色になった木も。
ここはパステルとクレヨンを合わせたようなクレパスで描いたような色です。
高度が上がるにつれ、周囲に色付いた木が多くなってきます。
ハッとするような鮮やかな色はないけれど、じわっと心に滲みる、そんな色合いの紅葉が続きます。
この道は一本道なので迷いようがありません。ということで道案内不要とあって、気が向いたものが先頭に出ます。
『しっとりしていていい道ね!』 と、ここが気に入った様子のサリーナが先を行きます。
峠まで6割ほど上ったところに小さな滝が落ちていました。
この木は黄葉。カツラかな?
手前に緑色を残す木。その奥に赤い色がちらちらっと見え隠れしています。
紅葉を眺めながらゆっくり高度を上げていきます。
七割ほど上ったところで、左手に薬師岳が見えてきました。先ほどから木々の合間から覗いていた紅葉は、この山の下の方のそれです。
このデリケートな紅葉のグラデーションに、ここまで上ってきた甲斐があったという面々。(TOP写真)
この日は山に入るとすぐ青空が消えて曇りになってしまいましたが、陽が照っているとここは逆光になるので、むしろ曇りで良かったのかもしれません。曇りでももっと明るい薄曇りなら、なお良かったのでしょうが。
しばらくはこの薬師岳を眺めながら上って行きますが、このあたりからまたヘアピンカーブの連続になります。
『いや〜、今回はヘアピンカーブだらけなんでかなりきついかと思っていたんですが、ギアを取り替えたおかげで楽ですわ〜』 とは、ローギアを増やして本ツアーに望んだマージコ。
いつの間にかカーブの番号は30を超えており、いくつか札の抜けたカーブもあって、知らぬ間に35だか36になっています。
地図を見ると残りのヘアピンカーブは三つか四つほどのようです。九合目あたりまでやってきた感じでしょうか。
38番のカーブを廻ると先に車が止まっているのが見えます。あそこが細尾峠です。
この道、ここまで車ともモーターバイクとも自転車とも、まったく出会いませんでした。出会ったのはハイクの人ただ一人だけです。ここに車でやってきている人はハイクの方でしょうか、それともきのこ狩りにでも来ているのでしょうか。
『細尾峠とうちゃ〜く』 と ”←細尾8.0km|足尾4.0km→”の標識の前でガッツポーズの面々。ここの標高は約 1,195mで出発点の東武日光駅が 545mですから、650m上ったことになります。
この峠は石垣の小さな切り通しで見晴らしはないので、呼吸を整え、ウィンドブレーカーを着たら足尾側に下り出します。
峠のすぐ先の勾配は穏やかですが、これはすぐに急勾配に変わります。足尾側は日光側より勾配がきついのです。
昨日までの雨で路面はウェットな上、落ち葉もかなり濡れているので慎重に下って行きます。
下り出すとすぐ、右手に半月山が見えてきます。
半月山は日光の紅葉時期によくマスコミに登場する名前で、半月山展望台から見下ろす中禅寺湖はこの時期、必ずと言っていいほどテレビに写し出されます。ここに来てちょっとだけ青空が顔を出してきました。
いくつかカーブを廻ると先に素晴らしい景色が広がっていました。
薬師岳から地蔵岳にかけて山の稜線が延びていき、それがずっと先まで続いています。僅かながら陽の光が戻ってきて、ここはいい感じです。
振り返れば、なんと青空が広がっていました。
やっぱり空が青いと、俄然気分が盛り上がります。
山の紅葉はまだまだこれからですが、道脇の木々はなかなかいい色になっています。
細尾峠は分水嶺になっており、北は日光市内を流れる大谷川が、南のこちら側は足尾で渡良瀬川に流れ込む神子内川(みこうちがわ)が流れています。
その神子内川の谷に両側から山が落ちてきています。
ここからはこれまで目を楽しませてくれた薬師岳をうしろにし、R122の日足トンネルの上を通り、地蔵坂と名の付いたヘアピンカーブを下って、神子内川の谷をさらに足尾にまで下って行きます。
地蔵坂は最大勾配14%というもの凄い坂な上に、きついヘアピンを描いているので写真はなし。ここは動画にあるかもしれません。
地蔵坂を下り終えるとちょうどそこに、神子内川に流れ込む小さな沢が滝状になって落ちています。
カーブも勾配も緩くなった道を、木漏れ日の中をゆっくり下って行くと、
右手に神子内川が流れるようになります。ここは見事なエメラルドグリーン!
足尾側の入口となるR122まで下ってきました。
ここにも峠道の案内標識がありますが、その下にデカデカと『熊出没中 注意』とあります。もちろん私たちは熊鈴、鳴らして走りましたよ〜
穏やかな下りのR122は快速路。ビューッと下って、ベネデッタと待ち合わせの昼飯処へ。
中華料理屋にやってきたベネデッタは、なんとお付きのプリンの車で登場したのにみんなびっくり。ベネデッタは直前になってこの日の前半の峠道が厳しいと判断し、午後の部だけの参加にしたのですが、いったいここまでどうやって来るのか、みんなで噂していたところだったのです。
みんなでワイワイガヤガヤやりながら食事をしていると、何と雨が! これが結構強くて、このあとも天候の回復はなさそうな状況になってきました。
午後の部は渡良瀬渓谷の左岸を行く予定でしたが、このコースは雨では楽しくないので足尾で上がることに決定。
ベネデッタとプリンは、まあ結果的には、お昼を食べに遥々ここまでやって来たということになりましたがな。お疲れさまでございます。
雨が上がったところでベネデッタとプリンと別れ、本隊は足尾駅に向かいます。
足尾駅の少し手前に神子内川の左岸を行く道があったので入ってみました。この道はR122とはまるで異なり、渡良瀬川左岸の道のような静かな雰囲気で、ジオポタ向きの道です。
足尾駅のすぐ北には、かつての足尾銅山の関連施設と考えられる長屋のようなこんな建物が建っていました。
現在は数棟しか残っていませんが、敷地の状況からするとこのあたりはかつてこれと同じような建物が並んでいたと容易に推測できます。
この建物の先にはこんな写真がありました。かつての足尾の中心部だそうです。
その写真の横には古河掛水倶楽部があります。
足尾銅山は1610年に鉱床が発見され、幕府直轄の鉱山として江戸時代には大いに栄えましたが、幕末から明治時代初期にかけてはほぼ閉山状態だったそうです。1877年(明治10年)に古河財閥の創業者がその経営に乗り出したことで、20世紀初頭には日本の銅産出量の40%の生産を上げるまでに成長しましたが、その後足尾鉱毒事件などがあり、1973年(昭和48年)に360年余り続いた歴史を閉じます。
古河掛水倶楽部は古河財閥時代の最盛期に迎賓館として建てられた施設で、時間があったら見学しても良いところだと思います。ここは標高が低い割りに、紅葉が進んでいて結構きれいでした。
わたらせ渓谷鐵道の足尾駅に到着。昼飯以降はほとんど雨に当たらずに、なんとかここまで辿り着くことができました。しかし昼飯の時に検討したように、この先の行程は雨の中を走る気にはなれないので、予定のとおりここで上がりにします。
この駅はわたらせ渓谷鐵道の中では大きな方だと思いますが、無人駅のようです。
足尾駅からは輪行で宿泊地の最寄り駅まで移動です。
次の列車は10分後、折り畳むのが間に合うか! ぎりぎりなんとか間に合って、たった一両だけのわたらせ渓谷鐵道に乗り込みました。
足利駅からこの列車には意外と大勢の人が乗り込んだのにびっくりしましたが、そのほとんどは旅行会社のツアーの人たちでした。足尾銅山の見学に来たのでしょうか。
この列車は外観はレトロな色合いですが、内装は新しく作り直したのか、明るいモダンな雰囲気です。最初はワンマン運転でしたが、どこかから車掌さんが乗り込んできて、切符を売って廻っています。
私たちは足尾駅から上神梅駅まで乗車しますが、この下車駅の名がわからず、『かみジンばい』と言ったらこれは『かみカンばい』だそうです。間藤は『カントウ』でも『マフジ』でもなく、『マトウ』、沢入は『サワイリ』ではなく『ソウリ』、小中は『ショウチュウ』ではなく『コナカ』だって。地名はむずかしいですね。
で、車掌さんから買った切符がこちら。左の欄には全部の駅名が書いてあり、乗車駅と下車駅にパンチを入れます。右側は料金欄。切符が二枚あるのは運賃の他に自転車の手荷物料金280円がかかるからです。
車掌さんと遊んでいたので足尾銅山の写真を撮るのを忘れてしまいましたが、付近にはその関連施設の残骸が残されています。
これは何かの工場だろうと思いますが、かなり痛々しい姿です。
車窓からはそんな足尾銅山関連の建物と渡良瀬川が見えます。
これは長屋でしょうか。ちょっと古い時代の映画に使われてもおかしくないような佇まいです。
ガトゴトと揺られること50分で上神梅駅に到着。
到着直前に前を見ると、今はもう使われていない線路がそのまま残されていました。
上神梅駅も当然無人駅です。ここも映画のロケに使われそうな雰囲気。
外に出てみて気付いたのですが、ここの路面は濡れていません。このあたりは雨は降らなかったようです。
足尾はバシャバシャだったのに。。。
上神梅駅から数百m行くと本日お世話になる宿に到着です。この宿、古民家ということだったのですが、これはどう見ても民家の造りではありません。外観からすると学校かなと思いましたが、内部を見るとそうではなさそうです。おかみさんに話を聞いてみると、建物は1922年(大正11年)築とのことで、銅山関係者のための旅館として建てられたらしいのですが、詳しいことは分らないそうです。
庭には大きな松の木があり、建物の脇には角地蔵さまがいらっしゃいます。庭先をトロッコ列車がカタンコトンと音をたてて通り過ぎる姿が目に浮かびます。ここの鉱泉の温度は15°Cしかないので沸かし湯ですが、長く浸かると身体がぽかぽかになりました。