朝起きると地面がかなり濡れています。昨夜は大雨だったようです。私たちが白馬に滞在する一週間は事前の天気予報ではずっと雨でしたが、最新情報では少し良い方に動いていて、今日は曇り。しかし午後に雨予報を出しているところもあるので要注意です。
夏の白馬の二日目は予定の通りに栂池自然園のハイキングをすることにしました。栂池自然園は白馬三山を見上げる標高2,000m付近にあり、湿原などの中を行く5.5kmの木道が整備されているところで、様々な高山植物に出会えるといいます。標高差は約165mで、まあトレッキングと言うよりはハイキングと言ってよいでしょう。
栂池自然園へは栂池高原からゴンドラ(6人乗り)とロープウェイ(71人乗り)を乗り継いで行きます。まずは栂池高原駅からゴンドラに乗車。
このゴンドラには名前があり、なんと『イヴ』と言うんだそうです。イヴがあるなら『アダム』もあるのか、と聞けば、このあたりの常連スキーヤーのレイが、『アダムは明日行く予定の八方尾根にあります。』と。
『イヴ』はどんどこどんどこ高度を上げて行きます。
うしろには栂池のまちとその東に連なる山々が見えます。
『イヴ』の乗車時間はかなり長くて20分。上の栂の森駅に到着しました。
栂の森駅からはロープウェイに乗り換えるのですが、その栂大門駅までちょっと移動。
ゴンドラとロープウェイはどう違うのか。両方とも索道ですが、小型のものはゴンドラ、大型のものはロープウェイと呼んでいるようです。ちなみに欧米ではここで言うゴンドラはゴンドラ・リフトかテレキャビン、ロープウェイはケーブルカーと呼ぶことが多いです。ロープじゃ切れちゃうからね。(笑)
ゴンドラに名前があったのでロープウェイにもあるのかと思いましたが、これはありませんでした。
ゴンドラは20分も乗ったのに、このロープウェイは僅かに5分の乗車で自然園駅に到着。
自然園駅からは舗装路を歩いて自然園の入口へ向かいます。
歩き出すとすぐに右手に沢が現れました。ロープウェイの乗員がここにはイワナがいると言っていたのですが、草木が生い茂り川辺には辿り着けず。
栂池自然園の入口にあるビジターセンターで身支度を整えます。
すぐ先には赤い屋根の栂池ヒュッテ記念館が立っていますがこの見学はあとにして、いざ自然園へ。
自然園はいきなり湿原から始まり、木道が続いています。
雲が低くたれ込めていて眺望がほとんどないのが残念ですが、お天気ならここからは白馬三山がきれいに見えたでしょう。
さて、本日のメンバーは左から、ガジット好きでリモコンでこの写真を撮ってくれた山ガールのレイナ。ヒマラヤに登った人をヒマラヤンとは呼ばないのか? ヒマラヤンじゃあなくてピアニストでもなく、単なるアルピニストのペタッチ。今日はトレッキングじゃあなくてハイキングで良かったのサイダー。山もスキーも大好きなレイ。今日はのんびり歩くだけよねのサリーナ。
イワナがいるよ〜とロープウェイの係員が言っていた小川を渡りますが、川は見えてもイワナは見えず。
その先にはミズバショウ湿原と呼ばれる湿原が広がっています。このあたりは初夏にはミズバショウで溢れるようですが、真夏にその花はありません。しかし別の小さな花があちこちに咲いています。
『昨日の小遠見山は登山やったけど、今日は平らなハイキングで良かった!』 とペタッチ。
さてはて、本当に平らなハイキングとなるのやら。
遠くの方にはきれいな花が咲いていますが木道付近にはなかなか咲いておらず、やっと見つけたのがこれ、オニシオガマ(鬼塩釜)。
オニシオガマはシオガマギクの仲間ですが、オニ(鬼)と付くように一般的なシオガマギク(塩釜菊)より背丈が大きくなるようです。
湿原から中木が生えるゾーンに入って行きます。
高地にありながら湿原があり湿度が高いここはジャングルの雰囲気。
チェックポイントの一つである風穴にやってきました。
湿地帯のすぐそばに岩があるのも珍しいと思いますが、その岩の隙間からひんやりした空気が流れ出てきます。穴の中には雪が残っていました。
風穴のすぐ先に巨大な葉っぱの植物が花を咲かせていました。レイナがGoogle先生に聞くと、これはキヌガサソウ(衣笠草)というものだそうです。
花の直径は8cm、放射状に広がった葉は長さ25cmとかなり大きく、これ自体が花に見えなくもありません。この花の色は最初は純白で、淡い紅色、そして淡い緑色と変化するそうです。いにしえの高貴な方の頭上に差しかけた衣笠に似ていることからその名が付いたとされます。
キヌガサソウの先にはこれまた大きなミズバショウ(水芭蕉)の葉っぱがありました。
ミズバショウは可憐な花のイメージが強いですが、花が終わると葉が成長してこんなに大きくなるんですね。
風穴の先で再び空間が開くとそこはワタスゲ湿原と呼ばれるところです。
ぎゃー、雲が低い〜!
山の眺望ゼロ。(泣) しかし、へたをするとあの雲の中に突入し雨ということもありうるので、今日は雨に当たらなければ良しとしましょう。
ここでほっぺたが赤い雀よりちょっと大きい鳥を発見。嘘です。ちがった、ウソです。いえいえ、『ウソ』という名の鳥です。
『ウソつくな〜』と鳴くからウソです。嘘です。『ヒーホー』と口笛を吹くように鳴くのですが、古くは口笛のことを『うそ』と言ったからウソです。ホントです。
ちなみにほっぺたが赤いのはオスだけでメスは赤くありません。これはウソではなくホントです。
ワタスゲ湿原にワタスゲ(綿菅)がなくっちゃウソだろ、と思っていたら、ありました、ワタスゲ。
フカフカの綿帽子のようなこれは綿毛と呼ばれますが、実は一般的な花の花弁や顎に当たる花被片です。
ワタスゲの別名はスズメノケヤリ(雀の毛槍)。なるほど、雀の大名行列ではこれを天に突き上げてクルクルやるんですね。
チングルマ(珍車、稚児車)はバラ科の高山植物で小さな白い花を咲かせます。高山植物の中ではかなりポピュラーなのですが、その花が終わるとこうなります。(右の三つ)
種を作ったチングルマはその上にある雌しべだったものを長くぐるぐると伸ばし、綿毛となるのです。チングルマの名は、『稚児』(幼児)が遊ぶ『風車』に見立てたことからとされています。ちなみに草にみえるチングルマですが、これは木ですよ〜
楠川までやってきました。
ビジターセンターからここまでは1km少々で、想像の通りにほぼ平坦で順調です。しかしまだ2割ほどしか来ていませんからね。
今日は曇りですが気温はそれなりに高く、歩いていると汗びっしょりになります。
楠川の流れは冷たく、ここで軽く水浴びをして身体を冷やしました。←サイダーだけ(笑)
ニッコウキスゲとともに先ほどからちらちらと姿を見せているクルマユリが木道のすぐ横に咲いていました。オレンジ色の花は園内には少ないので、これはよく目立ちます。
お正月などにユリ根を食べることがあると思いますが、このクルマユリの鱗茎も食べられるそうです。
かわいらしいハクサンフウロ(白山風露)の根はたぶん食べられません。
イブキトラノオ(伊吹虎の尾)はタデ科です。
タデ食う虫も好きずきです。ハエが一匹とまっていますがこのハエは、実を食べているのではなく花の蜜を吸っているのかもしれませんね。実は苦いが蜜は甘いか。
虎のしっぽがピンク色だったなんて知らんかった〜
この木は一瞬ハゼノキ(櫨の木)かと思いましたが、葉にギザギザがあるのでナナカマドでしょうか。もう紅葉が始まっていますね。
夏真っ盛りだというのに紅葉ってどうよ、と思いますが、ここは標高が高いので朝晩の気温は結構低いのでしょう。
サンカヨウ(山荷葉)の実です。ブルーベリーのような青紫色で食べられるといいますが、ブルーベリーほどおいしくはありません。
この実がなる前にはかわいらしい白い花を付けます。
楠川から上りが始まります。栂池自然園は入口付近は比較的平らなのですが奥はアップダウンがあり、標高差も165mほどあるのです。
最初はそうきつくはありませんが、そのうち結構な勾配になってアヘアヘです。
ここに多い針葉樹は樅の木の仲間で、オオシラビソ(大白檜曽:別名アオモリトドマツ)といいます。このオオシラビソの木は3年に1度実を付けるそうで、今年がその年なのか、そこらじゅうで青紫色の松ボックリのようなものを見ることができます。青紫色なのは夏で、10月ごろには茶色くなり笠を開いてはじけます。
この地域では昔からこの木は『つがの木』と呼ばれており、『栂池』という地名の元になったと言われています。また、冬の北国で樹氷を見たことがある方も多いと思いますが、その多くはこの木が形成しています。
上りが終わりちょっと下ると、先に浮島湿原が広がっています。
楠川からここまでちょっときつかったのでベンチで休憩。
ベンチがあるところのすぐ先は分岐で、左は浮島湿原周回路、右は銀名水やモウセン池方面です。
私たちは右の銀名水・モウセン池方面へ進みました。
ほどなく遊歩道は上りになり、その廻りにニッコウキスゲ(日光黄菅)の群落が現れました。
今年はニッコウキスゲの当たり年だそうで、結構咲いています。
ニッコウキスゲは一日花と呼ばれる類いのもので、一つの花は一日だけ咲いて萎んでしまい、再び咲くことはありません。
ここでレイナが『日光でなくてもニッコウキスゲって言うんですか?』 と。
はい、お答えしましょう。
この花は正式にはゼンテイカ(禅庭花)といいますが、様々な場所で様々な呼び名が付けられたのです。日光の他にも、たとえば東京のムサシノキスゲ(ニッコウキスゲの変種とされる)や山形県の飛島で発見されたトビシマカンゾウ(ニッコウキスゲの島嶼型とされる)などがあります。しかし日光周辺の群落が有名であるため、ニッコウキスゲの名が広く知られるようになったのです。ですから栂池で咲いていてもこれはツガイケキスゲではなく、ニッコウキスゲです。
しとやかな印象のリンドウは色がきれい。
たぶんこれはオヤマリンドウでしょう。この花は完全には開かず、写真の状態から僅かに開くだけです。
このあたりは花がたくさん咲いているのはいいのですが、ご覧の通りに階段の連続でヘコヘコ。
『なんやサイダー! 今日は完全フラットコースかと思っていたのに、話がちがうやないか!!』 とペタッチ。
誰も完全フラットなんて言うてへんで〜、概ね平坦と言うただけやね。
階段がいったん終わって木道がフラットになると分岐が現れます。一方は水場へ、もう一方はモウセン池へ向かいます。
この水場というのが実はチェックポイントの銀命水だったようなのですが、ここではそれに気付かずにモウセン池へ向かってしまいました。
くっきりした顔つきの小さな白い花はゴゼンタチバナ(御前橘)。
葉は6枚できれいに並び、その中央に4枚の花びらが整然と開いています。名前は白山の最高峰『御前峰』にちなんでいるそうです。白山は石川県と福井県にまたがる山で花の種類が多く、この山にちなんだ名を持つ植物がたくさんあります。先ほど取り上げたハクサンフウロやここでも咲くハクサンコザクラ、そしてハクサンシャクナゲ、ハクサンイチゲなどなど。
地図に自然園全景を見渡せるポイントとあるあたりにやってきました。
今日はちょっと残念ですが、振り返ったヴューはこんなです。
モウセン池に到着。
モウセン池はなぜそう呼ばれるのかというとモウセンゴケ(毛氈苔)が生えているからのようです。
じっと目を凝らして探すと、ありましたモウセンゴケ。これです。
ご存知の方も多いと思いますがモウセンゴケは食虫植物の一種で、葉にある粘毛から粘液を分泌して虫を捕獲します。コケとありますがこれは立派は種子植物です。種子植物ですから当然花を咲かせるのですが、この花は小さな白色で、ネバネバくんに似合わずにとっても可憐なのに驚きます。
モウセンゴケを眺めながらモウセン池の畔で一服したら、展望湿原の展望デッキへ向かいます。
ところがモウセン池を出たとたん、道は木道からきつい上りの地道に変化。ゲロゲロ!
きっつい上りを克服すると再び木道になりました。その足下に咲くのはカラマツソウ(唐松草)の仲間。
ここにはカラマツソウの他にミヤマカラマツ(深山唐松)とモミジカラマツ(紅葉落葉松草、紅葉唐松)が咲くようなのですが、私には区別できません。
小さな白い繊細な花です。
展望湿原の展望デッキに到着。ここが自然園一周のほぼ真ん中の地点です。
晴れていればここからは、杓子岳、大雪渓、白馬岳、そして新潟県の最高峰である小蓮華岳などが見えるようなのですが。。。
空は真っ白!
この時はここで団体さんが食事をしていたので、パンフレットにある自然園内最高地点である標高2,020mにある次の展望台まで移動して食事をとることにしました。
展望湿原の展望デッキを出るとすぐにこんな小さなデッキがありました。この先は下っているのでレイナが、
『えっ、ここが最高地点? これが展望台・・・』 と。
『ここじゃあ、お弁当は広げられないよ!』 ということで、仕方なく先ほどの展望台に戻り、団体さんの休憩が終わるのを待つことに。
運良く団体さんの休憩はすぐに終わって席が空いたので、ここでお昼です。
今日の弁当の中身は早起きして作ったおむすびと、昨夜の残り物のダッチオーブンの鶏と野菜。
やっぱり自然の中で食べる弁当はおいしいです。ごちそうさまでした。
お昼を済ませたら展望湿原からヤセ尾根へ向かいます。
出だしは穏やかな勾配の木道でしたが、この先は急勾配の地道の上りでアヘアヘ。
先ほどから周囲の植生に変化があり、ここではアジサイの仲間のノリウツギ(糊空木)が白い花を咲かせていました。
ヤセ尾根の入口には展望台がありました。あとで確認すると、実はここが自然園の最高地点の標高2,020m地点だったようです。
しかしここは視界ゼロでお昼は展望湿原で正解でした。
この展望台の先は見晴らしが良いというヤセ尾根で、周回ループの外側には雁股池や栂池があるのですが、これらはまったく見えず。
そしてヤセ尾根を少し行くと下りになるのですが、この下りが強烈な段差の階段の激下りでヨロヨロ。
上るのもきついですがこの下りは膝にきます。
だいぶ下ってくると紫色の花が咲いています。ツリガネニンジン(釣鐘人参)の仲間のソバナ(蕎麦菜・岨菜)でしょう。
もうちょっとで平らになる!
湿原と黄色い花が見えてきました。浮島湿原とニッコウキスゲです。
『わ〜、ここはニッコウキスゲでいっぱいね〜』 と感動するサリーナ。
この花は元気で健康的に見えます。
紫色はヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)。
檜扇とはヒノキでできた扇で、ヒオウギアヤメの名は葉の出方がこれに似ていることに由来するようです。
湿原の中に池を発見。
低い雲がこの景色を幻想的に見せてくれています。
あの白い綿帽子のワタスゲがたくさん。
そして大きな池の中には浮島が見えます。
ここは標高2,000m近くの高地なので、湿原は泥炭層でできるています。そんなところにある池を池塘(ちとう)と呼びます。
その中に浮かぶ浮島はその名の通りに浮かんでいるのですが、これは池岸の一部が離れたり、池底の泥炭が浮上したりしてできます。
ワタスゲ湿原まで戻ってきました。やってきた時は南側の木道を通ったので、帰りは北側のそれを。
レイナは北側は山に近いのでアップダウンがあるのではと言うのですが、ここはフラットです。こちら側にはニッコウキスゲやクルマユリが咲いていました、
自然園の入口付近で木イチゴを発見。
子供の頃はよく摘んで食べたものですが、最近はまったく見掛けなくなりました。ほとんどが種なので食べずらいですけれどね。
一廻りして自然園を出ると、そこには『栂池ヒュッテ記念館』が立っています。
この栂池ヒュッテは1933年(昭和8年)に建てられた木造3階建ての山小屋で、北アルプスの登山や山スキーのベースハウスとして利用されましたが、1999年(平成11年)に移転。しかしこの旧ヒュッテは保存され、2002年(平成14年)に小谷村によって『栂池ヒュッテ記念館』として整備されたそうです。
内部には当時使われた山やスキーの道具、当時の写真なのが展示されています。
自然園を一周をして戻って来るまでパンフレットの案内では3.5〜4時間とありましたが、私たちは簡単な昼食休憩を含んでちょうど4時間でした。
さて、身支度を整えて下山しましょう。帰りももちろんケーブルカーとゴンドラリフト『イヴ』のお世話になります。
帰りがけに白馬三山の眺めが素晴らしい『天神の湯』で汗を流し、スーパーマーケットで買い出しをして宿へ。
昨日の夕食は豪華BBQにダッチオーブンでしたが、今日は手抜き料理を。前菜は切っただけ。モッツアレラチーズ、トマト、バジルのカプレーゼ。カプレーゼは『カプリ風の』という意味です。簡単でおいしい!
メインはレイナが持ってきてくれたレトルトのビーフシチューとカレーに、昨日の残り物の付け合わせ。
ごちそうさま〜
ところで今日の栂池自然園、意外とアップダウンがあってきつかったよね〜 というのが私たちの総括でした。
さて、明日はペタッチが昼過ぎに帰らなければならないというので忙しいです。朝6時に出発し、八方尾根自然研究路をトレッキング予定です。天気はどうやら大丈夫みたい。