グリュイエールの郊外、パキエール村の農家での目覚めは牛の鳴き声で。
窓から外を見ると、山の前に広がる牧草地の上に牛がたくさん。 農家の朝は早い。 窓の下では生まれたばかりの子猫が、親猫からお乳をもらっています。
農家の裏手に廻ってみると、牛小屋の端に子牛だけが集められています。 子牛はどうやらここで特別な餌を与えられるようです。 サイダーの前には干し草の山が。
そうそう、スイスの農家民宿の中にはこの干し草を敷き詰めたハイジ・ベッドを提供しているところもあります。 ただしそういった農家の宿泊予約は、インターネットがなかったり、現地のスイス・ドイツ語かフランス語しか話さないなど、難易度が少々高い。
この農家民宿は干し草のベッドではありません。 一応インターネットで予約はできますが、フランス語しか通じないのでちょっぴり大変でした。
ガラス張りのサンルームで朝食をいただき、この丘の下で一夜を過ごしたオットマッターのところへ向かいます。 朝日を浴びた草原が輝いています。
逆光のなかの山は今日これから走るグリュイエール湖の先の山です。 その山目掛けて草原を下れば、ここでも牛さんがのんびり草を食んでいました。
日本で良く見かける牛は白と黒のまだら模様のものが多いですね。 しかしこれまで見かけたスイスの牛は圧倒的に茶色のが多い。 それも全身茶色というのが。 ここにいたのは茶と白のまだら模様。 さっき見かけたのは白黒のまだら。 この二つのグループは草を食んでいるところも違います。 肉食用と乳牛の違いなのか、はて? ここの牛さん、ちっこいカウベルを付けているのがわかりますか? スイスの牛は必ずと言っていいほど、みなカウベルを付けているのです。
パキエールの駅前のホテルからオットマッターが合流。
『こんなちっこい村にも教会があるみたいだよ。 昨夜は鐘の音がガ〜ンゴ〜ンいってたよ。』 とまたまた鐘の音に悩まされたらしいオットマッターは、秋空のような雲が浮かぶ空を見上げながら、教会の塔を探します。 その教会はサイダーとサリーナの農家民宿へ行く途中にあったのでした。
爽やかな空と雲を見上げつつ、グリュイエールに向かいます。 今日はフリブールまで50kmほどと短いので、まずグリュイエールの駅前にあるチーズ工場を見学することにしました。
グリュイエールの南の山奥にあるモレゾン村には、伝統的な手法でチーズを作っている工場があるといいますが、そこまでの山登りはちょっと大変なので、こちらの現代的な工場を見ることにしたのです。 発酵から熟成までを、解説ビデオを見ながら一通り見ることが出来ます。
工場の入口にはチーズ・ショップがありました。 どれどれと味見するオットマッター。 スイス中のチーズが置いてありますが、やはりこの地のものが中心で、私たちはランチのサンドイッチ用に数種類をここで買い込みました。 このあたりが産地のヴァシュランはとてもおいしい。
チーズをチュックに詰め、グリュイエールを後にします。 向かうはグリュイエールの隣町ブロ、そこからグリュイエール湖の西湖畔に出るのです。
グリュイエールからブロまでは車の道で、ゆったり下ってゆったり上ります。 ここはグリュイエールという大観光地の近くの道ですが、車の通りは少なく、問題ありません。
ブロの町中を抜け、クイックターンで方向が変わると細い道になり、林の中のちょっとした上りです。 グリュイエール湖に向かうから下りかと思えば、しばらく上り基調のアップダウン。
グリュイエール湖はすぐに姿を見せるのかと思っていましたが、なかなか顔を出しません。 アップアップダウンをしばらく繰り返し、ようやく顔を見せたグリュイエール湖です。
湖が姿を現すと小さな村に入りました。 どうやらモルロン村のようです。 この村からは湖畔に続く枝道があるのですが、ちょっとした高度差があるので足が向きませんでした。 あとで考えればこの日は時間がたっぷりあったので、下りれば楽しかったかも、とちょっと残念に思います。
モルロン村からは湖を後ろに下りが始まりました。 一旦下って上り、上って下りの丘陵地が続きます。
道はグリュイエール湖から徐々に遠ざかっているようで、湖面は全く見えなくなりました。 湖の東にある山並みだけは、相変わらずずっと後ろまで伸びています。
ヴィッパンスで幹線道に出たあと1kmほどで再び枝道に入ると、そこからは上りです。
周辺はほとんどが牧草地、たまにその中にトウモロコシなどの畑が点在します。 その脇をえっこらえっこら上るサリーナ。
『あつくなってきた〜。 どこかで休憩しよ〜よ〜』 と叫びます。 しかしこのあたりの村はとてもとても小さく、カフェなどはありません。
しかも道端には木陰がほとんどありません。 しかしちょっと上ったおかげで、再びグリュイエール湖が見えてきました。
さらにわっせわっせと上っていると、道のすぐそばに大きな木を発見。 すごすごとその木陰に駆け寄ります。 この木立は管理された牧草地の中に立っているので、本当はむやみに入ってはいけないのですが。。
この木立の先では、農家のトラクターが牧草を刈り取っていました。
このあと道は一度幹線道に出、またカントリーロードに戻ります。 こういうふうに幹線とカントリーロードを行き来すると、幹線がいかになだらかで、反対にカントリーロードはいつもアップダウンなのが良くわかって面白い。
『お〜、村が見えた〜。 今度こそあそこで休憩しよ〜』 と村が現れるたびに期待しますが、この村の唯一のレストランは今日はお休み。 がび〜ん。
そうであればここは、木陰でお弁当休憩にしましょう。 と木陰を探しますが、これがまたまたなかなか見つからないのです。 ようやく牧草地の横の小さな林に辿り着き、グリュイエールやヴァシュランの入ったチーズサンドのお昼となりました。
『ヴァシュラン、うま〜〜い!』
チーズのランチのあとはサリーヌ川を横切り、フリブールへ向かいます。 ほどなくトウモロコシ畑の向こうに大きな街が見えてきました。 どうやらフリブールの手前のマルリーのようです。 このマルリーを通り抜け、再びサリーヌ川を渡るとフリブールに到着です。
フリブールはフリブール州の州都で、とても大きな町。 中心に近づくにつれ車の量も多くなってきます。 目抜き通りには自転車道こそないものの、黄色い破線で区分けされた自転車レーンが整備されていました。 このゾーンはタクシーと共用のせいもあると思いますが、丸々一車線の幅があり、安心して通れます。
駅前を通り越し、一先ずユースホステルに行きましたがチェックインは17時からなので、市内散策に出ました。
旧市街の中心ノヴァ・フリブルゴ広場に面して建つのは市庁舎( Hôtel de Ville)。 16世紀初頭の建造で、大きな赤茶の屋根と両側から上る階段、そしてとんがり帽子の時計塔が目に付きます。 広場には彫像のある聖ジョルジョの噴水。
奥へ進むとフリブールのシンボルともいうべき聖ニコラ大聖堂の塔がひときわ高く聳えていました。 大聖堂の入口の上には、14世紀造の最後の審判の彫刻があります。
聖ニコラ大聖堂の先のザウランジャン橋の袂に辿り着くと、下にサリーヌ川、そして屋根付きのベルン橋が見えます。 フリブールの旧市街は聖ニコラ大聖堂がある高台と、ベルン橋がある川沿いの下手とに分かれているのです。
ツェーリンゲン橋を渡れば大聖堂方面が一望にできます。 私たちは橋の脇にあるカフェのテラスで、この眺めを楽しみながら一休み。 ちなみにこのツェーリンゲン橋は上下二段になっていて、下の段は歩行者用で、サリーヌ川の川面近くで両岸を繋いでいます。
ここからは翌19日朝の散策の様子です。 市庁舎のある通りグランクリュの奥から下に下り、スタルダンからサマリティーヌ通りに出ます。 通りの真ん中には噴水があり、その真ん中の柱の上には彫像が載っています。 ここフリブールにはこういった噴水と彫像があちこちにあります。
ランダ通りにある、ハーフティンバーの張り出し部分を持つアウグスティヌス教会。
下の街の、半島のように突き出した先端まで行くとベルン橋です。 大聖堂が上の街のシンボルなら、このベルン橋は下の街のシンボルといえるでしょう。 対岸までワンスパンかと思いましたが、実は川の中に一本橋脚が建っていました。 この橋は車も通りますが、その時は少しミシミシと音がするのは愛嬌でしょう。
半島のベルン橋の反対側にあるのがミリュウ橋。 こちらは石造の橋で、サリーヌ川に沿う高台の景色がいいです。
ミリュウ橋を渡ると細い尖塔が二本並んで建っています。 フリブールはカトリックの重要な拠点の街だそうで、こういった教会や修道院があちこちにあります。
高台の大聖堂はここからもはっきり見えます。 まさに大聖堂はフリブールのシンボルですね。
サン・ジャン橋を渡ると上の街の下にやってきました。 ここから上の街へはフニクラがあります。 かなりレトロな雰囲気のこのフニクラは1899年に作られたそうで、なんと水力で動くのです。 水力って一体どうなっているんだ? ということで運転手さんに聞いてみました。
理屈はとても簡単。 上下にある2台の車は滑車を介してケーブルで繋がれています。 上の車に重石を載せると下に降り、反動で下の車が上に行くというもの。 この重石の変わりにタンクに水が入れられるのです。 もちろん下に下りた車の水は抜かれます。 この水、どうやらサリーヌ川から取られているようで、駅で出発を待っている間は川の匂いがします。
一分ほどで上の駅に到着。 ここからは上の街がなだらかに下って行く様子がわかります。 ツェーリンゲン公が築いた中世の都市フリブールはとても美しい。