ノッサ・セニョーラ・ダ・サウーデ礼拝堂
ポルトガル北部の旅から戻った私たちは、今日はリスボンでゆっくり過ごすことにしました。
丘の上にあるサン・ジョルジェ城からの眺めは素晴らしいとのことなので、この眺望をメインにし、その下に広がるアルファマを散策しようと思います。フィゲイラ広場近くの宿からお城まではまっすぐ向かうとすぐなのですが、お城の近くには眺めがいい展望台がいくつもあるので、そのうち一番北にある セニョーラ・ド・モンテ展望台に最初に向かうことにします。
宿を出て北に向かうとすぐ、マルティン・モニス広場です。周辺には現代的なビルが建ち並び、その足元にはトラムが停まっています。この広場は28番のトラムの起点なのです。
この広場の一角に、16世紀に建てられたバロックのノッサ・セニョーラ・ダ・サウーデ礼拝堂があります。バロックにしてはかなりおとなしいデザインなので、おそらく初期のものでしょう。
この礼拝堂の近くにはポルトガルの民族歌謡ファドの演奏に使われる、ギターラの碑が建っています。
丘の上にお城
広場の北まで進み小道に入ると、そこからは上りになります。この坂道の先の階段を上り、広い道に出ると、先の丘の上にお城が見えています。
ここからあそこまではまだ大分上らなければなりません。
激坂を上る
リスボンの坂道はみんなきついけれど、この先のそれもまた、大変な上りです。
年を取ったらこの坂はとても上れないでしょう。
セニョーラ・ド・モンテ展望台から4月25日橋方面を見る
うねうねとした道をえっこらよっこらと上って行くと、セニョーラ・ド・モンテ展望台に辿り着きます。
セニョーラ・ド・モンテは『山の上の聖母』という意味で、ここにはその名の教会があり、その前が展望台になっています。ここからは南、西、北への眺望があります。
グラサ展望台からお城を見る
セニョーラ・ド・モンテ展望台からお城方面に向かえば、小さなアウグスト・ジル庭園があり、その前のグラサ展望台に出ます。
ここはセニョーラ・ド・モンテ展望台より標高が高く、西側への眺望はとてもいいのですが、北側はセニョーラ・ド・モンテ展望台などにより塞がれています。しかしここからは、南側のお城がよく見えます。
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会
グラサ展望台を下るとサン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会の前に出ます。サン・ヴィセンテは12世紀にイスラム勢力からリスボンをキリスト教軍へもたらしたとされるリスボンの守護聖人で、デ・フォーラムは城壁の外という意味のようです。
これは17世紀に建てられた後期ルネサンス様式のマニエリスムの教会で、付属修道院を持っています。
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会内部
この教会のもとは、初代ポルトガル王アフォンソ一世により建てられた修道院で、ブラガンサ家の菩提寺でもあることから、かなり格式の高い教会のようです。
祭壇はバロック様式で華やか。
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会中庭
ここには中庭があり、
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会回廊
その周りに回廊が巡らされています。その回廊の腰壁にはアズレージョがびっしり。
これらはリスボン包囲戦など、この修道院の歴史を描いたもののようです。
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会屋上からの眺め
このアズレージョは回廊の上の屋上にまで及びます。アルファマの一角にあるここはテージョ川に近く、屋上からは広い川の彼方まで見渡せます。
この内部にはブラガンサ家のもの凄く立派な霊廟などがあります。
ちょっと変わったアズレージョ
サン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会を出ると、ちょっと変わったアズレージョが張り巡らされた建物が目に付きました。アズレージョというと、修道院でみた青と白のものを思い浮かべますが、この青と白のものができる前はもっといろいろな色彩が使われていました。これは古いものなのか新しいものなのかはわかりませんが、黄色やピンクが使われていて、ちょっと珍しい。
ここからは後ろにあるサンタ・クララ広場に向かいます。この広場では火曜日と土曜日に泥棒市が開かれるので、少しはそういったものがあるかと思ったのですが、木曜日のこの日は何もありませんでした。
サンタ・エングラシア教会
サンタ・クララ広場の南には、パンテオンことサンタ・エングラシア教会が建っています。
この教会は17世紀創立ですが、未完のまま放置され、20世紀半ばにやっとドームが載せられ、完成に至ります。
サンタ・エングラシア教会内部
ギリシャ十字の平面を持ち、大理石で装飾されています。
この建物は独裁者といわれるサラザールの時代に国立のパンテオンに指定され、有名なファド歌手のアマリア・ロドリゲスらが埋葬されています。
迷路のようなアルファマの路地
サンタ・エングラシア教会を出てちらっと脇道を覗けば、そこにはアルファマらしい、細くてうねうねした階段があるのでした。
アルファマの路地散策はあとにして、ここからはお城に向かいます。
お城近くから二つの展望台を見る
お城へは、その城壁の周囲を廻って行くことにします。
ここはある程度高いところなので、それなりの眺めがあります。お城の北からは朝行った二つの展望台が見えています。遠くの木が生えているところがセニョーラ・ド・モンテ展望台で、右の塔があるところがグラサ展望台。
サンタ・ジュスタのエレベーターとカルモ教会を見る
お城の西に来れば、そこからはサンタ・ジュスタのエレベーターやその後ろに建つカルモ教会が見えます。
お城の入口
ぐるりと城壁の下を1/4周ほどしてお城の入口に辿り着きました。
しかしチケット売り場には凄い行列ができています。ここはちょっと時間がかかりそうなので後日改めて来ることにして、アルファマを探索することにします。
トラムとサリーナ
お城から下ってリモエイロ通りに出ると、そこはトラム通りです。
リモエイロ通りを行くトラム
この道はリスボンの通りの中ではまずまずの広さがありますが、二車線のトラムの線路がそのほとんどを占めています。
ここには次から次にトラムがやってきて、私たちのすぐ横をすり抜けて行くので、ちょっと怖い。
サンタ・ルジア展望台からの眺め
このリモエイロ通りにはサンタ・ルジア展望台があります。
これまでの展望台からは東と南のテージョ川方面は見えませんでしたが、ここからはその両方が良く見渡せます。左上にみえるドームはサンタ・エングラシア教会で、右下にみえるのがサン・エステヴァン教会です。
ポルタス・ド・ソル広場
このサンタ・ルジア展望台のすぐ上にあるのがポルタス・ド・ソル広場。
聖人だか賢人だの像が建っていて、その後ろにはサン・ヴィセンテ・デ・フォーラム教会が見えています。
ポルタス・ド・ソル広場のカフェで
像の手前に気持ちよいカフェがあったので、ここで一休み。この広場の奥からはサンタ・ルジア展望台同様、アルファマが一望にできます。(TOP写真参照)
ここでのんびりしていて気づいたのですが、この広場はトラムの折り返し点の近くにあるようで、トラムがひっきりなしにやってきます。
ポルタス・ド・ソル広場のトラムとその後ろの博物館
ポルタス・ド・ソル広場に面して装飾芸術美術館があります。停まっているトラムの後ろの赤い建物がそれです。
ここは17世紀の貴族だか銀行家だかの館のようで、家具や貴金属、絵画などの当時のコレクションがずらり。
アルファマ
ポルタス・ド・ソル広場からはいよいよアルファマの佳境に入って行きます。
アルファマは1755年のリスボン地震で被害を受けなかったため、古い街がそのまま残っています。
複雑な迷路のような階段
ということで、道は狭く、そして高低差が大きいため、狭い階段が迷路のように繋がっています。
路地でおしゃべり
ここは上の窓からは洗濯物がぶら下がり、その下ではご近所さんが井戸端会議、その脇を若者がオートバイですり抜けて行くという、とても面白いところです。
路地先にサント・エステヴァン教会の尖塔
そんなごちゃっとした路地の先に、突然、すくっと教会の塔が見えたりするのも、面白い。
すり減った石畳の坂道
古くからの石畳はすり減って、真ん中がへこんでいます。
並んだ洗濯物
ここの洗濯物はかわいらしい。
アルファマの犬
こんなところでは犬ものんびりです。
公共の洗濯場
アルファマは古い街なので、古い公共施設である洗濯場が残っています。
今日では洗濯機や乾燥機は各家庭にあると思いますが、それでもこの公共の洗濯場は今も利用されています。
サン・ミゲル教会
アルファマの中央とも呼べそうな場所に建っているのが、このサン・ミゲル教会。
その前の広場は決して広くはないのですが、路地が極めて狭いので、ここに出るとはっとするくらい周囲が開けた印象です。
水場とトンネル
このあたりには洗濯場以外にも水場が数カ所あります。水場は実用的なものではあると思いますが、その設えは立派で、宗教と結びついているのか、それらしいモチーフの装飾がされていたりします。
この水場の横には建物の下をくぐり抜けるトンネルがあり、その壁にはアズレージョが嵌め込まれています。そのアズレージョには天使のようなものが描かれているので、ここ自体が教会と関係のある場所なのかもしれません。
アルファマ名物のイワシの塩焼き
このトンネルをくぐり抜けると、少し広い道に出ます。これは大聖堂に繋がる道で、この道端でアルファマ名物のイワシの塩焼きを焼いていました。
もっともこのイワシの塩焼きは最近めっきり少なくなったようで、ここでしか見かけませんでした。
大聖堂の壁
ほどなく大聖堂の後ろ側に出ました。そこにはもの凄く高い壁が建っています。
これは大聖堂のアプスのさらに後ろ側の塀のようなものです。
サント・アントニオ・デ・リシュボア教会
大聖堂の前にはサント・アントニオ・デ・リシュボア教会が建ち、その前をトラムが行ったり来たりしています。ここからトラムは大聖堂の北側を通り、ポルタス・ド・ソル広場に向かうのです。
この教会はパドヴァの聖アントニオに捧げられたもので、聖アントニオが生まれた場所に建てられているそうです。ここで6月に行われるサント・アントニオ祭では、リスボンの人々は焼いたイワシを肴に赤ワインを飲むのが習わしだそうです。ちなみに聖アントニオは縁結びの聖人とされていて、聖アントニオの日にプロポーズしたり結婚式を挙げる人は今でも多いそうです。
大聖堂
リスボンの大聖堂は12世紀に建設が始められた、リスボンで最も古い教会で、ロマネスクをベースに、時代時代でゴシックやバロックの要素が加えられています。
ファサードはまるで要塞のようなイメージで、銃眼付きの胸壁さえあります。これはレコンキスタ時代は、敵に攻め入られた場合は教会が敵を攻撃する拠点となったからで、ポルトガルの教会にはこれとよく似たものがあちこちにあります。
大聖堂内部正面
内部は交差廊を持つ三廊式で、天井はシンプルなトンネル・ボールト。
大聖堂内部見返り
この教会は当初よりバラ窓を持っていたようです。本堂はロマネスク様式のまま、かなりの程度保存されているようです。
大聖堂交差廊付近
内陣側はゴシックのようで、高窓から光が降り注いでいます。
ゴシックの歩廊
これは二階の歩廊の一部だったと思いますが、ゴシックのアーチの先にテージョ川が見えています。
大聖堂のゴシックの回廊
回廊は13世紀のゴシックですが、1755年のリスボン地震で損傷したようです。
しかし、現在もかなりの程度、当時の状態に近い姿で残っているようです。
回廊の中庭部
この回廊の中央には中庭があります。近年ここから古代ローマやアラブ、中世時代の遺構が発見されました。
発掘現場
ここはかなり興味深い。
都市は古い都市の上に築かれ、さらに新しい都市がまたその上に築かれるということを、ここは端的に示しています。
大聖堂とトラム
大聖堂で本日の昼の部はおしまい。
ここから宿までは歩いても大した時間はかかりませんが、トラムに乗って戻ることにします。
サリーナとトラム
大聖堂の一つ西側のラルゴ・ダ・マダレナにやってきたのは28番のトラムで、これなら宿のすぐ近くのマルティン・モニス広場に行くはずと、さっそく乗り込みます。
トラム車内
リスボンにはモダンな車両が走る路線とレトロな車両が走る路線がありますが、観光スポットが多いところは後者が走っているようです。
レトロな車両は内部もこんなふうに木がたくさん使われていて、雰囲気満点。
すれ違うトラム
このトラムは最高に楽しい。特に大聖堂からポルタス・ド・ソル広場まではカーブと坂道の連続で、遊園地のジェットコースター並みの面白さが味わえます。
狭い道のカーブでトラム同士がすれ違う時は、本当にぶつかるんじゃあないかという感じ。
ポルタス・ド・ソル広場を行くトラム
私たちを乗せたトラムはポルタス・ド・ソル広場を順調に通過し、先に進んで行きます。ところが、グラサでいきなり方向転換してしまいます。あれれ、このトラムはマルティン・モニス広場に行くんじゃあないの?
28番のトラムはマルティン・モニス行きとグラサ行きがあり、前者は数が少ないのだそうです。グラサで方向転換したトラムは、ポルタス・ド・ソル広場、大聖堂と戻って、そこからさらにエストレーラ聖堂方面に行ってしまうのかと思いましたが、運良く?宿の近くのフィゲイラ広場に行ってくれました。大聖堂付近を往復で楽しめて、これはこれで楽しかったです。
クルベ・デ・ファドの歌い手
一休みして、夜はポルトガルの民族歌謡ファドを聴きに行きます。宿の方が勧めてくれたのは、クルベ・デ・ファドというファドハウスです。 ファドハウスにもいろいろあり、狭く窮屈なところも多いようですが、ここはやや広めでゆったりしているようです。
ファドは21:30ごろから始まりますが、食事をするならその一時間前に行った方がいいということで、20:30に予約。女性二人、男性一人が歌うのを23:30ごろまで聴いて、店をあとにします。ファドが本当に盛り上がるのはこのあとで、それは午前2:00ごろまで続くらしいのですが、明日も早くから活動しなければならないので、ここで引き上げることにしたのです。
さて、その明日ですが、リスボンからバスで一時間ほどのオビドスに行き、そこから大西洋に面した港町ペニシェまでサイクリングです。