ロビオスの我らが宿
スペインのバイシャ・リミア-セーラ・ド・スレース自然公園の中にあるロビオスに連泊することにした私たちは、7月29日はのんびりすることにしました。
このあたりにはハイキングに適したところがたくさんあり、ゲイラと呼ばれる曲がりくねったローマ時代の道や2000年近く前のマイルストーン、ドルメン(支石墓)、クロムレック(環状列石)などに加え、美しい滝が見られるとのことですが、お天気が今ひとつだったのとこれまでの疲れが溜まっていたので、午前中は宿でまったりし、午後にロビオスの5km南にある温泉に行くことにしました。
先にカルド川の湖
時は14時、気温は19°Cでとても涼しい。ロビオスから向かうのはその名もオス・バーニョス。『ザ・温泉』みたいな名前の村です。
ロビオスからちょっと上ってそのあとは下りで快適。先にカルド川の湖が見えてきました。オス・バーニョスはあの湖の少し手前にあります。
カルド川沿いの公共浴場
道がカルド川に出会うと、オス・バーニョスです。ここの温泉はホテル内にあり、結構な値段がします。しかしご安心あれ。屋外に無料の公共の浴場が作られているのです。しかし更衣室がないのがなんともです。
カルド川の岸辺にあるこの四角いプール状のものがその公共の温泉です。ここに来ている人々の目的は主に日光浴のようで、裸になってごろごろしている人はいるのですが、温泉に浸かる人はごく僅かです。これはちょっともったいない気もします。私たちはまずここに浸かってみたのですが、このプールのような設えではそれも無理はないかもしれないな、という感じがしました。
カルド川の温泉
今日は肌寒く川に入る陽気ではないのですが、川にも人がいたので試しに入ってみると、なんとそこには温泉が引かれていて暖かい。石で囲まれた左のゾーンに温泉の出口があるのでそちらは熱く、サイダーが浸かっているところは温泉が川の水とより多く混じって、ぬるめ。
プールより、こっちの方が気分いいねえ〜
ガラーノ・ポニー?
温泉でリフレッシュしてロビオスに戻る途中、小型の馬を見かけました。
このあたりには小型のガラーノ・ポニーという野生馬がいるそうですが、これは飼われているので違うかもしれませんが、もしかしたらガラーノ・ポニーはこんなのかもしれません。
エスピゲイロ
温泉から戻り、少しゆっくりしてから夕食に向かいました。20時半にレストランに着いたのですが、なんとあと30分しないと開かないといいます。ここはポルトガルではなくスペインなのでした。ポルトガルでは20時ごろからぼちぼち夕食タイムが始まりますが、ここの日没はポルトガルより1時間遅い21時ですから、それ以前に夕食をとる人はほとんどいないのでしょう。
宿に戻るほどの時間でもないのでそのあたりをぶらぶらします。ロビオスはこのあたりでは大きい方の街で、通りにはレストランやホテルが何軒かあり、そこには街っぽい顔があります。しかしその通りから一歩奥に入ると、古い石造の民家が並んでいます。
エスピゲイロその2
そこには伝統的な石造の高床式穀物倉庫エスピゲイロも建っています。これには日本の高床式倉庫と同じように柱の上にねずみ返しがあります。多くは長さ3mほどのものですが、中にはそれをいくつか繋げたように長いものもあります。
ここで先ほど私たちが寄ったバールで働いている青年と出会い、この村のことを少し聞きました。エスピゲイロはポルトガルの呼び方で、ここでは違った呼び方をするということ、
石造の民家
そして、民家がどれも背の低い二階建なのは、上階は住まい、下階は農作業用の倉庫や家畜のスペースとして使われていたためであること、などを。
下階で飼われているニワトリ
かつてこの下階で飼われていた家畜は牛や豚が多かったそうですが、現在はそうしたものはおらず、せいぜいニワトリなどが飼われている程度です。おそらく養豚などは専門の職業として独立し、従来の方法での飼育はされなくなったのでしょう。
ここは山の奥のそのまた奥。入ったレストランはジビエがおいしいとのことで、野生のヤギのシチューを試してみました。これには栗やキノコが入っていて、想像していたような硬さや臭みはなく、とてもおいしかったです。
ジビエがあるのは当然として、もう一つはここにどうしてこれがあるのかというもの。それはホタテ貝です。オーブンで焼かれ、オリーブオイルと生のコリアンダーで味付けされています。これは日本のものよりはずっと小さいものの、やっぱりおいしい。でもレモンが付いていなかったのでもらって搾ると、さらにgoooood!
リマ川に下る
一夜明けた7月30日は快晴。しかし気温は12°Cとちょっと寒い。
今日も自然公園を走り抜け、ポルトガルのセニョーラ・ダ・ペネダに向かいます。
リマ川の橋を渡る
ロビオスを出るとすぐ、リマ川(リミア川)に出ます。穏やかなアップダウンを繰り返しつつも下って、この川に架かる橋を渡ります。
リマ川方面を見返る
橋を渡ると穏やかな上りが始まります。このあたりはどこを見ても山ばかり。
私たちが今いるのは、ペネダ山脈とジェレス山脈のちょうど間です。これは南を見ているのでジェレス山脈が見えているのだろうと思いますが、とにかく辺り中、山だらけなので判然としません。
最初の上り
広かった道がいつしか狭まり、道も直線からうねうねとしたカーブを描くようになります。
ア・イッラ
この上りはア・イッラの集落まで続きます。
ア・イッラから南の山を見る
ア・イッラは小さなぶどう畑などがある小さな農村のようです。
このあたりは傾斜地なのと岩がちで土地が痩せているのとで、大した畑はありません。この地方の主たる収入源は農業によるものらしいのですが、いったいどこで作物が採れるのかさっぱりわかりません。
エントリモ
ア・イッラを過ぎると、下って上り、下って上り、その間に小さな川を二本渡ってエントリモに辿り着きます。
ここに展望台があったのでちょっと休憩です。ここは遠くの山並みが美しい。
エントリモからアメイジョイラへ向かう
エントリモからは再び広い道になりアメイジョイラへ向かいます。肌寒かった気温もここにきて20°Cと、ちょうどよくなってきました。
しかし相変わらず道は上りです。
時々現れる集落
この道を上り詰めて行くと、時々集落が現れるのですが、これらはいずれも戸数が数えられるくらいの小さなものです。
上るサリーナ
ただ黙々とペダルを回し徐々に高度を上げて行きます。
ごつごつした岩場を行く
景色が変わってきました。
先ほどまで周囲にあった木がなくなり、一昨日も見た石が降り積もったような岩場になったのです。
見渡す限りの岩原
上れど上れど、続くのはこの石の原っぱばかりです。
アメイジョイラ手前
エントリモから8km、270mほど上ってもうすぐアメイジョイラに到着です。
アメイジョイラは峠になっていて、この頂上まであと一息というところでバールらしい建物が見えたので、そこで休憩しようと思ったら、これはバールではありませんでした。ショック! 仕方がないので木陰でジュースを飲みながら休憩です。
エントリモからここまでは平均勾配3%強しかなかったのに、なぜか辛く、1時間15分で270mしか上っていません。これはいつもの7割程度のスピードで、だいぶ遅い。
アメイジョイラから枝道に入る
アメイジョイラはスペインとポルトガルの国境のポルトガル側にある数軒だけの小さな村です。ここから再びポルトガルに入ります。民家の前でおばあさんを見かけましたが、真っ黒い服を着ています。このあたりのおばあさんはみな黒い服を着ているそうです。
アメイジョイラからは枝道を行くことにしました。ジオポタの鉄則、二本道があったら細い方を行け、をやったのですが。。
一旦小川まで下って、そこからすぐ上りが始まりました。この時いやな予感がしたので引き返すべきだったのですが、なにせ最初に下ってしまったので戻る気になれず、そのまま進んだのが失敗の元。
ばてばてサリーナ
小川からは20%はあろうかという超激坂上り! これにはまいった。
荒れた舗装の激坂を上る
そして路面はダートばりの荒々しい舗装で、かなり抵抗が大きい。
しかも午後になって気温は急上昇、30°Cまで跳ね上がっていて、へろへろ。
ぐるりと取り囲む山々
周りを取り囲む山々は険しさを見せずおっとりした表情なのに、この道は私たちに牙を剥いているようにさえ感じてきます。
小川と石橋
このあたりには無数の川が流れています。そしてそこにはこのあたりにごろごろしている石を使ったに違いない、眼鏡橋が架かっています。
こうしたものは普通なら歴史を感じたり、のどかな景色の一部として写るのだろうけれど、この時の私たちにそうした余裕はないのでした。
カストロ・ラボレイロの建物が見えた!
大きなカーブを二回繰り返して、道は少々長い直線になりました。
その道の先の上に赤い屋根の建物が見えています。あそこがカストロ・ラボレイロのようです。
ついに押しに
しかしこの最後の1kmはなんとも辛いもので、押しても自転車を持ち上げられないほどでした。
カストロ・ラボレイロから来た道を見返す
とにもかくにも、やっとの思いでこの坂を上り切り、カストロ・ラボレイロに到着。下から見えた建物はレストランだったので、とにかくそこまで行こうとしますが、上り切った坂の上から一歩も動くことができません。道端にへたり込んでしまいます。
このレストランからの眺めは最高で、私たちがやってきた方面が一望にできます。あの山の向こうからやって来たのかと思うと、ここまできつかったわけも分かります。
カストロ・ラボレイロ
レストランには観光客がいっぱいです。ここは黒い牧羊犬のカストロ・ラボレイロ・ドッグの産地として有名ですが、まさか彼らはこれを仕入れに来ているわけではないでしょう。ここは何かの観光地なのでしょうか。それとも単に国立公園の自然を楽しむためにやってきているのでしょうか。
ともかく一息付いてここでランチです。カストロ・ラボレイロは牧羊犬の他にスモークハムやスモークソーセージも有名らしいので、このハムの方を試してみました。しかしここのものはスモークされていませんでした。ちょっと残念。
カストロ・ラボレイロの教会
レストランで少しゆっくりして体力と気力を快復。カストロ・ラボレイロの中心に向かいます。
そこには9世紀の前ロマネスクの教会が建っています。
教会内部
これはシンプルで力強い。
黒服のおばあさん
ここはカストロというくらいなのでどこかにお城があったのだと思いますが、ここではすっかりそれを忘れていました。どうやらそれは遺跡として一部が残っており、私たちがあえいで上った激坂の脇の山の上にあるようです。
そうそう、ここにも黒い服のおばあさんが。
実はここにはアメイジョイラから枝道に入らずに、真っすぐ来ることができます。そうするとカストロ・ラボレイロに入る直前に架かる中世の石橋が見られたのですが。
Caminho de Santiago
カストロ・ラボレイロを出るとすぐ、道端の標識に『Caminho de Santiago』と貝殻マークが書かれています。この道はポルトガルからスペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼路のようです。
そういえば自転車で旅をしているので、時々『サンチャゴ・デ・コンポステーラへ行くの?』と聞かれます。
ラーマス・デ・モウロ
メインロードから少し離れた所に村が見えたので寄ってみました。
ここはラーマス・デ・モウロ。
ラーマス・デ・モウロの教会
ここにもカストロ・ラボレイロ同様にとても古い教会が建っています。
この山奥に人々は遥か昔から住み、古代ローマやこうしたキリスト教の古い時代の構造物を残したわけですから、これはちょっと驚きです。こうしたものがそのまま残されているのは、その後それらに変わる権力が及ばない地、つまり見捨てられた地であったともいえます。
森の中を行く
カストロ・ラボレイロからはちょっと上ってその後下りが続いていました。しかしその下りもラーマス・デ・モウロの先で終わり、森の中の上りになります。
ここは木陰で涼しく気持ちいいのですが、路面はまたあの石を固めたような荒い舗装に変わります。この森の端っこで赤牛が草を食んでいました。このあたりはバローサ牛でも有名らしいので、それでしょうか。
またもゴロゴロ岩と荒れた路面
その森が終わると周囲にはまたあのゴロゴロ岩が現れます。
もうごかんべんを〜
やっと下り
と思う頃、やっと道が下りに転じ、先の山が見えてきました。
左手の谷底には川が流れています。
セニョーラ・ダ・ペネダ
この流れに沿って下り続けると、下に赤い屋根の集落が現れます。
ようやくセニョーラ・ダ・ペネダに到着したようです。
セニョーラ・ダ・ペネダの聖堂
ここにはブラガの有名なボン・ジェズスのような階段を持つ聖堂が建っています。
セニョーラ・ダ・ペネダのセニョーラ(Senhora)は既婚女性を現すMrs.のようなものですが、実はこれは聖母マリアを意味する言葉でもあるようです。ここはペネダの聖母マリア、聖地なのです。
聖堂の横に建つ我らが宿
私たちの今宵の宿はこの聖堂のすぐ横に建っています。これは元はここに来る巡礼者のための施設だったようですが、現在は立派なホテルになっています。
まずはちょっと休憩をと、この広場でビール。珍しいことにつまみが出てきました。それは大きな黄色い豆のようなもので、茹でてあります、ジャイアントコーンにも少し似ていますが、これはなんだったのでしょうか。
聖堂の階段から広場を望む
聖堂は新しく、19世紀のもののようです。
三角形の広場の先にも階段が300mほど続き、
階段の下から聖堂を望む
そこには20の礼拝堂があります。この中はボン・ジェズス同様、キリストの生涯をモチーフにした彫刻などが置かれています。
岩山の下に建つ聖堂とホテル
セニョーラ・ダ・ペネダはこんなところです。
聖堂とホテルは岩山の下に建ち、その後ろに滝が落ちています。
セニョーラ・ダ・ペネダの黒服のおばあさん
村を散策すると、ここにも黒服のおばあさん。男性や若い女性に服装の決まりはないようです。
散策を終えると夕食タイムです。シャベス以降は山の中だったので必然的に食事は肉が多くなっていました。ここも大した魚介類はないだろうなと思っていたのですが、なんとポルトガルでも高級魚のタンボリール(あんこう)があるといいます。そこでアローシュ・デ・タンボリールを。これはいうなればあんこうのリゾット、というか、あんこうおじや。スープにはトマトも加わっていて、結構いけます。
前菜はスモークハムとヤギのチーズの蜂蜜といちごジャム添え。昼に食べられなかったスモークハムにここでありつくことができました。これは生ハムをスモークしたもので、普通の生ハムとは一味違い、ほんのりと香ばしい。そしてヤギのチーズの蜂蜜といちごジャム添えはちょっと考えにくい取り合わせなのですが、ここの名物のようです。これはあっさりしたヤギのチーズに蜂蜜といちごジャムの甘みと微妙な香りが混じって、なかなかのものでした。
さて、明日は山を下り、ポルトガル側のペネダ・ジェレス国立公園への入口の一つとなるソアージョを経由して、古代ローマの橋が残るポンテ・デ・リマに向かいます。