アレキパの二日目は自転車でちょっと郊外に出かけ、ミスティ山(Misti:5,822m)とチャチャニ山(Chachani:6,075m)を眺めます。
まずは昨日バイクをレンタルしたツアー会社までぶらぶら行きます。
朝のアルマス広場はとても爽やかで、みんなベンチに座っておしゃべりしたり、カテドラルや噴水の写真を撮ったりしています。
この広場には物売りのおばさんもたくさんやってきていて、土産物やフルーツなどを売っています。
アルマス広場から北に向かうと、先にサン・フランシスコ教会(Iglesia de San Francisco)とチャチャニ山が見えてきます。
このチャチャニ山の標高は6,000mを超え、原住民にとっては神聖な山の一つとされ、伝説や詩歌にその美しさが讃えられているそうです。
昨日は扉が閉じていたサン・フランシスコ教会ですが、この時は運良く開いていました。
この教会はメスティーソ(mestizo)様式で、内部は単一身廊の単純な構成で装飾もほとんどなく、天井は煉瓦のボールトがそのまま見えます。
サン・フランシスコ教会の前の道沿いにある、私たちが自転車を借りたツアー会社にやってきました。ドアを開けると、何やらスタッフがバタバタしています。彼女はどうやら今やってきたばかりのようです。
何でもストライキが起こって市内の交通が麻痺しており、出勤がひどく遅れてしまったのだそうです。でも自転車は通れるよね、と聞くと、自転車なら問題ないとのことでした。この時ストライキがどんなものなのか良く聞けばよかったのですが、私たちはこの事態をとても軽く見ていたのです。
自転車の準備が整い、いざ出発です。いったんアルマス広場まで戻り、宿に忘れた小物をピックアップし、予定のルートで南東に向かいます。
実はミスティ山もチャチャニ山もアレキパの北にあるのですが、南東のサバンディーア(Sabandía)あたりにはプレ・インカの段々畑があり、そこから見るこれらの山が、なかなか良さそうなのです。
アレキパはリマに次ぐペルー第二の都市なので、車は少なくありません。できるだけ交通量が少なそうな道を選んで、街の外に向かいます。
アレキパは古い街なので道路が狭く、街中からはミスティやチャチャニはあまり良く見えないのですが、大きな道の交差点に出ると、ミスティがドーンと見えました。
ドローレス通り(Av.Dolores)からダートに突入。
するとすぐに道の両側が畑になります。
その先にはあのチャチャニとミスティが並んで座っているのが見えます。
『わ〜、これはなかなか壮観な眺めだねぇ〜』 と、チャチャニとミスティを眺めながら走るサイダー。
しかしこのダート、なかなか進まずにヨロヨロです。
頂がたくさんあるチャチャニ。
ミスティは単独峰で、日系人からはペルー富士と呼ばれているそうです。確かに富士山に似ていなくもありませんね。ミスティは6,000m近い山ですが、ここの標高が2,300mあるので、偶然にもここから見えるミスティは富士山とほぼ同じ高さです。
この山も先住民にとってはチャチャニ同様、神聖な山の一つだそうです。アレキパの街中から見たときはチャチャニの方が迫力があるように思えたのですが、どうしてどうして、こうして見るとドーンとしたミスティもなかなか存在感があります。
ピサロ通り(Av.Pizarro)に出るとこの道は広い幹線道路の一つで、交通量が多くなります。
ピサロ通りから続くコロン通り(Calle Colón)から、ヌエバ(Nueva)という名の枝道に入ると、そこは大きな玉砂利をコンクリートで固めた道で、ボコボコ。マウンテンバイクといえど、この道は走りにくいです。
この道をちょっと行ったところでサイダーはヨロヨロ〜っと木陰に倒れ込みました。
『も、もう、わしはだめじゃ〜。さっきから苦しくて、も、もう走れん!』 と、情けないことを言い出します。
アレキパの標高は2,300mほどです。これは低い高度とは言えないかもしれませんが、高山病を発症するほどには高くないと思っていました。私たちは乗鞍山の畳平(標高2,700m)まで自転車で上ったことがありますが、その時でさえこんなに苦しくはありませんでした。しかし、サイダーのこの時の症状は頭がボーッとしており身体に力が入らず、まず間違いなく酸欠状態と考えられるものでした。つまり高山病といっていいのでしょう。
普通に歩いたりする分にはなんともないのですが、ちょっと激しい運動をすると、酸欠になってしまうのです。よく調べてみると、標高2,100mで酸素で飽和したヘモグロビンの量は急激に低下し始めるそうですから、この高度での高山病もあり得るということです。ちなみにこの時の気温は30°Cで、頭の真上からきつい日差しが降り注いでいましたから、こうした条件も影響しているかもしれません。
頭がボーッとしていて気付くのが遅くなりましたが、周囲には段々畑が広がっていました。ここはパウカルパタ(Paucarpata)というところです。
ペルーの段々畑(階段耕地)は石積みのインカ時代のものが有名ですが、ここのものはそれより古い時代のものだそうです。
少しの間木陰で休憩すると、サイダーはなんとか復活しました。ホッ! ゆっくりならどうにか走れそうです。
ボコボコ道をそろそろと進んで行くと、ちょっとした牧草地が現れました。その中に牛を連れて行くおばさんがいます。
この牧草地には牛のほかに、真っ黒なヤギと白いアルパカがいました。
アルパカとリャマの見分けはあちこちで勉強したので、典型的な特徴を備えている個体ならば分かるようになってきました。これは間違いなくアルパカです。
ソカバヤ川(Rio Socabaya)に出ると、その向こうの丘にコリパタ(Coripata)が見えます。今日の最初のチェックポイントは、あの丘の向こう側にあるユミナ公園(Parque Yumina)です。
コリパタに入ったところで今度はサリーナが不調を訴え出しました。どうもお腹の調子が良くないようです。朝食からはだいぶ時間が経っているので食あたりではありません。やはり暑さと空気が薄いことが原因でしょう。
サリーナの不調をよそに、景色は最高に。
ここから振り返れば、チャチャニとミスティの両山がよく見えます。
これら二つの山ではチャチャニの方が200mほど高く、そのためか山頂の雪はチャチャニの方が多いです。
しかし6,000mの山にしては少ないようにも感じますが、これはやはり緯度が低いためでしょう。
サリーナはなんとか走れそうだというので先へ進みます。
コリパタの縁をソカバヤ川に沿って進んで行くと、村はずれから再びダートになりました。
このダート、最初はまあまあ走れたのですが、すぐにゴロゴロ石になってしまい、アヘアヘ。
まあ、これぞマウンテンバイク・コースというものでしょうが、これはとても私たちの手に負えるものではなく、10m押し進んでは休憩、また10m押し進んでは休憩ということになってしまうのでした。
しかしこの道の周囲の景色はなかなかのものです。
石垣の向こう側は段々畑で、ここに植えられている白い花はそら豆です。
ゴロゴロ石道とチャチャニ、ミスティの両山です。
景色はいいけれど・・・
きつぅ〜〜
この時ばかりは、自分で作ったコースを恨めしく思いました。
しかし、上りはいつかは終わるもの。
なんとか終わりが見えて、高台でホッと一息付きます。
そこから見える景色は、正面にチャチャニ、下にプレ・インカの段々畑。
アレキパの街中は平らですが、そこから一歩外へ出るとすぐに丘陵地になり、そこには段々畑が築かれたのです。
急斜面は終わり、ほぼ平らになってはきたのですが、ここまで散々だったので心が凹んでいて、バイクに股がろうとする気がまったく起きないサリーナでした。
なんとかかんとか斜面を上り切りました。
背後にはあのミスティがドーン!
弧を描いたプレ・インカの段々畑の向こうに、チャチャニ、ミスティ、そしてピチュ・ピチュ(Pichu Pichu:5,664m)の三山が並んで見えます。
本日最初のチェックポイントのユミナ公園に辿り着きました。
正直、もうヘロヘロです。ここまでで何と予定より2時間半の遅れ。おいおい、このあとどうなる・・・
しかし幸いなことに、ユミナ公園は本日の最高標高地点。ここからは下りなのです。
ともかく次のチェックポイントのモリーナ・デ・サバンディーア(Molino de Sabandía)まで下って昼食にすることにしました。
道はアスファルト舗装。快適にビューンと下って、
モリーナ・デ・サバンディーアに到着です。ここは田園地帯にある1621年操業の製粉工場で、水を動力とした石臼で製粉を行っていたそうです。
入口には水路があり、その流れに沿って進んで行くとゲートがあります。このゲートは閉まっていましたが、脇にある鐘を鳴らすと開けてくれました。ゲートの中には大きな素焼きの瓶がたくさん並んでいて、なぜかその廻りを七面鳥がうろうろしています。
水路の水はやがて階段脇を落ちて、石造の建物の中に入って行きます。
建物は思ったより小規模で、そこにはかつて使われていた道具類が陳列されています。
その中に18世紀のものだという石臼がありました。この石臼は水車の力で動くような解説がどこかにあったように思うのですが、残念ながら構造はよく分かりませんでした。
これはかなり原始的な手動の穀物粉砕器でしょう。
浅い窪みがある平べったい石の上に小麦を載せ、丸い石でガリガリやるのだと思います。いやいや、バタン(Batan)とあるので、ガリガリではなくバタンバタンやるのでしょう。(笑)
モリーナ・デ・サバンディーアの見学を終えたら、昼食です。ここの入口付近にはレストランがあるのですが、なぜかこの日は休みです。どうしたんだろうと思って聞いてみると、ストライキの影響で今日は営業中止になったのだそうです。
ストライキ。この時はレストランの従業員の組合がストライキを起こしたのだと思ったのですが、実はそうではありませんでした。この真実はのちほど明らかになります。
レストランはないけれど小さな売店ならすぐそこにあるよ、というので、とりあえずそこで休憩です。ペルーのコーラといえばこれ、インカ・コーラ。こちらでは大人気だそうですが、このコーラ、とっても甘いです。
モリーナ・デ・サバンディーアを出て、レストランを探しながら走りますが、住宅地の端を行く道は砂利道で、それらしいところは一向に見つかりません。
ミスティは相変わらず存在感を示していますが、
道はソカバヤ川に沿って続いて行き、そのミスティとチャチャニが徐々に遠ざかっていきます。
ソカバヤ川が右に大きなカーブを描くと、予定ルートは今走っているメインの道を離れ、川辺に下りて行っています。
下りたらどこかで上らなければならないでしょう。もうダートの上りはこりごりなので、ここは少し遠回りでも今のメインの道を行くことにします。
ペルーには犬がたくさんいます。さすがにアレキパのような大きな町にはいませんが、そこからちょっと離れると、その辺をうろうろしています。
この犬たちの多くは特定の個人や家族が飼っているわけではなく、それでいて野良犬というのともちょっと違います。みんながちょとずつ世話をしている村犬とでもいうべきものです。
道はようやくアスファルト舗装になりました。普段なら細い道細い道とできるだけ細い道に入って行くのですが、この時ばかりは太い道、広い道と普段選ぶのとまったく違う道を探して進んで行きます。これは常識ですが、太い道、広い道の方が細い道より路面状態が良く、アップダウンも少ないのです。
かなり広いサラベリー通り(Av.Salaverry)に出て北に向かえば、あのチャチャニが正面に現れます。
ソコバヤ(Socabaya)というところにレストランの看板があったので入ってみました。
時は15時。だいぶ遅くなってしまいましたが、なんとか昼食にありつけそうです。とりあえず黄金水をゴクゴクしていると、ご主人が気を利かせてトウモロコシの素揚げのカンチータを持ってきてくれました。これはツマミの定番です。
食事を頼もうとすると、ご主人はちょっと困ったような顔をして、今日はストライキの影響で食材が入ってこなかったので、クイ以外はないといいます。おいおい、ここでもストライキかよ。いったいストライキってどんなもんなんだ? と始めてこの時、ストライキに興味が沸いたのですが、結局それ以上につっこんだ話にはなりませんでした。
クイはテンジクネズミで、これはアンデス地方の名物料理ではあるのですが、できればクスコ(Cusco)あたりで食べようと思っていました。でもそれしかないのであれば仕方ありません。まあ、一度はトライするつもりだったので、良しとしましょう。
出てきたのはクイ・チャクタード(Cuy Chactado)。これはクイを開いてフライにしたものです。ネズミというとちょっとなんですが、味はそうですね、鶏肉と豚肉のちょうど間のようなものと言えばいいでしょうか。しかし肉付きはあまり良くなく、骨が多くて、思ったほど量はありません。見た目はグロテスクですが、味は悪くありませんよ。
このレストランは段々畑の中にあります。かつてはここで農業をしていたそうですが、やり手が少なくなってしまったので、一部をつぶしてレストランにしたのだそうです。
この庭からはチャチャニとミスティがよく見えます。
食事を終えたら16時になっていました。このあとはアレキパの創設者の邸宅(La Mansion del Fundador)、サチャカ展望台(Mirador de Sachaca)、Eiffel設計の鉄橋(Puente Bolivar)、ヤナワラ展望台(Mirador de Yanahuara)といったところを廻ろうと思っていたのですが、もうこれは全部やめてアレキパに戻ることにしました。
ここからは舗装路でほぼ平坦。なんとかアレキパの中心部に辿り着きました。
アルマス広場のカテドラルは夕暮れ時も美しいです。
私たちの宿の屋上から見たミスティ山です。昨日より僅かに遅い時刻に撮影したので、周囲の雑多なものがぼんやりして、なんとか絵になりました。この山はやはり素晴らしい山です。
さて、今日のサイクリングですが、高山病と言えそうな症状でヨロヨロでしたが、プレ・インカの段々畑から見るミスティ山とチャチャニ山の景色は素晴らしかったです。
一日の疲れを洗い流すべくゆっくりシャワーを浴びて出てくると、サリーナがなにか騒がしい。私たちの Peru Hop からメールが入っていて、明日のバスは運行中止だそうです。いったいなぜ?
ストライキがどうのこうのと言うので、始めは Peru Hop がストライキに入ったのかと思いましたが実はそうではなく、ストライキを起こしている団体がアレキパの陸上交通を遮断していて、バスがアレキパに入れないのだそうです。この遮断は深夜は行わないので、今晩アレキパから出るバスがあればそれにすぐに飛び乗れといいます。さもなくば、飛行機はストライキの影響を受けないので、飛行機に乗れと。
さすがにこの時刻からのバス移動はきついです。で、飛行機を当たると、明日の朝の便で、リマ経由でならチチカカ湖近くのフリアカに行けることがわかりました。しかしインターネットは使い勝手が良くわからずに、仕方がないのでエアラインのオフィスに駆け足で行ってなんとか航空券を入手しました。
ということで今夜はゆっくり休んで、明日の朝、リマ経由でフリアカに飛びます。あ〜疲れた〜〜