ジャングルの夜が明けました。これが、宿泊しているガジートス・デ・ラス・ロカス・ロッジです。
道路に面したこの食堂棟は、マダムの娘さんがデザインしたという竹のモチーフの建物で、前面のヤシの木とともに存在感を醸し出しています。
日の出から間もない朝6時過ぎ、そろそろ起きだして仕事に向かう人たちがいます。
大通りの真ん中で寝ていたワンちゃんも、そろそろ起きて移動しなければいけませんね。
そんな朝の散歩を楽しんだサイダー。サリーナもそろそろ起きだして、食堂棟で朝食です。
ピカピカのキッチンでは、スタッフのお嬢さんが朝食準備中。
とりあえずと出てきたのは、バナナチップス。パリパリで甘さ控えめで、おいしい〜。
ガイドのエサウは、『ぼくはこれを食べ始めると止まらないんだ〜』。いつもお母さんがつくってくれたそうです。
朝食は、目玉焼きにバナナが添えてあります。このあたりでは、バナナが主食といってもいいのでしょうね。
そんな楽しい朝食ですが、先ほど朝7時頃から雨が降り始め、瞬く間にかなりの土砂降りになっています。あっという間に通りには泥の川が。
う〜ん、午前に予定していたラフィティングはできるのかなあ?
『とりあえず、天気の様子を見ましょう』とルイス。お天気には逆らえませんね。
のんびり朝食を食べている間にも土砂降りは続き、前の通りは水浸しになっています。『ここからラフティングできるんじゃあないの?』とエサウ。
なかなか止まない雨に、いったん部屋に戻って待機です。
『今は乾季じゃないの?』とサリーナが聞くと、『乾季だけど、こういう雨が降る時もなくはない。でも珍しいね』とエサウ。エサウは近くの村の出身で、この辺りの事情にとても詳しい。
部屋でダラダラと過ごすも、雨はなかなか止みません。ここは熱帯雨林で常に気温が高いということで、宿の部屋の窓にガラスはなく網戸だけで外気にさらされています。しかし、雨のため意外に気温が低く、涼しさにやられてちょっとグスグスしているサイダー。
そうこうしているうちに、もう昼になって『昼ご飯だよ〜』とエサウが呼びに来ました。そこでサリーナが食堂に持ってきたのは、ピサック日曜市で買った果物『グラナディージャ』です。どうやって食べるのかなとまごまごしていたら、エサウが手で剥いてくれました。なんだ、ミカンみたいなものかな。
いや、ミカンじゃなさそう。中には、ぬるっとしたジェルに包まれた黒い種がいっぱい詰まっています。ちょっと見は、カエルのタマゴ。。
見た目はそんな感じですが、結構甘くておいしい。種もあまり堅くなくてそのまま食べます。『ジャングルには変な果物がいっぱいあるんだよね〜』とはルイス。彼はクスコの出身です。
昼食は肉の煮込みシチューにご飯とバナナ添え。とても美味しいです。
雨はようやく小降りになってきましたが、これからどうするか。ルイスは『午後だけなので、ラフティングか、ジャングルのワカリナ村に車で行くかですね』と言います。
どちらかなら、サリーナはジャングルの村を見てみたいと言い、サイダーはアマゾンジャングルを流れる川を見たいと言います。それで、まず車でワカリナ村に行き、その後、ラフィティングで行くはずだったアタラヤの船着き場に車で行く予定をアレンジしてくれました。
午後2時過ぎ、小雨の中ピルコパタを車でスタート。ジャングルでは、車1台がやっと通れるダートを巧みに進んでいきます。
本来なら自転車で通るはずだったルートです。運転手のギード、ありがとう。
周囲は緑のジャングルに覆われていますが、
ときどきバナナやパイナップルの農園が開かれています。
途中には、さきほどまでの土砂降りで、道が濁流になっているところもあります。路面を確認しながら慎重に進んでいくギード。
このあたりに住む人たちはマチゲンカ(Matzigenka)といって、独自の言葉を持っています。エサウにいくつか教えてもらいました。
『アニョウィ』:こんにちは。『ノビケンビ』:こんにちは(さあ飲め!という意味もあるらしい)。『インタガ』:ありがとう。『カメティ』:OK・大丈夫、素晴らしい。
そして、ピルコパタを出てから40分ほど。ヤシの葉葺きの建物がいくつか見えてきました。ワカリナ村に到着です。
村の中央には広場があって、家屋が取り囲むように回りに建ち並んでいます。
屋根に幾重にも葺かれている葉が雨に濡れてしっとりと輝いています。
まずはエサウが村の見学について村長に挨拶に行きます。すると、村長は出かけているとのことで、娘さんが対応してくれることになりました。
娘さんは、村の中の建物の一つに案内してくれました。そこは、外の人たちに向けて展示をしたり研修したりする建物のようです。
そして、村の現在の暮らしについて説明してくれました。
工芸品づくりは重要な収入源の一つ。木の実からさまざまな装飾品をつくったり、木の皮の繊維で布を織ったり染めたり、伝統的な工芸品をつくって観光客に販売しています。
ここにはネックレスや腕輪など、かわいい装飾品が展示されています。
そして、日本でも馴染みのあるような竹を使った籠やバッグもあります。
これは弓矢の矢。これをつくれるのは、今は年配の男性一人だといいます。
では次に、工房を覗いてみましょう。
籠を持った女性の行く先の建物が工房になっています。
中に入ると、トタンやシートに囲まれた土間の上にゴザが敷かれ、そこが作業場となっています。
黙々と作業を続ける女性。
赤と黒の鮮やかな色の木の実をつないでアクセサリーをつくっているところです。とても色鮮やかですが、これは染めたのではなく天然色。
材料籠にはこの実だけでなく貝殻や別の色の実などが入っており、いろいろ組み合わせてデザインしています。
こちらのバッグは、糸をつくり、染めて編んでいく行程すべてが手作り。美しいステキなバッグです。
糸の太さを揃える道具は、缶詰の蓋に穴をあけたもの。木の皮や葉っぱからとった繊維を穴に通して同じ太さにしています。
大きな屋根の下で、女性たちが作業を続けます。いろいろと質問しながら説明してくれるのはエサウ、興味深そうに見ているのはルイス。
その向こうから覗いているのは、だ〜れ?
柵のあるベビーベッドにいた赤ちゃんでした。
お母さんは作業中だから、もうちょっとガマンしていい子にしててね。
村をぐるっと回ってみましょう。道ばたでエサウが見つけたのは黒い種子の入った草です。
『これ、アクセサリーの材料に使っていますね』とエサウ。
別の灰色の実を見つけ、『これもアクセサリーの材料』。
工芸品は、とても身近な天然材料でつくられています。
広場の奥の建物には、壁に子どもたちや動物の絵が描かれています。これは政府の支援でつくられた幼稚園。
次の建物も大きめです。『住宅じゃないの?』とサリーナが聞くと、『これらは住宅で、村の協同の建物だよ』とエサウ。
広場を囲むこれらの建物は協同のスペースで、居間や集会スペースなど、住まいの機能の一部を担っているもののようです。
この大きな建物は、講堂か体育館でしょうか。支援団体の援助を受けてつくられたもののようです。
広場を回っていると、変な木を見つけました。高い木の枝に、何かたくさんぶら下がっています。木の実にしては大きい?
『あれは鳥の巣。キゴシツリスドリ(Yellow-rumped cacique)だよ』とエサウが教えてくれました。
よく見ると、黒くて背中の一部が黄色い鳥が飛び回っています。大きさはヒヨドリくらいかな。
そして、別の木の枝の先にとまっているのは。『あれはヒメコンゴウインコ(Chestnut-fronted macaw)』とエサウ。なるほど、シルエットはインコですね。
ジャングルは鳥の宝庫のようです。
今度は道沿いの建物を訪れてみます。こちらは食事や台所、就寝のための住まいのようです。
その中央には水場が設けられていました。
水道が引かれ、ここで食事の支度や洗い物が行われています。
水場の回りを建物が取り囲み、洗い物が並び洗濯物がぶら下がり、その足元では鶏が駆け回る日常生活スペースです。
建物の一つに長い棒が立てかけてありました。『これは弓矢の弓』とエサウ。
弦はありませんでしたが、『こんな風に使うってことですよね』とサリーナがポーズ。ここに置いてあるということは、日常的に使っているんでしょうか?
『養殖場を見てみましょう』とエサウが建物の裏手に案内してくれました。そこには池があり、水は濁ってよく見えませんがときどきピチピチと魚のはねる水音がしています。
ここでは、ピアラクトゥス(通称『パコ』)が養殖されているそうです。昨夜フライで食べた魚です。魚の養殖も村の重要な収入源になっているそうです。
そして池のほとりの棒にくっついていたものは、カタツムリの卵。カタツムリももちろん食用です。
池の土手にあったのはサトイモみたいですね。栽培しているのだはと思うけど、集積して植える私たちの概念の『畑』とは違いますね。
住まいの裏手を歩いていると、ここにバナナ、あそこにヤシの木、足元にサトイモという感じで何だか楽しい。
水場に戻ってみると、女性たちが皮を剥いたキャッサバを洗って食事の支度中でした。
ヤシの実の向こうでは、若者たちが水場を囲んでおしゃべり中。
1時間半ほどの訪問でしたが、周囲の環境に溶け込んだワカリナ村の暮らしを覗かせてもらいました。
そして、村を去ろうと車に乗り込んだ時のこと。『あ。ちょっと待って』とエサウが道ばたから何かを取ってきました。
それは、『アチオテ(Achiote)』。赤い毛のはえた実がたくさんついています。
毛のはえた皮を剥くと赤い種と薄皮があり、それを染料にしてボディペイントに使うそうです。エサウに教えられて竹ヒゴのようなもので腕に模様を描き出したサイダー。
あとで調べてみたら、赤色の天然食用色素としてよく使われているそうで、日本語では『ベニノキ』といいます。
そこからしばらく進んだところで、『この辺で鳥を見よう!』とエサウ。車を停めてみんな外に出て、早速バードウォッチング開始。
ジャングルガイドのエサウは、ちゃんとバードウォッチング用の機材を準備しています。そして、本当に目ざとい。誰もわからないところを指差して、『ほら、あそこにいる!』とエサウ。
どこにいるか全くわからないままに撮った写真がこれ。どこに鳥がいるかわかりますか? 真ん中やや右の黒いしっぽは『アマゾンシャクケイ(Spix's guan)』。写真はしっぽだけですが、顔はニワトリのように顎に赤い肉垂があります。
他に、マンガに出てきそうな『チャミミチョウハシ(Chestnut-eared aracari)』、スズメくらいの小さな『シラガフタオタイランチョウ(Long-tailed tyrant)』、灰色の『ムシクイトビ(Plumbeous kite)』などを見ました。
楽しかったね〜、と満足してまた車に乗り込みます。バナナ園を通過。
そして、ピルコパタに戻ってきました。
ピルコパタから、今度は東に向かって川を渡ります。
橋でちょっと小休止。本体の橋の横には古い吊り橋がかかっていました。さすがに使ってないようですが。
この川は、すぐにマドレ・デ・ディオス川に合流します。
こちらは上流の方向を見たところ。
そうそう、今日は土砂降りの雨上がりということで、ホテルで長靴を借りて、サイダーとサリーナはこんな格好です。泥道にも分け入れそう。
まあ、ずっとギード運転の車移動なのでラクチンなんですけどね。
夕方5時を過ぎ、そろそろ日暮れが近づいています。やっと雲が分かれて晴れ間が見えてきました。
ジャングルの木々の間から、ときどき川が見えています。
これは、先ほどの支流が合流したマドレ・デ・ディオス川でしょう。
夕焼けのジャングルを進んでいきます。
すると、木々が開けているところに出ました。見晴し台です。
早速車を下りてみると、眼下には緑の海のような平たいジャングルが広がっています。
そして、そのジャングルの真ん中をマドレ・デ・ディオス川がうねうねと蛇行して流れています。
広いジャングルには雲のかけらが散らばり、その中を雄大に流れるマドレ・デ・ディオス川。『こんなアマゾンの景色が見たかった!』とサイダーも満足そうです。(TOP写真も)
ほどなく、アタラヤの集落に到着しました。小さな商店や宿泊所があるようです。
もっと北にアタラヤという名前の大きな町もありますが、そことは異なりここは小さな船着き場です。
もう日もほぼ暮れて、船の運航も終わりなのでしょう。船着き場にはほとんど人はおらず、船を停泊位置に並べていました。
船着き場のあたりの川幅は広く、ゆったりと静かにジャングルの中を流れています。
アンデスの東の山脈から発するマドレ・デ・ディオス川は、ピルコパタ、そしてこのアタラヤを通り、北東のマヌへ。そこからプエルト・マルドナードを経由してボリビアに入り、さらにブラジルとの国境を流れるマデイラ川まで至る、実に総延長1,150kmの雄大な流れです。
このあたりはまだまだ上流ということですね。
夕暮れの川を遡る船がかすかに見えます。
雄大な流れを感じながら、記念撮影。
今日は、午前中の雨のため残念ながらラフィティングはできませんでしたが、ジャングルの村を訪ね、マドレ・デ・ディオス川の雄大な流れを眺め、ほんのイントロ的ではありますが『アマゾンジャングル』を感じることができました。
明日はもうクスコに戻らなければなりません。どうか雨が降りませんように。