今日は、クスコ周辺のモライ遺跡とマラスの塩田を自転車で巡るツアーです。
朝、我々を迎えに来たのは、自転車で一緒に走るツアーガイドのレネ、そして運転手はルシオです。
クスコを出発して、まずは西に向かいます。
右手には壁のような山脈が連なり、その頂は白い雪を被っています。聖なる谷、ウルバンバ川の北に連なる山々で、最も高く突き出た山はサウアシライ(Sahuasiray 5,818m)でしょう。
サウアシライはジャングルツアーに向かう途中でも見ましたが、見る方角によって随分形が違いますね。
クスコを出ると、郊外の集落を抜けながら車は滑らかに走っていきます。
カチマヨ(Cachimayo)というところからは進路を北へと向けます。途中、アルパカさんがいたのは観光施設でしょうか。
車はチンチェーロ(Chinchero)に到着。自転車ツアーでは素通りの予定でしたが、ここにもインカの遺跡とその後建設されたカトリック教会があります。
大きなインカテラスと素晴らしい景色が楽しめるということなので、立ち寄ってみることにしました。ピサックで購入した共通チケットで入れます。
遺跡の入り口までは石畳の上り坂。その両側の白壁の建物にはカラフルな布やお土産品の店が並んでいます。
そんなお店を眺めながら坂道を上っていくと、遺跡の入り口となるアーチの門があります。
門をくぐると、その先には四角い広場があって、ここでも現地の人たちが美しいショールなどを売っています。まだ9時過ぎなので、これからお店を準備しようとしている人たちもいます。
そして、その広場からさらに1階分ほど上った高台に、塔のあるカトリック教会(Iglesia de Nuestra Señora de la Natividad)があります。
この教会は1607年、インカの神殿(王の宮殿?)跡の基壇の上に建てられており、ペルーでも最も早い時期に建てられたカトリック教会の一つとされています。
時間がなくて中には入りませんでしたが、教会入り口の壁にはキリストとマリア、聖人などの絵が描かれています。
教会内部の祭壇や壁画なども、見応えがあるそうです。
この教会のある基壇の上に立つと、下の広場、そして周囲の美しい山々の景色を楽しむことができます。
見えているのは、マチュピチュに繋がる聖なる谷の南側に位置する山々で、最も高い三角の白い山はサルカンタイ(Salcantay 6,271m)です。
チンチェーロとは『虹が生まれた町』を意味するそうで、この山々に囲まれた町にふさわしい名前ですね。
教会の北東には、小さな谷の南側に沿ってインカの遺跡が広がっています。
下の原っぱに降りる途中の階段の石壁は、いろいろな形の石を組み合わせるインカの石積みの技工でつくられています。
原っぱからさらに北に下っていくアンデネス(段々畑)もまた、石壁で支えられています。
この場所にはプレインカのキルケ(Killke)文明の人々が住んでおり、その後、インカの支配により43haに及ぶアンデネスが整備されたそうです。
ここでは様々な種類の作物がつくられたそうです。
『すごいね〜』とアンデネスに見入るサイダー、サリーナ。
原っぱに戻ってみると、アンデスの女性たちが何やら作業をしています。
近づいてみると、ジャガイモを乾燥させた保存食チューニョを作っているところでした。
チューニョの作り方は、地面にジャガイモを並べて夜の間に凍らせ、それが昼間の日射によって解凍され、それを繰り返してブヨブヨになったジャガイモを足で踏んで水分を取り、さらに乾燥させるのだそうです。
このようにすることで、保存食にするとともに、ジャガイモの毒であるソラニンを抜くのだそうです。さすが、先人の知恵ですね。作業中の女性と一緒に記念撮影。
チンチェーロを出発し、青空に雪山の景色を眺めながらしばらく西へ進んだ後、車はダートの脇道に入ります。
このあたりが自転車ツアーの出発地点です。
脇道には車はほとんどなく、牛飼いさんが牛を連れて通っていくのみです。
車から自転車を下ろしてもらい、ヘルメットや膝当てを付け、サドルの高さを調整。『こんな感じかな』とサイダー。
そして、いよいよ自転車出発。左からサリーナ、サイダー、レネが『行くぞ!』のポーズ。
レネを先頭に、青空の下を出発です。
ところで、このあたりは標高3,700mだということを忘れてはいけません。
最初のうちは緩やかな下りです。
正面には丘の麓にウアイポ湖、その手前にチェッケレク村(Cheqquerec)が見えます。村の方へと下っていきます。
村に入って大きく右折すると、今度は北東向きになり、ちょうど正面に白いサルカンタイ(Salcantay 6,271m)が現れました。
アドベの壁に囲まれた村の通りを抜けながら、『楽しいね〜!』と爽快に走るサリーナです。
村を抜けるとあたりに建物は全く見当たらず、雪山に囲まれた広い平原の真ん中を、赤茶色のダート道が通っていくのみ。
空は広く、大地も広く、人間は小さいねえ。。などと考えつつ、感動的に美しい風景の中を走ります。
景色はこれまでに見たことがない感動的なものですが、下りは終わってこのあたりからは平地。時々、小さな上りもあります。
上りと言ってもわずか2〜3%が数10m続く程度なのですが、それでも上りになった途端に足が重く、呼吸が苦しくなります。
ともかくさらに進んでいくと、大平原のまん真ん中に出てきました。
赤茶色の道がどこまでもまっすぐ続いています。このあたりは標高3,500m。平地を走っていても、足を動かしていると息苦しくなってきます。
『ちょっと待って〜、休憩しましょう。。』とサイダー。まだ出発して30分くらいですが、すでに心臓がバクバクでヘロヘロです。
ゆっくりと、雄大な景色を楽しみながら進みましょう。
そこに、砂埃を舞い上げながらサンドバギー軍団がやってきました。こんなツアーもあるんですね。
やあ、と挨拶を交わしながらサンドバギーがどんどん通っていきました。
サンドバギーが去ったあとは、私たちの他は人っ子一人おらず、静かな路肩でガイドのレネとおしゃべり。『やっぱり高地はキツイね〜』
私たちが初めて3,000mを超える高地に入ったのはチチカカ湖に来た時だから、もう9日も前のこと。高地順応が進んだと思っていたのですが、昨日までアマゾンジャングルにいたので高地順応はチャラになってしまったのでしょうか。
再び走り始めました。
なだらかな丘陵地の中をゆっくり走ります。
サイダーも元気を回復して、『行くぞ』のポーズ。
そして、右手の緩い丘が途切れたところに差し掛かると、『!!!』
6,271mのサルカンタイ山をはじめとした白い山々が、再び雄大な姿を見せてくれました。凄いです!
素晴らしい景色の中を走り続けます。
もちろん、ちょっと上り坂になればヘロヘロと息が切れますが、後ろからはルシオの運転するサポートカーが付いてきてくれているので安心。
『いや〜、ほんとに凄い景色だね〜』と調子が出てきたサイダーです。
ずっと正面に見えているのは、お馴染みサルカンタイ山、そしてその右側は聖なる谷の南側に聳えるビルカバンバ山塊です。
平原をまっすぐ走ってきたこの道ですが、目の前に谷が現れました。今は乾季なので水はほとんどありませんが、雨季になれば川が流れているのでしょう。ここだけ少し木も茂っています。
谷を降りて、また上ります。
谷を越え、再び平原に出ました。
緩い坂を上っていくと、
目の前には別の山並みが広がります。
ウルバンバ川の北に位置する山脈で、右側の雪と岩壁の山はチコン(Chicón 5,530m)。
『凄いね〜』とサリーナ。
進行方向にはチコン、左手にはサルカンタイと、5,000〜6,000m級の山々に囲まれながら、雄大なサイクリング。
再び進路を西にとり、正面にサルカンタイを眺めながらどんどん進みます。
そして、南からの道路と合流して小さな谷を越えます。南の道路からは車が何台も続いてやってきています。
その先に、モライ遺跡の入り口がありました。車で来た観光客の姿も結構見られます。
駐車場に自転車と車を停めて、早速中へ。
入り口を入るとすぐに、古代円形劇場のような丸く掘り込まれた遺跡が姿を現しました。
これがモライ遺跡です。
この丸く掘られた遺跡は一体何だったのでしょうか。やっぱり段々畑?
従来、これはインカの時代に農業試験場として使われたもので、段々畑の環境によって様々な作物の生育の違いを研究する場所だったと言われてきました。近年は、ここに灌漑設備が見つからないということで、儀式の場だったのではないかという説もあるそうです。
『そうは言っても、インカの灌漑設備は解明されていないものも多いからね』とレネ。
下まで下りてみると、こんな感じ。遺跡の大きさがわかりますね。
そして、テラスに設けられた階段がこれ。結構段差は高いです。
モライ遺跡の丸いテラスは、先ほど見たものが最大できれいに修復されていますが、他にも2つあります。
これは西にあるテラスで、石垣などを修復作業中でした。
そして、北にももう一つ修復中のテラスがあります。背景にはチコン山。
農業試験場か、あるいは儀式の場か。どちらにしても、驚くべき遺跡には違いありません。凄いぞ!モライ遺跡。
再び元のテラスに戻ってきて記念撮影。ところで、ここも標高3,500mなので一周するとかなりヘロヘロ。。
モライの遺跡を出発。しばらくは来た道を東へ戻っていきます。
そして途中から来た道とは分かれてマラスの町を目指します。
道は先ほどよりやや荒れ気味ですが、大平原をチコン山を眺めながら走っていきます。
そこに谷が現れました。
モライ遺跡の前にも同じ谷の南側を渡りましたが、ここの道はかなりワイルドで勾配もキツイ。レネとサイダーが下っていきます。
サリーナはちょっと無理。『こんなゴロゴロでボコボコの急なダートじゃあ、ひっくり返っちゃうよ〜』と押しです。
ゆっくり押して谷底に着いたまではよかったのですが。。
谷底からの上りも勾配はキツく、ゆっくり押して上ろうと思ったのですが、押し上ろうとすると頭がクラクラしてきました。
標高が高い上に日差しが強い中を走ってきたので、かなり消耗した様子。座り込んだりしながらも、何とか谷の上までやってきました。ヘナヘナと座り込むサリーナ。
しばらく休憩です。サイダーは元気、高地順応したのでしょうか。
ようやく自転車に乗れそうだということで、再び走り出すサリーナ。
右手の丘の上にある赤い建物が今日のランチの場所です。あと一息!
何とかレストランに到着。今日はまだ20kmほどしか走っていませんが、もうかなりヘロヘロ。
トウモロコシのジュース『チチャ・モラーダ』を飲み、そしてスープやパスタ、デザートのアイスクリームで何とか元気回復。
とはいえサリーナはかなり消耗したということで、自転車はここまでにして、ここからはサポートカーのお世話になることにしました。
マラスの町から北上して谷沿いに回り込むと、崖地に出てきました。
その対岸の崖にへばり付くような無数の白いテラス。これが『マラスの塩田』(Salineras de Maras)です。
白い塩田の池は、それぞれ広さ5m²・深さ30cmくらいのものが3,000もあるそうで、崖を蜂の巣のように埋め尽くしています。
塩を採取するための池が最初に作られたのは、ワリ文明(紀元500〜1,100年)の頃、あるいはそのさらに昔の紀元前のことだとも言われています。
塩田入り口は南側にあります。
車で南側へ回り込み、車を置いて歩いていくと、谷沿いの西の斜面を白い塩田が覆い、その先にはウルバンバ川の聖なる谷、そしてその北側の山々が聳える景色が広がっていました。
こんな風景はこれまで見たことがありません。
近づくと、塩田の池は長方形や三角おにぎり型などいろいろな形があり、その中を満たしている塩水も白から赤っぽいもの、茶色っぽいものなど微妙に色が違っていて美しい。
12世紀から14世紀の半ばまで、マラスはインカ帝国の支配下に置かれます。インカの人々にとって、食料の保存や調味料として、あるいはミイラづくりや宗教的な儀式のために塩は重要なものだったそうです。
塩田の所有と製塩はマラス近郊コミュニティの人々に委ねられました。そして、それは家族で代々受け継がれ、今もその家族の子孫が塩づくりを行っているといいます。
レネの説明によれば、これらの塩田は、近隣コミュニティの家族が8個くらいずつ所有しているそうです。
それらの家族が、何百年もの間、同じ方法で塩づくりを続けているのです。
しかし、こんなアンデスの山の中で塩水はどこから来ているのでしょうか。
それはこれ。この谷の上流、コリプヒオ(Qoripujio)山にある泉から湧き出る塩濃度の高い地下水です。この湧き水をいったん大きめの池に溜めて、そこから複雑に巡らされた水路を経由して各池に塩水が行きわたるようになっています。
この塩水を味見してみたサリーナとサイダー。『うわ〜しょっぱい!』
かなりの濃度の塩水です。アンデス山脈の隆起によって海水が閉じ込められたのでしょうか。そういえば、ボリビアのアルティプラーノにはウユニ塩湖という塩の大地がありますね。
塩田では、晴れて日差しの強い乾季(4月〜10月)に塩づくりが行われます。
手前の池の表面にはかなり塩が出てきているように見えますが、『収穫まではもう少しだね』とレネ。写真の池の縁の数カ所に、塩を集めた三角コーン型があるのがわかりますか?
マラスの塩田は、他では見られない貴重で美しい景観でした。この塩づくりが数百年、あるいは千年以上も続いているのです。
専門家によれば、マラスの塩は健康にも良いとされているそうです。この景観がこれからも受け継がれていくようにと願いながら、塩田をあとにしました。
さて、ここからは聖なる谷へと下り、ウルバンバを経由して本日の宿泊地オリャンタイタンボへ向かいます。
絶景のつづら折れを下っていくと、ウルバンバの町が見えてきました。
そして谷を下りたらそのままウルバンバ川に沿って西へ西へと向かいます。
谷の両側は屏風のような山々に囲まれています。
そしてオリャンタイタンボの入り口に到着。右折して坂道を上っていきます。
オリャンタイタンボはマチュピチュへの拠点の村でもあり観光客も多いはずですが、この入り口の道路は狭く、しかも石畳でかなり混雑しています。
つまり、この村は昔ながらの村の骨格が保たれているということでしょう。
村の中央の広場を通り過ぎ、
村の中心から少し北へ入ったところに、今宵の宿ペルー・ケチュアズ・ロッジがありました。
今日は、素晴らしい見所がいっぱいの1日でした。色鮮やかなチンチェーロ、そして自転車は昼食後無念のリタイアとなりましたが、午前中の絶景の平原ライドは最高に気持ちよかったです。稀有な景観のモライの遺跡、そしてマラスの塩田、どちらも素晴らしいものでした。
さて明日は、オリャンタイタンボにあるインカの遺跡をゆっくり巡ります。