昨日島一周をなんとかやり遂げた私たちですが、今日は三原山にアタックします。
おいしい朝食をいただいているうちに、帰りの船の出発港が宿のすぐ近くの岡田港と決まりました。ということで、荷物は三原山から降りてからピックアップすればいいので、必要な荷物だけ持って出発します。
三原山へ上るルートは、大きく分けて三つあります。元町から御神火スカイラインを使う。大島公園からあじさいレインボーラインを使う。元町と岡田の間にある三原山登山道路を使う。
御神火スカイラインは斜度がきつく、岡田からは距離もあります。あじさいレインボーラインは斜度は緩いが、大島公園まではちょっと距離がある。私たちは斜度はそこそこで、岡田からのアクセスが良い三原山登山道路を使うことにしました。
三原山登山道路は一周道路の一本内側の元町と岡田を繋ぐ道から始まるので、宿の前を通る一周道路を元町方面へ向かい、すぐにこの道に入ります。
すると道の両側が椿の木になり、しばらく行くと右手に椿花ガーデンが現れます。
椿花ガーデンには数百種の椿があり、10月から早咲きのものを見ることができるそうです。そうそう、かつてここにはリスの放し飼いをしていたリス村があったのですが、それは数年前に閉園になったとか。リスが客を引っ掻いたりしても昔はおおらかでしたが、近年は問題になることもあり、それに加えて台湾リスが特定外来種に指定され、駆除対象になったことが原因のようです。
『ちょっと待ったー。ここにスタンプがあるよ〜』 と、スタンプラリー好きのキルピコンナが叫びます。ということでここでちょっと小休止。このすぐ先で三原山登山道路に入るので、身支度を整えるのにもちょうどいいタイミングです。
椿花ガーデンでスタンプをポンと押し上着を脱いだら、南国的な樹木を横目に三原山登山道路へ向かいます。
三原山登山道路は登山道路という歩行者道のような名前を持っていますが、もちろん車が通れる立派な道で、入口にはきちんと道路名の表示も出ています。
これに入ると斜度が増して、いよいよ本格的な上りが始まります。周囲は鬱蒼とした森で、もちろん椿も咲いています。
何の工事だか、大量の土砂を搬入しているらしきところを通り過ぎると、椿の森公園に到着です。その標識の前で、小径車デビューの記念撮影はクッキーでした。
ここの椿はかなりの大木で、園内には散策路が整備されています。椿は昔からこの島に自生しており、防風林として、また幹は燃料の炭として利用されてきたそうです。この森は椿油を採るためのものだそうで、道を隔てた向かい側の森では、椿の実を拾う体験ツアーが行われるそうです。
椿の森公園でひと呼吸付いたら、再び三原山登山道路を上ります。
大島に自生する椿はヤブツバキで、その赤い花があちこちで路上に落ちているのが目に入ります。
椿の森公園からも森の中を行きますが、ところどころで北側に眺望が開けます。
うしろには、岡田と大島公園の間にあるぽっこりした小山が見えています。
三原山登山道路はほぼ一定の勾配で比較的上りやすい道ですが、あじさいレインボーラインが近付くとちょっと斜度が増します。
この片側が開けたあたりが前半でもっともきついところです。『わ〜』とか『う=』とか呻きつつ、みんななんとか上って行きます。
『あじさいレインボーラインまで行くと少し緩やかになりますから、もうちょっとがんばりましょ〜』 と、先頭のサイダー。
『そろそろマジックで空飛ぶ絨毯出そうかな。。』 と、続くマージコ。
『マージコさん、早く出してよ〜〜』 と、帽子のキルピコンナ。
ついにうねうね道が終わり、あじさいレインボーラインとの交差点に辿り着きました。ここまで来れば一段落と、ひと息付きます。
ここから先の三原山登山道路の脇には『さざんかの道』の標識があるので、ツバキではなくサザンカが植えられているのでしょう。ツバキとサザンカはパッと見には判然としませんが、ツバキの花は花びらを散らすことなくポトッと落ち、サザンカのそれは花びらを散らして落ちるようです。
交差点から先へ進むと、しばらくはサザンカとおぼしきものがきれいに並べられて植えられていましたが、いつの間にかそれはなくなったようで、サリーナの頭の上にはヤブツバキと見える真っ赤な小さな花が咲いています。
『あそこになにかいる〜』 という声が。一匹の猿が道を渡って森の中へ消えて行きました。この猿は台湾ザルで、昨日見た台湾リスと同様、元は島にいなかったのですが、戦前に動物園から逃げ出したものが野生化したと考えられています。名産の明日葉やハトヤウリを食べてしまうので、これも駆除対象となっているそうです。
周囲の植生が変わり、常緑樹が少なくなって落葉樹が目立つようになると、緩やかだった道の勾配がまた上昇。
ここはえっこらよっこらとゆっくり進んで行きます。
カーブを回って道が直線になると、大島温泉ホテルの横を通り過ぎます。そしてもう一度道が方向を変えると、その先に小さな小屋が建っており、その前で一頭の馬が草を食んでいます。
この馬、普通の馬よりずんぐりしており、小柄です。これは与那国馬といい、日本最西端の島である与那国島に生息している日本の在来馬だそうです。
与那国馬のあたりから空間が開け空の面積がぐっと広がって、三原山が近いことを感じさせます。
しかしこのあと道の勾配は10%に。これはいったんは落ち着くものの、次にまた8%が。
『もうすぐ新火口展望台だよ〜』 という声に励まされ、なんとかペダルを回し続ける面々でした。
そして、なんとか新火口展望台に到着。(TOP写真) ここからは雄大な三原山の全景が見渡せます。この展望台はカルデラの北の縁にあり、すぐそこに見える黒い塊はB溶岩流。これは1986年(昭和61年)の割れ目噴火により流れ出たもので、これを噴出したB火口列は写真中央よりやや左手の尖ったところにあります。
『ここまで来ればあとはフラットで、登山口まではすぐですよ〜』 と、サイダー。
『平らならがんばるわ〜』 と、登山好きのレイナがダッシュ。
新火口展望台から三原山の登山口である三原山頂口まではあっという間。ちょっとした駐車場と数軒の茶屋の横をすり抜けると、山頂口展望台です。
山の左端にちょんと飛び出しているのがB火口、その右手のなだらかなところが1950-51年(昭和25-26年)の噴火が起こるまで最高峰だった剣ガ峰。右端から一つ入ったところにあるのが、それを抜いて最高峰となった三原新山(758m)。そしてこれらの土台である三原山自体は1777年(安永6年)の大噴火でできたものだそうです。
ここからは1986年の噴火の際の溶岩流が黒い縞模様のように見えます。その下の草に覆われている大部分は1950-51年の溶岩、左に見える丘状の部分は1777年の大噴火の溶岩から成るそうです。
さて、いよいよ三原山の山頂へ向かいます。
山頂口展望台からは少し下ってから上り出すのですが、いったん下ったところに馬に乗っている人たちが。この馬は先ほど見た与那国馬で、ホースセラピーという体験乗馬のようなことを行っているようです。パッカパッカと気持ち良さそう。
ここから山頂へ向かうコースは二つあり、一つは山頂遊歩道という舗装路(案内板表示:2.2km、45分)を行くもので、もう一つは周回乗馬コース(2.8km、60分、表砂漠ルートとも)という未舗装路を行くものです。
私たちはあまり時間がないので山頂遊歩道を使います。
上り出すとすぐに、ススキ野原の中にあの真っ黒な溶岩流が現れます。
これが真っ赤になって流れる様を思うと、想像するだけで恐ろしい。
上り始めは穏やかだった道が、徐々に勾配を上げていきます。ここで、
『うしろ向きに上ると楽って本当〜』 とやってみ出すものが。
だいぶ上ってきました。ごつごつした溶岩が現れ、その向こうに三原神社の千木が見えます。
さらにその先には外輪山の縁。そしてそのすぐ手前に見えるのは、大雨のあとだけ出現するという幻の池と呼ばれるものか。
ヘアピンカーブをいくつも廻り、激坂を上ると、ようやく三原神社の鳥居の前に辿り着きました。ここが内輪山の縁に当たるところです。
山頂口展望台を出発してからここまで35分。展望台の案内表示は45分だったのでこれより私たちの方が少し早いのですが、神社の見学などを考えると案内の時間はだいたいいいところのようです。
この鳥居の奥にもう一つ鳥居があり、90度方向を変えると三原神社の社殿が建っています。この神社は度重なる噴火をくぐり抜けてきたと言われており、確かに1986年の溶岩もここを除けて流れています。
『晴れていればあのあたりに富士山、こっちには丹沢が見えるんだけどな〜』 と、北を眺めるレイナとキルピコンナ。
『あ〜、この日は残念ね。』
さて、ここからは火口一周コースに入ります。このコースは一般的にはお鉢巡りと呼ばれているもので、私たちはそれを時計廻りに。山頂火口の径は約800mです。
さすがに火口だけあり、ここに広がる風景は下の方とはまた違った迫力があります。そこら中に大きな溶岩の塊がごろごろしています。
その溶岩原の向こうの小高い丘に見えるのが剣ガ峰で、そこら中から白い煙りが立ち上っています。
目をその左にやれば、もっこりとした小山があります。あのあたりにB火口があります。
今回お鉢巡りを時計廻りにした理由は二つあり、一つは小さなB火口を先に、大火孔である竪穴状火孔を後に見た方がいいと思ったことと、もう一つは、うまくすればお鉢巡りの終盤から周回乗馬コースに入って戻ることができそうだったからです。
右手に三原新山が見えてきました。あそこから落ち込むのは大火孔の竪穴状火孔ですが、ここからはその側壁だけで、底は見えません。
火孔側壁は真っ赤です。溶岩の中の鉄分が酸化して赤くなったのでしょう。これはちょっと恐ろしいような色に見えます。
B火口が近付いてきました。その先にはなだらかな剣ガ峰の稜線が続いています。
ここの中央火口の内壁からは白い煙りがたくさん立ち上っています。火山のこうしたものにはたいてい有毒ガスが含まれていたり、硫黄の匂いがするのですが、ここはまったく匂いがしません。この白い煙りは火山性のガスではなく、土中に染み込んだ雨などが水蒸気になり、それが液体になったものだそうです。
とんがり帽子までやってきました。ここにB火口があります。
B火口は1986年の噴火によってできたもので、1kmに渡って8つの火口があるそうです。 これはそのうちのB2火口。
ここは小さいけれど、充分な迫力があります。火口って、やっぱりなにか恐ろしい! ここは外側に流れた溶岩の流れがよく分かるのもいいです。
その流れはこんなふう。
左手にぽこっとした山が見えますが、あそこがカルデラ壁(外輪山)です。それが右手に延びていき、途中でなくなります。三原山の北東側は溶岩が外輪山を押し流してしまったのか、カルデラの縁がはっきりしません。おおよそここのカルデラの径は4kmほどです。
B2火口の先は勾配のきつい上りになります。
この内輪山の東側一帯が、かつて三原山の最高峰だった剣ガ峰。
剣ガ峰を上って行くと、右手に竪穴状火孔が良く見えるところに出ます。
こうして見ると火孔のエッジは鋭く、刃物でスパッと抉り取られたようにも見えます。
上ってきた側を見返ると、赤い溶岩の先にB火口の小山、その先に外輪山が見えます。
この写真に人が写っているのですがわかりますか。それと比べると、ここがどんな空間か、少しは想像が付くでしょうか。
剣ガ峰のピークを過ぎると道は下りとなり、再び上って三原新山へと続いて行きます。
西の海が見えてきました。
その中に浮かぶのは、きれいな三角形の利島、その左に平べったい新島、式根島と神津島も見えているようです。
伊豆七島が見えるようになると、いよいよ三原山最大の見どころ、竪穴状火孔が近付きます。この火孔は内輪山の中心より南に寄っており、その底が見えるのはここ、南展望所と呼ばれるところだけです。
竪穴状火孔の直径は300m、深さは200mほどだそうです。 超高層ビルが一本丸々、あそこに入ってしまうことになりますね。
火孔底ってどんなものなのか。よく水が溜まっているのを目にするけれど、まさか孔は開いていないよね。ここのそれは火孔壁が崩落したのか、土砂が堆積しています。だからあそこまではもう、200mの高さはないのかな。この側壁からも白い噴気がモクモク。
大火孔を眺めたら三原新山を上って、下山の準備に入ります。
『あ〜、ここに天然のスチーム温泉が出てる〜』 と、蒸気が沸き立つところに走り寄るレイナでした。そして顔を近づけ、『これで美顔になれる〜〜』
このあと周回乗馬コースの下り口に辿り着きますが、これを行くだけの時間はなさそうなので、ぐるっと廻って火口一周コースの出発点の三原神社に戻ります。私たちがこのお鉢巡りに要した時間は55分で、案内の45分を10分超過しました。
結局、帰路も山頂遊歩道を使い、山頂口に戻りました。この登山に要した時間はスタートしてからちょうど二時間でした。
山頂口の出発予定時刻を少し超過していますが、くいしんぼのクッキーがどうしてもアイスクリームを食べたいというので、ここでさらに時間超過。おいおい、船に乗り遅れるぞ〜
なんとかアイスクリームを飲み込んで、いざ元町へ下ります。
山頂口から元町へは御神火スカイラインです。急勾配この道はスピードの出し過ぎに注意を。
ヘアピンカーブをいくつも回って下って行くと、下に大島空港が見えてきます。朝から曇りだった空は、ここに来て若干青みを帯びてきました。
火山に地震や噴火は付きものですが、これは想定外のことで、2013年(平成25年)10月に突然起こりました。関東地方を中心に各地に被害をもたらした台風26号は、ここ伊豆大島で120mm/h、800mm/日を越える雨を降らせ、土石流が起こったのです。
その場所がこの御神火スカイラインの周辺なのです。その復旧作業は徐々に進んでいるようです。
ぐわ〜ん、と下って元町に到着。港近くの食堂で伊豆大島最後の食事です。昨日は寿司だったので今日はお好みの定食を。
やっぱり『べっこう』がいいというものや、煮魚がいい、焼き魚がいいとそれぞれです。写真はメダイのカマ焼き。身をべっこうにしたあと残った頭でしょう。これは煮も焼きもおいしいです。
さて、元町でお腹を満たしたら岡田港へ向かいます。船が元町港発だったら温泉に浸かる予定でしたが、これは残念。
元町から岡田へは、大島一周道路と今朝三原山登山道路に入るまで使った道がありますが、後者は上りがきついので、ここは距離が延びるけれど一周道路を。
その大島一周道路も、実は岡田までは上りなのです。
しかも後半になるにつれ、きつくなるという・・・
心の慰めは道端の桜。染井吉野の片方の親でもある大島桜です。
まんか〜い!
岡田に入り、宿で荷物をピックアップしたら、激坂を下って岡田港へ。
埠頭には昨日私たちが乗ってきたさるびあ丸が入港していました。その前には、これから私たちが乗船するジェット船の姿も。
岡田港で私たちを出迎えてくれたのは『あんこ猫』。
これは伊豆大島の人気キャラクテールだそうです。
こちらは猫じゃないアンコさん。
スランプラリー好きのキルピコンナとクッキーが集めたスタンプのシートは、そのまま大島土産の抽選券になるそうです。この箱からくじを引いてね。ありゃりゃ、二人とも外れだって。
くじは外れだけれど、大島みやげには当たりがいっぱい。
『おみやげに買ったんだけれど、一個たべちゃった。』 と、早々に大島牛乳プリンを試すムカエルとマージコ。これはちょっとレトロな感じの、ほんわかした味だって。
この他、明日葉などの土産を買い入れ、東京行きのジェット船に乗り込みます。
通常はこの時間帯の東京行きは久里浜を経由するのですが、この船は臨時便で直行です。乗り込んだら1h45'で竹芝に到着。あっという間です。
大島一周と三原山アタックは無事完走することできました。ヤッホー! いや〜、どちらも素晴らしかったです。
この夜、クッキーは明日葉の若葉をサラダでバリバリ。これは苦みがほとんどなく結構いけるらしい。キルピコンナはまだ葉っぱが開いていない明日葉棒?を早々天ぷらで。若葉の棒は痛みやすいので、島の外にはあまり出ないとか。棒、ベリーグッドだそうです。